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第3章
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今日は文化祭の準備日。
毎年2年生は全員でお化け屋敷をやることになっている。
俺は美空とお化けが出る用の井戸を作ることになった。昇降口に学校側が準備した資材を取りに戻ってきた所だ。
俺らの教室の前で雨宮がクラス委員の生徒と話をしていた。
「なんしてんの」
「ああ、仲村、」
立ち止まって声をかけると雨宮とそのクラス委員は困った顔をしていた。
「聞いてよ」
おう。聞くぞ。
「井戸のお化け役の子が、やりたくないって言い出してさ」
この前、クラスの女子に決まった。
「なんで」
「気が変わったのかもね。女の子だし」
「ふーん」
「ただ、本人が口に出してやりたくないって言うから、それされると気分下がっちゃうでしょ?どうしようって思って」
「他の人いないの?」
「今声かけてるところ。みんな当日忙しいみたい」
「ああ、部活の出し物もあるもんな」
「誰かやってくれる人いないかなって」
あいにく、気軽に頼み事ができる程の仲の女子はいない。井戸のお化けはお化け屋敷のメインになるものだ。
これは一大事。
「井戸、どうしようね。風馬」
俺の後で話を聞いていた美空が言った。
俺は美空を見た。
俺より見下ろせるくらいの身長で体も細身。
顔も可愛い。
「美空お前暇だろ?」
「…えっ」
美空の表情が固まった。
本番当日。
雨宮が持ってきたゴスロリ衣装を着て、美空は井戸のお化け役に徹した。
非常時のために、美空と一緒に井戸の裏に待機していた。
井戸の前を通り過ぎる人、みんな絶叫していく。
小声で
「美空、いい感じ」
「疲れた、」
驚かして井戸の裏にしゃがみこむ。両手を膝の上に乗せて正座して座ってる姿が可愛い。女子の服を着ているからか仕草もそう見えてしまう。長髪ウィッグを被った美空は顔にかかった髪を手でかき分ける。
「もうさ、声なしでいいかな。のど乾いた」
舌をべぇーって出す美空。
「なんか買ってくる?」
「いい?」
「うん。待ってて」
俺は井戸から飛び出すと丁度お客さんと鉢合わせしてしまってお互いに絶叫してしまった。
趣旨と違う。
お茶を買って戻る途中、雨宮と出くわして、もうすぐ全体午前の部が終わって途中休憩になると言われた。
井戸がある教室の扉を開いた。
同時に可愛いゴスロリが出てきた。
「あっ!風馬!」
違う美空だった。
「どした?」
「来て」
焦っている美空。付いていくと井戸の前で口をあんぐり開けて白目向いて仰向けに倒れている前川がいた。
「うわ!死んでる!!」
「生きてるって!びっくりして倒れちゃったんだ、」
前川の横で「どうしよう、」とオロオロ狼狽してる美空。
「とにかく、保健室!」
美空は前川の腕を、俺は脚を抱えて、廊下を走った。
保健室のベッドに前川を寝かせる。午前の部の最後の客が前川だったから、この時間は持ち場を離れていていいけど、美空が前川のところから離れ様子がない。しばらくしても前川は目を覚まさない。
美空が保健室の時計を見る。
「どうしよう、時間…」
午後の部まで時間が無い。
美空は前川と時計を交互に見る。
「睦…、起きて、」
自分でも無意識に言ってた。
「俺が変わりにやるよ。美空ここにいな」
美空が俺を見た。
「風馬、でも、悪いよ、」
「暇だし、任せろ」
俺は美空の頭に手を置いた。ウィッグだから美空の髪の毛じゃない。
「服とか、どうするの、」
「まあ、なんとかなるだろ。クラス委員に聞いてみる」
「前川さんのこと見てやれな」って言って俺は保健室を出て行った。
…うわー、俺、めっちゃカッコつけてる。
笑いをこらえながら教室に戻った。
雨宮とクラス委員と話合って、俺が辞めたお化け役の人が着る予定だった衣装を着て井戸から飛び出すことになった。
午後の部が始まって美空と同じようにやってみた。
大体の人は驚いてくれたけど、一部の人はゴスロリお化けを期待していたらしく、違うじゃねーかって、毒をはかれた。
そんなやつらに美空のゴスロリ姿を見せたくない。って思った。
…。
午後の部が終わった。
俺は急いで保健室に向かった。
心配そうに前川を見ていた美空の顔が浮かぶ。
美空は大丈夫だろうか。
美空。
安心して待っててくれているかな。
保健室が見えた。
ドアは開いていたから、そのまま足を入れた。
あっ。
黒髪の子の頭の奥に目を閉じた前川さんの顔が重なっていた。
反射的に廊下側のドアの後ろに隠れた。
美空と前川だ。
いや、そうだよ。
そうだよな、あれ、そういうことだ。
背中のドア越しに話声が聞こえた。
内容までは聞き取れない。
冷たい。
足を見た。
裸足。
白の大きな布切れと、即興で作った黒のナイロンテープのかつらを被ってる俺。
なんだこの格好。
かつらを取った。
静電気でナイロンが腕に絡まる。
「おーい」
廊下の向こうから声がした。
「ああ、タツ、」
中学からの同級生の男だった。
なんか、久しぶりに会ったな。
「なに、その格好」
笑いながら、俺の肩に当たってきた。
「うっせーよ、お化けやってんの」
すぐ後に美空がいる。
「もう帰る?風馬」
俺は保健室から、離れた。タツも俺に着いてきた。
よし。
「ん?なに?」
「だから、今日帰るかって。俺久々に部活無いし、メシ食いに行かね?」
「んー」
「なに、乗り気じゃない?」
「んー」
「なんだよ、風馬」
「なんだかな」
「俺の話聞いてる?」
美空の後ろ姿。
前川の顔。
「んあ?」
「聞いてないだろ」
「んー」
「…風馬、変」
「うん」
その日、俺は一人で帰った。
毎年2年生は全員でお化け屋敷をやることになっている。
俺は美空とお化けが出る用の井戸を作ることになった。昇降口に学校側が準備した資材を取りに戻ってきた所だ。
俺らの教室の前で雨宮がクラス委員の生徒と話をしていた。
「なんしてんの」
「ああ、仲村、」
立ち止まって声をかけると雨宮とそのクラス委員は困った顔をしていた。
「聞いてよ」
おう。聞くぞ。
「井戸のお化け役の子が、やりたくないって言い出してさ」
この前、クラスの女子に決まった。
「なんで」
「気が変わったのかもね。女の子だし」
「ふーん」
「ただ、本人が口に出してやりたくないって言うから、それされると気分下がっちゃうでしょ?どうしようって思って」
「他の人いないの?」
「今声かけてるところ。みんな当日忙しいみたい」
「ああ、部活の出し物もあるもんな」
「誰かやってくれる人いないかなって」
あいにく、気軽に頼み事ができる程の仲の女子はいない。井戸のお化けはお化け屋敷のメインになるものだ。
これは一大事。
「井戸、どうしようね。風馬」
俺の後で話を聞いていた美空が言った。
俺は美空を見た。
俺より見下ろせるくらいの身長で体も細身。
顔も可愛い。
「美空お前暇だろ?」
「…えっ」
美空の表情が固まった。
本番当日。
雨宮が持ってきたゴスロリ衣装を着て、美空は井戸のお化け役に徹した。
非常時のために、美空と一緒に井戸の裏に待機していた。
井戸の前を通り過ぎる人、みんな絶叫していく。
小声で
「美空、いい感じ」
「疲れた、」
驚かして井戸の裏にしゃがみこむ。両手を膝の上に乗せて正座して座ってる姿が可愛い。女子の服を着ているからか仕草もそう見えてしまう。長髪ウィッグを被った美空は顔にかかった髪を手でかき分ける。
「もうさ、声なしでいいかな。のど乾いた」
舌をべぇーって出す美空。
「なんか買ってくる?」
「いい?」
「うん。待ってて」
俺は井戸から飛び出すと丁度お客さんと鉢合わせしてしまってお互いに絶叫してしまった。
趣旨と違う。
お茶を買って戻る途中、雨宮と出くわして、もうすぐ全体午前の部が終わって途中休憩になると言われた。
井戸がある教室の扉を開いた。
同時に可愛いゴスロリが出てきた。
「あっ!風馬!」
違う美空だった。
「どした?」
「来て」
焦っている美空。付いていくと井戸の前で口をあんぐり開けて白目向いて仰向けに倒れている前川がいた。
「うわ!死んでる!!」
「生きてるって!びっくりして倒れちゃったんだ、」
前川の横で「どうしよう、」とオロオロ狼狽してる美空。
「とにかく、保健室!」
美空は前川の腕を、俺は脚を抱えて、廊下を走った。
保健室のベッドに前川を寝かせる。午前の部の最後の客が前川だったから、この時間は持ち場を離れていていいけど、美空が前川のところから離れ様子がない。しばらくしても前川は目を覚まさない。
美空が保健室の時計を見る。
「どうしよう、時間…」
午後の部まで時間が無い。
美空は前川と時計を交互に見る。
「睦…、起きて、」
自分でも無意識に言ってた。
「俺が変わりにやるよ。美空ここにいな」
美空が俺を見た。
「風馬、でも、悪いよ、」
「暇だし、任せろ」
俺は美空の頭に手を置いた。ウィッグだから美空の髪の毛じゃない。
「服とか、どうするの、」
「まあ、なんとかなるだろ。クラス委員に聞いてみる」
「前川さんのこと見てやれな」って言って俺は保健室を出て行った。
…うわー、俺、めっちゃカッコつけてる。
笑いをこらえながら教室に戻った。
雨宮とクラス委員と話合って、俺が辞めたお化け役の人が着る予定だった衣装を着て井戸から飛び出すことになった。
午後の部が始まって美空と同じようにやってみた。
大体の人は驚いてくれたけど、一部の人はゴスロリお化けを期待していたらしく、違うじゃねーかって、毒をはかれた。
そんなやつらに美空のゴスロリ姿を見せたくない。って思った。
…。
午後の部が終わった。
俺は急いで保健室に向かった。
心配そうに前川を見ていた美空の顔が浮かぶ。
美空は大丈夫だろうか。
美空。
安心して待っててくれているかな。
保健室が見えた。
ドアは開いていたから、そのまま足を入れた。
あっ。
黒髪の子の頭の奥に目を閉じた前川さんの顔が重なっていた。
反射的に廊下側のドアの後ろに隠れた。
美空と前川だ。
いや、そうだよ。
そうだよな、あれ、そういうことだ。
背中のドア越しに話声が聞こえた。
内容までは聞き取れない。
冷たい。
足を見た。
裸足。
白の大きな布切れと、即興で作った黒のナイロンテープのかつらを被ってる俺。
なんだこの格好。
かつらを取った。
静電気でナイロンが腕に絡まる。
「おーい」
廊下の向こうから声がした。
「ああ、タツ、」
中学からの同級生の男だった。
なんか、久しぶりに会ったな。
「なに、その格好」
笑いながら、俺の肩に当たってきた。
「うっせーよ、お化けやってんの」
すぐ後に美空がいる。
「もう帰る?風馬」
俺は保健室から、離れた。タツも俺に着いてきた。
よし。
「ん?なに?」
「だから、今日帰るかって。俺久々に部活無いし、メシ食いに行かね?」
「んー」
「なに、乗り気じゃない?」
「んー」
「なんだよ、風馬」
「なんだかな」
「俺の話聞いてる?」
美空の後ろ姿。
前川の顔。
「んあ?」
「聞いてないだろ」
「んー」
「…風馬、変」
「うん」
その日、俺は一人で帰った。
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