個生院の患者のみなさん

さとう たなか

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やっと、カーブの緩い道になった。正面の窓を見ると道路の左右から生えたアーチ状の木々がトンネルのように続いていた。急なのぼり斜面のカーブをいくつも回ったから、頭がふらふらする。車酔いを飲んでくればよかった。途中、集落の中を通ったから到着かと期待したが、何も無く通り過ぎ施設はまだ先なのかと俺はため息をついた。

「澄田さん、酔ったりしていませんか?」

先生の声を久々に聴いた。山のあまりたな急なカーブを必死に耐えていたせいで、すっかり会話が途絶えてしまっていたようだ。歯を食いしばっていたのか、口が開きにくい。

「はい。大丈夫です、」

乗せてもらって悪いから自分が少し酔い気味なのは伏せた。

「もうすぐで着きますので、辛抱してください。どうしても体調がすぐれないときは言ってくださいね」

そう先生が言ってすぐに、車はゆっくりとスピードを落とし、木々に埋もれていた道路の横道に入って行った。
その時は身の危険を感じ、緊張が走ったが、すぐにその心配はなくなった。
道の陰から、徐々に建物が見えてきた。車が一台もない駐車場の奥に汚れた壁の目立つ病院があった。そのまま駐車場に入り、病院の出入口前で車は止まった。

「お疲れさまでした。到着です」

先生が自分のシートベルトを外す。

「はい、ありがとうございます」

続いて自分もシートベルトを外す。運転席から降りた先生が先に後ろのドアを開いてくれたから荷物を持って車から降り、固まった体を伸ばす。
建物の壁にはさくら第一個生院の文字。そこから見上げると建物は正方形に近い形で、街の中にある新しくできた総合病院よりかは、昔からあってお年寄り達が利用するようなこじんまりとした病院のように感じた。
建物の窓が開いてたり、閉じていたり、カーテンが閉じていたり、開いていたり…。そこから人の話し声が聞こえてきて、俺は嬉しかった。
人がいる安心感。先生が車の中で話していることは嘘じゃなかった。自分のほかにも誰かがいる。同じ病気の人かもしれない。
やっと、治るんだ。そう思った。

「忘れ物は無さそうですね」

代わりに確認してくれたのか、先生が後ろのドアを閉じながら言った。自分が不思議そうに建物を見ていると思ったのか、先生は「古臭いですよね」と話始めた。

「昔は病院だったみたいです。途中、集落があったでしょう?あそこに住んでいる方々が利用していたのですが、経営困難で勤めていた方々はここを離れてしまったんです。勤めていた方々は今、麓で診療所を開いて時々あの集落の様子も見に来ているそうです」

「再利用って、やつ…?」

「はい。もともと合ったものを利用したほうが安く済むかと思いまして。しかし、建て替えなどで結局お金はかかってしまいましたけどね。今も借金の返済中です、」

先生は頭を掻いて困ったように笑った。よくみると先生の頭は白髪がちらほら見えた。苦労してるんだなと俺は心の中で労った。
「澄田さん、こっちです」すでに建物の入り口の扉を開いて待ってくれていた先生。扉は手動の引き戸だった。入るとまず目の前に受付と待合用の長椅子が壁沿いに2つ置かれていたが、人のいる気配はしない。

「澄田さん、少し休憩されますか?」

「いや、大丈夫です、」

「わかりました」

先生は受付の横のドアを開けて中に入り、鉛筆と紙を取り出し受付のテーブルの上に置く。

「では、着いて早々申し訳ございませんが、問診票のご記入をお願いします。ここにお名前、ご住所、症状を。···あ、こちら、ボードをお使い下さい」

「あ、はい、」

先生から鉛筆と問診票、ボードを受け取って、待合用の長椅子に座ると、どっと疲れが出て壁に背中を預けた。スマホを取り出して時間を確認すると駅を出てから2時間経過していた。
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