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夢のなかへ
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朝起きてその足で家のポストから新聞の朝刊を取る。
まだ誰も起きていないリビングの食卓の椅子で、しばらく朝刊を呼んでいると、妻が大きくあくびをしながらリビングにきた。
妻はパジャマの上にエプロンをして朝ごはんの支度を始める。
僕の前にある食卓のテーブルの上に食パンとスープを、妻が並べてくれて、朝刊を読みながら僕はそれを食べた。
「ねえ、あなた――起こしてきてくれない?」
読んでいた朝刊から顔を上げて、リビングにある壁掛け時計に目をやると7時を過ぎていた。
娘は8時までに学校に行かなければならない。
僕もそろそろ着替えないと。
食パンの最後の一口を食べて、朝刊を折りたたみ、娘の部屋に向かう。ノックして娘の部屋に入ると、目覚まし時計に手を乗せたまま、娘はまだ布団の中だった。
「――、起きろよ。もう7時だぞ」
言うと娘は布団の中で、もぞもぞと動いて手元の目覚まし時計を見て「あっ!」と叫んでがばっと起き上がった。僕はスーツに着替えて、歯を磨いて、ひげを剃って、髪を整えて、またリビングに戻った。
「寝坊した!なんでお父さん起こしてくれないの」
急いで制服の襟を整えながら、朝ご飯を詰め込む娘。
「夜更かししてるからでしょ」
と妻と娘言い合いがリビングでは行われていた。毎朝の恒例行事だ。
妻は娘との言い合いに加えて、弁当作りと忙しそうだ。僕は足元のキッチンのごみ箱のフタが浮いてるのが目に入った。
「今日ゴミの日だっけ」
「そうだよ。お願いしていい?」
「いいよ」
僕がごみをまとめている間も、焦る娘の足音が家中に響いていた。
まとめたゴミ袋と仕事用のカバンを持って玄関に向かった。
「じゃあ、行ってきます」
僕が玄関の戸を開けようとしたときだ。
「あなたお弁当!」
すっかり忘れていた。
「あっ、そうだった、ありがとう」
これも僕が弁当を持っていく日の恒例だった。僕も気を付けなければ。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
僕はもう一度。
「行ってきます」
バタバタと娘の足音が近づいてきた。
「時間ない!遅刻する!」
「お弁当は?」
「持った」
「いってらっしゃい」
次は寝坊しちゃだめよ、妻の言い方はそんな風にも聞こえた。
靴をトントンと履いて、行ってきますと言いながら娘は外に出た。
僕も続いて外に出た。
恒例行事。いつもの事。
今日の天気は、晴れだと思っていた。
でも雨なのか。
曇りなのか。
晴れなのかよくわからなくなった。
目の前が、真っ白になって灰色になって真っ暗になって、私は差し込んでいた日の光で目を覚ました。
ああ、自分が嫌になる。こんな夢を見るなんて。
枕に顔を押し付ける。
泊っているビジネスホテルの遮光カーテンは有能で、ほとんど光を通さない。辛うじてカーテンの隙間から入る日の光が無かったら夜の暗さと変わらない。
皮膚に当たる光の暖かさからして、もうお昼ごろなんじゃないかと思った。
ベットは壁側に寄せてあって、壁側に脱いだ服とか、下着があった。前に二人してパンツがなかなか見当たらなくて探したな。結局、二枚とも布団に埋もれていたっけ。今回は、すぐ目に入るように私が寝ていた枕の横に置いた。
体はうつ伏せで顔は窓の方を向いて寝ていた私の後ろから、大好きで可愛い寝息が聞こえてくる。
私はまだ寝ぼけて動かしにくい頭を動かして、寝息の聞こえたほうを向いた。
私の彼女はいつもみたいに私の方を向いて眠ってくれていた。布団を被っていない裸の彼女の肩が寒そうだったから、私は彼女の肩まで布団を被せてあげた。私の背中がすうっと寒くなるけれど、まあ、いいやって、布団ごと彼女を抱きしめた。
今は寒くなる季節だ。風邪をひかせてしまってはいけない。
起こしてしまったみたいで、まだ眠いと言いたげに彼女が小さく声をもらしながら、もぞもぞ動いた。私は胸が大きい方で、彼女の口と鼻を塞いでしまったみたいだった。
自分の胸が邪魔だ。
「ああ、ごめん」
そう言って彼女を抱きしめなおすと、彼女は私の頬に顔を摺り寄せてきてくれた。私の手は小さくて、か細い。寒くなった私の背中に回してくれた彼女の手は布団から出たばかりで温かかった。
彼女の足が私の両足の間に入り込む。
私には男性器がない。
私の体はごつごつしてなくて柔らかくて…。
私は女だ。
今は、彼女とできる範囲のセックスをした翌朝だ。いつもそれなりに、お互いに満足してるけれど、どうあがいても、うん、男女のようにはいかない。彼女を抱きしめる度に思う。くやしい、かなしい、好きになってごめんねって、好きになってくれてありがとうって。私と彼女が恋人同士になったばかりの時、私はわからなかったけど彼女は口に出して言っていたっけ。やっとわかった、こんな気持ちだったんだ。彼女は今でもずっとこの気持ちを持ったまま私の近くにいるのかな。だとしたら、心臓がえぐれるくらい辛いんじゃないか、私は、だって、すごく辛い。こんなにも辛い。
今いるビジネスホテルを隔てて、遠くで楽しそうな子供の声が聞こえる、その家族の声が響いてくる。
ああ、やだな。男になりたい、なんて。私はなんて不純で卑しい奴なんだろ。
そんなこと考えていたら、ムクりと顔を上げた彼女と目が合った。彼女は私と目が合うのが恥ずかしかったのか、私の首筋に顔を埋めた。それが愛おしかったから、私は彼女のうなじにキスをして、私たちはまた眠りについた。
ああ、ほんとに、自分が嫌になる。
まだ誰も起きていないリビングの食卓の椅子で、しばらく朝刊を呼んでいると、妻が大きくあくびをしながらリビングにきた。
妻はパジャマの上にエプロンをして朝ごはんの支度を始める。
僕の前にある食卓のテーブルの上に食パンとスープを、妻が並べてくれて、朝刊を読みながら僕はそれを食べた。
「ねえ、あなた――起こしてきてくれない?」
読んでいた朝刊から顔を上げて、リビングにある壁掛け時計に目をやると7時を過ぎていた。
娘は8時までに学校に行かなければならない。
僕もそろそろ着替えないと。
食パンの最後の一口を食べて、朝刊を折りたたみ、娘の部屋に向かう。ノックして娘の部屋に入ると、目覚まし時計に手を乗せたまま、娘はまだ布団の中だった。
「――、起きろよ。もう7時だぞ」
言うと娘は布団の中で、もぞもぞと動いて手元の目覚まし時計を見て「あっ!」と叫んでがばっと起き上がった。僕はスーツに着替えて、歯を磨いて、ひげを剃って、髪を整えて、またリビングに戻った。
「寝坊した!なんでお父さん起こしてくれないの」
急いで制服の襟を整えながら、朝ご飯を詰め込む娘。
「夜更かししてるからでしょ」
と妻と娘言い合いがリビングでは行われていた。毎朝の恒例行事だ。
妻は娘との言い合いに加えて、弁当作りと忙しそうだ。僕は足元のキッチンのごみ箱のフタが浮いてるのが目に入った。
「今日ゴミの日だっけ」
「そうだよ。お願いしていい?」
「いいよ」
僕がごみをまとめている間も、焦る娘の足音が家中に響いていた。
まとめたゴミ袋と仕事用のカバンを持って玄関に向かった。
「じゃあ、行ってきます」
僕が玄関の戸を開けようとしたときだ。
「あなたお弁当!」
すっかり忘れていた。
「あっ、そうだった、ありがとう」
これも僕が弁当を持っていく日の恒例だった。僕も気を付けなければ。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
僕はもう一度。
「行ってきます」
バタバタと娘の足音が近づいてきた。
「時間ない!遅刻する!」
「お弁当は?」
「持った」
「いってらっしゃい」
次は寝坊しちゃだめよ、妻の言い方はそんな風にも聞こえた。
靴をトントンと履いて、行ってきますと言いながら娘は外に出た。
僕も続いて外に出た。
恒例行事。いつもの事。
今日の天気は、晴れだと思っていた。
でも雨なのか。
曇りなのか。
晴れなのかよくわからなくなった。
目の前が、真っ白になって灰色になって真っ暗になって、私は差し込んでいた日の光で目を覚ました。
ああ、自分が嫌になる。こんな夢を見るなんて。
枕に顔を押し付ける。
泊っているビジネスホテルの遮光カーテンは有能で、ほとんど光を通さない。辛うじてカーテンの隙間から入る日の光が無かったら夜の暗さと変わらない。
皮膚に当たる光の暖かさからして、もうお昼ごろなんじゃないかと思った。
ベットは壁側に寄せてあって、壁側に脱いだ服とか、下着があった。前に二人してパンツがなかなか見当たらなくて探したな。結局、二枚とも布団に埋もれていたっけ。今回は、すぐ目に入るように私が寝ていた枕の横に置いた。
体はうつ伏せで顔は窓の方を向いて寝ていた私の後ろから、大好きで可愛い寝息が聞こえてくる。
私はまだ寝ぼけて動かしにくい頭を動かして、寝息の聞こえたほうを向いた。
私の彼女はいつもみたいに私の方を向いて眠ってくれていた。布団を被っていない裸の彼女の肩が寒そうだったから、私は彼女の肩まで布団を被せてあげた。私の背中がすうっと寒くなるけれど、まあ、いいやって、布団ごと彼女を抱きしめた。
今は寒くなる季節だ。風邪をひかせてしまってはいけない。
起こしてしまったみたいで、まだ眠いと言いたげに彼女が小さく声をもらしながら、もぞもぞ動いた。私は胸が大きい方で、彼女の口と鼻を塞いでしまったみたいだった。
自分の胸が邪魔だ。
「ああ、ごめん」
そう言って彼女を抱きしめなおすと、彼女は私の頬に顔を摺り寄せてきてくれた。私の手は小さくて、か細い。寒くなった私の背中に回してくれた彼女の手は布団から出たばかりで温かかった。
彼女の足が私の両足の間に入り込む。
私には男性器がない。
私の体はごつごつしてなくて柔らかくて…。
私は女だ。
今は、彼女とできる範囲のセックスをした翌朝だ。いつもそれなりに、お互いに満足してるけれど、どうあがいても、うん、男女のようにはいかない。彼女を抱きしめる度に思う。くやしい、かなしい、好きになってごめんねって、好きになってくれてありがとうって。私と彼女が恋人同士になったばかりの時、私はわからなかったけど彼女は口に出して言っていたっけ。やっとわかった、こんな気持ちだったんだ。彼女は今でもずっとこの気持ちを持ったまま私の近くにいるのかな。だとしたら、心臓がえぐれるくらい辛いんじゃないか、私は、だって、すごく辛い。こんなにも辛い。
今いるビジネスホテルを隔てて、遠くで楽しそうな子供の声が聞こえる、その家族の声が響いてくる。
ああ、やだな。男になりたい、なんて。私はなんて不純で卑しい奴なんだろ。
そんなこと考えていたら、ムクりと顔を上げた彼女と目が合った。彼女は私と目が合うのが恥ずかしかったのか、私の首筋に顔を埋めた。それが愛おしかったから、私は彼女のうなじにキスをして、私たちはまた眠りについた。
ああ、ほんとに、自分が嫌になる。
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