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第1章
2 ワンと鳴くカエル
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夏休み明け、九月。
退屈な始業式が終わってお昼休み。生徒それぞれ、友人の席に集まって昼食を食べたり、購買や部活のミーティングに向かったりと賑わっていた。
美空のクラス、一階の一年二組の教室は黒板前に教卓、生徒の机は縦5つ、横6つ計30席、男女が縦に交互に座っている。美空は前から三列目、窓前の席。風馬はその斜め後ろ一番後ろの席に座っている。
美空は風馬の机に向かい、突っ伏して寝ていた彼の頭に雑誌をボンと置いた。
「ん。ああ、」
雑誌をつかんでムクリと顔を上げる風馬。
夏休みの宿題が終わらなかったのか徹夜したらしく、午前中の始業式では絶命した弁慶のごとく立ちながら寝ていた彼。この上まだ寝るのかと美空はため息をついた。
「悪い、忘れてた」
眠そうながらも手を合わせて詫びた風馬。
「だと思った」
まあ、許してやるかと美空は小さく笑った。
美空は窓を背に自分の椅子を風馬の机の横に置いて座り、弁当を食べ始めた。風馬は外で買ってきたらしき焼きそばパンを片手に雑誌をペラペラ捲る。モノクロの漫画のページが次々現れる。
「それ面白いの?」
「まあまあだな」と風馬はパンをかじる。
「ふーん、」
興味がなさそうに返事をするが実は気になってしょうがない美空。
前に風馬に読めと大量の単行本を押し付けられてから、漫画に興味はあったのだが、お小遣い事情で手が出せずにいる。こういうときにしか読めない、と風馬が開くページを前のめりになりながら見つめた。
その様子が目に入ったのか、教室にいた男子数人がぞろぞろと風馬の机の周りを囲んだ。
「仲村、なにそれ」と机に手を置いて前のめりに雑誌を覗き込む。
「先月号のやつ」
と、風馬は開いていたページを閉じて表紙を見せる。
「見たそれ、面白いよな」
男子たちは雑誌を横から取って読み始め、風馬と漫画の話を始める。今さっき見たばかりの美空にはついていけない内容で、加えてあまり話さない男子にも囲まれて息が詰まる。いきなり流れの早い川に放り投げられた気分だった。
どこを見れば。
雑誌を見る手。
腕。
ズボンのチャック。
腰まで下がったベルト。
ボタンが開いた首元。
のどぼとけ。
あご。
くち。
くち。
くち。
くちびる。
くちびる。
「後呂は?」
「えっ」
突然、名前を呼ばれて驚く美空。
見るとクラスの男子が美空に期待の目を向けていた。
風馬を見る。同じ顔。
「なんの漫画読むかって」
瞬きが止まらない。
「えっと、」と口ごもる美空。
自分の唇に意識が向く。唇を紡ぐ。唇と心臓がむず痒い。
「ごめん、聞いてなかった、」
やっと言葉を出して美空は男子たちに苦笑いを向けた。どうか離れて、これで勘弁してほしい、と。
なんだよそれー、と男子たちは笑い飛ばす。その後すぐに教室の時計を見て、バスケをしに体育館に向かって行った。
ため息と一緒に苦笑いをやめる美空。
「どうした?」
風馬は心配そうに聞いてくる。
美空が見ると、いまいちわからないよ、そんな顔をしていた。
「やっぱ話すの苦手、」
「全部俺だと思えば?」と、冗談混じりに言う風馬は美空の弁当のおかずをつまんで口に運んだ。
「うわ、きもい」笑いながら美空は言う。
そうだといいのかもしれない。
なにも考えないで、風馬とみんなと話せたらいいんだけど。
美空はおかずの残った弁当箱のフタを閉じた。
美空と風馬は町中にある高校から山に向って帰る。
乗ってきた自転車を押す美空の隣に風馬が並んで歩く。
部活に所属していない二人はホームルームの後、帰り道である高校の前の表通りのスーパーや飲食店に寄る事もあるが、お金が無ければ真っ先に帰る。
「はあ、だるい」
午後の最後、国語の授業で風馬は夏休みの宿題をしてこなかった事を先生にこっぴどく叱られて少々むくれていた。
「やらないのも自由つったじゃん」歩道の小石を蹴り飛ばす風馬。
「やってこなかった奴が多かったからキレたんだろ、だったら言えよなちゃんと」
風馬含めクラスの半数以上が宿題をしておらず、普段穏やかな国語の先生の怖い一面が露わになってしまった。やらなくてもいいと言った先生も悪いが、
「やらなくていいはやれって意味だよ」
これはお互いに悪いから先生のフォローをしつつ、やんわりと美空は風馬を叱る。毎回頭を下げて宿題を写させてほしいとお願いしてくる風馬、これで少しは懲りるかなと美空はわずかな期待を寄せた。
「テレビで誰か言ってたなそれ、似たやつ」
はあ、と風馬が息をこぼしたところで、風馬の家の近くに到着する。美空の家はまだ先だ。
「じゃあな」
「うん、ばいばい」
「雨降りそうだから気をつけろよな」
「わかった」
家に向って行く風馬に手を振って、美空は自転車に乗った。
表通りを離れて、車の通らない見晴らしのいい川沿いの土手に出る。
そういえば、風馬が言ってたなと美空は上を見上げた。
季節は夏と秋の間、薄黄色の曇り空。
うん。大丈夫かな。
上り坂を越えて下り坂。しばらくは勢いに任せる。
自転車の走る音、道端の虫の音、顔を上げて目を瞑ると、全身に風を感じられた。
美空は小さい頃からこの道が好きだった。
さあ、そろそろ。
ゆっくり目を開ける。
数メートル先。
草むらに白いシャツの人物がしゃがみこんでいた。
人物は立ち上がる。
目と鼻の先。
美空はその横顔に見覚えがあった。
図書館の自転車置き場で会った彼だった。
美空の視線を感じとったのかわからないが、彼は美空の方に顔を向けた。
美空と目が合う。
あれ、もしかして向こうも気づいてる?無視してはいけない、美空は慌てて急ブレーキをかけた。
自転車は彼の前で止まった。
「あ、あの、どうも、」とりあえず美空は挨拶をする。
「…どうも」
彼は不思議そうな目を向けたまま軽く頭を下げた。
美空の顔をじっと見る。
一旦整理するために視線をそらして戻す。
そして慎重に、「あの、どちらさま?」と美空に尋ねた。
気づいてなかった。
美空は全身から汗が噴き出た。
うわっ、うわ、消えたい。
「あ、えっと」
落ち着け落ち着けと自転車のハンドルを握る手を開いて閉じる。
「あの、図書館で、自転車を出してくれた…」
図書館、自転車…とつぶやきながら視線を下げる彼。頼むから思い出してくれよと美空は目で念を送る。
急に彼が「あっ!」と頭を起こした。
「わかった!そう!自転車の人だ!」
美空を見る彼の目は輝いていた。
「はい」ああ、よかったと、美空は安堵の笑みをこぼした。
「あの時はありがとうございました」
「いえいえ」
そして美空の制服を見て彼が気づく。
「わあ、すごい、同じ高校だ」
それを聞いて美空も確認する。図書館で会った二人、同じ高校の制服で帰り道にばったり会う、こんな偶然立て続けに起こるのかと非日常な体験をしているようで二人とも興奮した。しかし、こんな道端で何をしていたのか、美空は気になってそのまま彼に聞いてみる事にした。
「あの、なにしてたんですか?」
「ああ、うん」
彼は自分の手元を見下ろし、二歩、三歩、美空に近づく。
「これ見て」
うきうきした声で彼は両腕を持ち上げて、表面の湿った斑状模様の大きな物体をグンと美空の顔に向けた。
「でっかいカエル!」
彼のきれいな顔を背景に、捕獲されて魂が抜けたウシガエルが美空の視界を埋め尽くした。
美空の絶叫が響いた。
美空は自転車ごと倒れる。
「だ大丈夫!?」と心配した彼はウシガエルを持ったまま美空に近寄る。
「ちょっと、待って!来ないで!」
両手を前にして来るなのポーズ。
美空の必死の静止に気づいて彼は止まる。
「…それ、置いて、」
美空の指さす方向を追い、それがカエルを指している事に気づき、彼は慌てて、草むらに戻す。田舎でもウシガエルを見るなんてそうそうない。美空が最後に見たのは何の恐れも感じなかった幼い頃、あの時は何とも思わなかったが、久々に見たあいつの皮膚の湿り具合と模様と言いおぞましくてたまらなかった。
ざわ、ざわ、と草むらが揺れるのが見える。
ウシガエルは二度三度飛び跳ねて草むらの中に消えていった。
恐怖が立ち去り、美空は安堵した。
「ごめんね、大丈夫?」
片手を前に出して美空の身を気に掛ける彼。
今さっきウシガエルに触れていた手が近い。
「あ、いえ…こちらこそ、ごめんなさい、急に叫んじゃって、」
美空はまた少し後ずさり立ち上がる。
腰が痛い。
ズボンに付いた砂利を払う。
横目で見ると、ウシガエルの彼は自分のズボンで手を拭いていた。
「あ、俺2年の前川睦」
絶対に今は名乗るタイミングではないと心の中でツッコんだ美空、一瞬自分の名前が出てこなかった。
「あ、あの…、1年の後呂美空です」
「へえ、可愛い名前だね」
「よく言われます、」そう言われるのはいい気はしないけど。
美空は苦笑いを睦に向けた。
「じゃあ、うしろって呼ぶね」
「はい」それでお願いします。
うへへと笑う睦。
顔は良いんだけど···。
彼の顔のカッコ良さとウシガエルがミスマッチ過ぎて、美空の脳が処理できない。一旦落ち着けと、頭を振ってウシガエルだけ取り除く。
「このまままっすぐ?」帰るの?と聞いているようだった。
もうカエルはいいのかと思った美空。
睦の美空を見る目は変わらす輝いており、彼の興味はすでに美空に向いていた。
睦の背後にまだウシガエルを感じたが、このまま立ち去るのも、やっぱりそう、悪いと思ってしまう美空だった。
「はい」と、仕方なくうなずく。
それを聞いた睦はまた一際、目を輝かせてニッと笑った。
「じゃあ途中まで、一緒に帰ろう?」
睦はうへへと笑った。
退屈な始業式が終わってお昼休み。生徒それぞれ、友人の席に集まって昼食を食べたり、購買や部活のミーティングに向かったりと賑わっていた。
美空のクラス、一階の一年二組の教室は黒板前に教卓、生徒の机は縦5つ、横6つ計30席、男女が縦に交互に座っている。美空は前から三列目、窓前の席。風馬はその斜め後ろ一番後ろの席に座っている。
美空は風馬の机に向かい、突っ伏して寝ていた彼の頭に雑誌をボンと置いた。
「ん。ああ、」
雑誌をつかんでムクリと顔を上げる風馬。
夏休みの宿題が終わらなかったのか徹夜したらしく、午前中の始業式では絶命した弁慶のごとく立ちながら寝ていた彼。この上まだ寝るのかと美空はため息をついた。
「悪い、忘れてた」
眠そうながらも手を合わせて詫びた風馬。
「だと思った」
まあ、許してやるかと美空は小さく笑った。
美空は窓を背に自分の椅子を風馬の机の横に置いて座り、弁当を食べ始めた。風馬は外で買ってきたらしき焼きそばパンを片手に雑誌をペラペラ捲る。モノクロの漫画のページが次々現れる。
「それ面白いの?」
「まあまあだな」と風馬はパンをかじる。
「ふーん、」
興味がなさそうに返事をするが実は気になってしょうがない美空。
前に風馬に読めと大量の単行本を押し付けられてから、漫画に興味はあったのだが、お小遣い事情で手が出せずにいる。こういうときにしか読めない、と風馬が開くページを前のめりになりながら見つめた。
その様子が目に入ったのか、教室にいた男子数人がぞろぞろと風馬の机の周りを囲んだ。
「仲村、なにそれ」と机に手を置いて前のめりに雑誌を覗き込む。
「先月号のやつ」
と、風馬は開いていたページを閉じて表紙を見せる。
「見たそれ、面白いよな」
男子たちは雑誌を横から取って読み始め、風馬と漫画の話を始める。今さっき見たばかりの美空にはついていけない内容で、加えてあまり話さない男子にも囲まれて息が詰まる。いきなり流れの早い川に放り投げられた気分だった。
どこを見れば。
雑誌を見る手。
腕。
ズボンのチャック。
腰まで下がったベルト。
ボタンが開いた首元。
のどぼとけ。
あご。
くち。
くち。
くち。
くちびる。
くちびる。
「後呂は?」
「えっ」
突然、名前を呼ばれて驚く美空。
見るとクラスの男子が美空に期待の目を向けていた。
風馬を見る。同じ顔。
「なんの漫画読むかって」
瞬きが止まらない。
「えっと、」と口ごもる美空。
自分の唇に意識が向く。唇を紡ぐ。唇と心臓がむず痒い。
「ごめん、聞いてなかった、」
やっと言葉を出して美空は男子たちに苦笑いを向けた。どうか離れて、これで勘弁してほしい、と。
なんだよそれー、と男子たちは笑い飛ばす。その後すぐに教室の時計を見て、バスケをしに体育館に向かって行った。
ため息と一緒に苦笑いをやめる美空。
「どうした?」
風馬は心配そうに聞いてくる。
美空が見ると、いまいちわからないよ、そんな顔をしていた。
「やっぱ話すの苦手、」
「全部俺だと思えば?」と、冗談混じりに言う風馬は美空の弁当のおかずをつまんで口に運んだ。
「うわ、きもい」笑いながら美空は言う。
そうだといいのかもしれない。
なにも考えないで、風馬とみんなと話せたらいいんだけど。
美空はおかずの残った弁当箱のフタを閉じた。
美空と風馬は町中にある高校から山に向って帰る。
乗ってきた自転車を押す美空の隣に風馬が並んで歩く。
部活に所属していない二人はホームルームの後、帰り道である高校の前の表通りのスーパーや飲食店に寄る事もあるが、お金が無ければ真っ先に帰る。
「はあ、だるい」
午後の最後、国語の授業で風馬は夏休みの宿題をしてこなかった事を先生にこっぴどく叱られて少々むくれていた。
「やらないのも自由つったじゃん」歩道の小石を蹴り飛ばす風馬。
「やってこなかった奴が多かったからキレたんだろ、だったら言えよなちゃんと」
風馬含めクラスの半数以上が宿題をしておらず、普段穏やかな国語の先生の怖い一面が露わになってしまった。やらなくてもいいと言った先生も悪いが、
「やらなくていいはやれって意味だよ」
これはお互いに悪いから先生のフォローをしつつ、やんわりと美空は風馬を叱る。毎回頭を下げて宿題を写させてほしいとお願いしてくる風馬、これで少しは懲りるかなと美空はわずかな期待を寄せた。
「テレビで誰か言ってたなそれ、似たやつ」
はあ、と風馬が息をこぼしたところで、風馬の家の近くに到着する。美空の家はまだ先だ。
「じゃあな」
「うん、ばいばい」
「雨降りそうだから気をつけろよな」
「わかった」
家に向って行く風馬に手を振って、美空は自転車に乗った。
表通りを離れて、車の通らない見晴らしのいい川沿いの土手に出る。
そういえば、風馬が言ってたなと美空は上を見上げた。
季節は夏と秋の間、薄黄色の曇り空。
うん。大丈夫かな。
上り坂を越えて下り坂。しばらくは勢いに任せる。
自転車の走る音、道端の虫の音、顔を上げて目を瞑ると、全身に風を感じられた。
美空は小さい頃からこの道が好きだった。
さあ、そろそろ。
ゆっくり目を開ける。
数メートル先。
草むらに白いシャツの人物がしゃがみこんでいた。
人物は立ち上がる。
目と鼻の先。
美空はその横顔に見覚えがあった。
図書館の自転車置き場で会った彼だった。
美空の視線を感じとったのかわからないが、彼は美空の方に顔を向けた。
美空と目が合う。
あれ、もしかして向こうも気づいてる?無視してはいけない、美空は慌てて急ブレーキをかけた。
自転車は彼の前で止まった。
「あ、あの、どうも、」とりあえず美空は挨拶をする。
「…どうも」
彼は不思議そうな目を向けたまま軽く頭を下げた。
美空の顔をじっと見る。
一旦整理するために視線をそらして戻す。
そして慎重に、「あの、どちらさま?」と美空に尋ねた。
気づいてなかった。
美空は全身から汗が噴き出た。
うわっ、うわ、消えたい。
「あ、えっと」
落ち着け落ち着けと自転車のハンドルを握る手を開いて閉じる。
「あの、図書館で、自転車を出してくれた…」
図書館、自転車…とつぶやきながら視線を下げる彼。頼むから思い出してくれよと美空は目で念を送る。
急に彼が「あっ!」と頭を起こした。
「わかった!そう!自転車の人だ!」
美空を見る彼の目は輝いていた。
「はい」ああ、よかったと、美空は安堵の笑みをこぼした。
「あの時はありがとうございました」
「いえいえ」
そして美空の制服を見て彼が気づく。
「わあ、すごい、同じ高校だ」
それを聞いて美空も確認する。図書館で会った二人、同じ高校の制服で帰り道にばったり会う、こんな偶然立て続けに起こるのかと非日常な体験をしているようで二人とも興奮した。しかし、こんな道端で何をしていたのか、美空は気になってそのまま彼に聞いてみる事にした。
「あの、なにしてたんですか?」
「ああ、うん」
彼は自分の手元を見下ろし、二歩、三歩、美空に近づく。
「これ見て」
うきうきした声で彼は両腕を持ち上げて、表面の湿った斑状模様の大きな物体をグンと美空の顔に向けた。
「でっかいカエル!」
彼のきれいな顔を背景に、捕獲されて魂が抜けたウシガエルが美空の視界を埋め尽くした。
美空の絶叫が響いた。
美空は自転車ごと倒れる。
「だ大丈夫!?」と心配した彼はウシガエルを持ったまま美空に近寄る。
「ちょっと、待って!来ないで!」
両手を前にして来るなのポーズ。
美空の必死の静止に気づいて彼は止まる。
「…それ、置いて、」
美空の指さす方向を追い、それがカエルを指している事に気づき、彼は慌てて、草むらに戻す。田舎でもウシガエルを見るなんてそうそうない。美空が最後に見たのは何の恐れも感じなかった幼い頃、あの時は何とも思わなかったが、久々に見たあいつの皮膚の湿り具合と模様と言いおぞましくてたまらなかった。
ざわ、ざわ、と草むらが揺れるのが見える。
ウシガエルは二度三度飛び跳ねて草むらの中に消えていった。
恐怖が立ち去り、美空は安堵した。
「ごめんね、大丈夫?」
片手を前に出して美空の身を気に掛ける彼。
今さっきウシガエルに触れていた手が近い。
「あ、いえ…こちらこそ、ごめんなさい、急に叫んじゃって、」
美空はまた少し後ずさり立ち上がる。
腰が痛い。
ズボンに付いた砂利を払う。
横目で見ると、ウシガエルの彼は自分のズボンで手を拭いていた。
「あ、俺2年の前川睦」
絶対に今は名乗るタイミングではないと心の中でツッコんだ美空、一瞬自分の名前が出てこなかった。
「あ、あの…、1年の後呂美空です」
「へえ、可愛い名前だね」
「よく言われます、」そう言われるのはいい気はしないけど。
美空は苦笑いを睦に向けた。
「じゃあ、うしろって呼ぶね」
「はい」それでお願いします。
うへへと笑う睦。
顔は良いんだけど···。
彼の顔のカッコ良さとウシガエルがミスマッチ過ぎて、美空の脳が処理できない。一旦落ち着けと、頭を振ってウシガエルだけ取り除く。
「このまままっすぐ?」帰るの?と聞いているようだった。
もうカエルはいいのかと思った美空。
睦の美空を見る目は変わらす輝いており、彼の興味はすでに美空に向いていた。
睦の背後にまだウシガエルを感じたが、このまま立ち去るのも、やっぱりそう、悪いと思ってしまう美空だった。
「はい」と、仕方なくうなずく。
それを聞いた睦はまた一際、目を輝かせてニッと笑った。
「じゃあ途中まで、一緒に帰ろう?」
睦はうへへと笑った。
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