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グラスホッパー

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 無能の烙印を押された俺は荒れていた。とにかく俺はバーで飲めるだけ飲んだ。何杯飲んだかも思い出せないほど飲んだ。味なんかわかりゃしない。最初こそそれなりに値段のする一般的においしいとされるお酒を飲んでいたが最後の方はアルコール度数だけ高い安酒ばかりを飲んでいた。

「俺…無能だってよ…冒険者にはなれないんだってさ…」

 と、俺は女バーテンダーに愚痴る。いや女だからバーメイドと呼ぶべきか?まぁどっちでもいいか。

「お客様そろそろおやめになったほうがよろしいかと。」

 そう言って俺が飲むのを止めてくる彼女。金髪の髪を後ろで束ねポニーテールにし、きっちりアイロンのかけられた白のシャツにバーテンダーの正装とも言える黒のカマーベストを着た彼女は男の俺から見てもかっこいいと思える姿だった。

「いいんだよー酒くれよー俺なんてダメなんだよー生きてても意味ない無価値なんだよー。」
「そうですか…ではこのお酒で最後にしませんか?」

 そう言いながら出されたのは緑色をしたカクテルだった。

「なんだいこれ?おいしいの?」
「グラスホッパーと呼ばれるカクテルです。室温で暖まってしまう前に冷たいうちにお早めにお飲みください。」

 グラスホッパーねぇ…直訳すればバッタ…色がそれっぽいもんな…うぐ…なんかそう考えるとバッタの粉末を溶かした飲み物に思えてきた。気持ち悪い…
 言われなくてもこんな気持ち悪い飲み物をチビチビ味わって飲む気はしないよ。さっさと俺のどを通って俺の心を癒すアルコールになってくれ。
 そう思い一気に飲み干す…
 だが…

「え?普通にうまいじゃん。酔いに酔いまくって馬鹿舌になっていた俺の口の中をミントのスゥーッとする感じとカカオの香ばしい感じがして最後に甘くとろけさせてくれる。なにこれおいしい。」
「それはよかったです。ではそれを飲んで正気になったのならもう飲むのはやめて帰りましょう。これ以上は体壊しますよ?」

 客なんて飲ませるだけ飲ませてお金を取れるだけとれば良いのにわざわざ俺の体調まで気づかってくれる彼女はもしかしたら天使かもしれない。

「ほんとに次で最後にするからもう一杯だけおなじものをちょうだい。さっきはこれがバッタの絞り汁だと思って一気に飲んじゃったからあんまり深く味わえなかったんだよ。おねがい!」

 そう言って両手を合わせお願いする俺。それに対しあきれた表情で返す彼女。

「そんなものお客さんに出すわけありませんよ。まったく…ほんとにこれで最後ですからね?」

 そしてまた分量を量ったグリーン・ペパーミント・リキュールとホワイト・カカオ・リキュールと生クリームをシェイカーに入れ混ぜる。

「へぇ…生クリームも入ってたのか…よく考えたもんだなぁ…こんな作り方…」

 俺は素直に感想を述べた。乗せることはあっても生クリームを混ぜるなんて…あんまり考えないよな。

「昔はこのグラスホッパーも作り方が違ったんですよ?今作っているやり方のグラスホッパーは先ほども言ったようにすぐに飲むことが望ましいショートドリンクに分類されるものですが、昔のはシェイカーで混ぜずに三層に分離された状態で出す飲み物でじっくりゆっくり飲むロングドリンクに分類されていたんですよ。それがいつごろからかシェイクされるようになり今の形になったんです。」

 ほへぇ…なんか豆知識を教えられた。ただ作り方を知ってるだけじゃなくそんな歴史まで知ってるなんて普通に感心してしまう。

「まぁだからなんだって訳じゃないですがお客さんが無駄に思っていることも個々では無価値でも案外混ぜて見るとその性質が変わってまた別のものになるかもしれませんね。」

 個々では無駄でもか…俺のスキルも個々では無価値だけどもしかしたらって事かな…
 何か俺の中に一握りの希望が芽生えた気がする。

「ありがとう。えーと…名前知らないけど素敵なバーテンダーのお姉さん。」
「レイニーですよ。名前…雨女じゃないですけどね。」

 そんな冗談を言いながら名前を教えてくれるレイニー。ほんとにいい子だ。
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