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第一部 サークルポリス襲撃編
元転移転生魔術師、見つける 後編
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「まあ何にせよ、一件落着か……」
『マスター、声が聞こえます。二時の方角です』
……声?
突然どうしたんじゃサージャのヤツ。やっと肩の力が抜けるというのに台無しにしおって……。
「じぃぃーーーーーーーーーーーーーーーー……」
……確かに聞こえとる。サージャが言っとった方から。
んで、何か建物の影に隠れておる……。
……ラスティアが。
「じぃぃーーーーーーーーーーーーーーーー……」
いや、遠くから見つめてるの知っとるよ。声に出さんでも分かっとるからね?
んな構ってほしそうに見なくても……。
「……何やっとるんじゃ、ラスティア?」
「ハッ! これは失礼しました!」
何事もなかったかのように、ラスティアが建物から飛び出し、敬礼してくる。
と思いきや、何か言いたげにコチラにチラチラと視線を送ってくるのだ。訳が分からんがまあ、構ってやろう。
「ラスティアもご苦労じゃったな。見張りをしといてくれて感謝するぞ」
「あー、その件なのですが……」
……?
ラスティアが何やらモジモジとしておる。何事かと思っていると……。
「見て……しまったんです」
「見た……?」
「教皇様たちとの……やり取りを……」
「……、あー……」
どうやらラスティア、覗いてしまったらしい。
まあよく考えればあヤツの性分。ワシの活躍をこの目で見られない事に、納得できなかったんじゃろうなぁ……。
「見張りという使命を放棄して聞き耳を立ててしまった事をお詫びいたします。しかしハッキリさせて下さい。やはりアナタ様はマリー様などではなく……」
「……そうじゃ、デウディーンじゃ。じゃがの、ワシはスローライフを送りたくて転生したんじゃ。だからワシの事はマリーと呼んでそっとしといてくれんか……?」
「分かりました。デウディー、いえマリー様の言う通り大人しくします」
あれ? 何やら聞き分けがいいぞ?
もっと興奮するものと思っておったが……。
するとラスティア、何かを期待するかのような表情を見せる。そして、手を差し出してきた。
「何……これ?」
「約束しましたよね? 恐山で。転移道具を、授けて下さると」
約束?
って、あー……。そう言えばしたような……。
確かシャルルとミミティにナイショ話をする時じゃったな……。つい勢いで言ってしまったアレ……覚えておったか。
「いけ……ませんか?」
こヤツ、涙ぐんだ目でワシを見つめてきおる。
面倒じゃが、仕方あるまい。約束は約束じゃしな……。
「よかろう。何かリクエストはあるか?」
「でしたら、なりきり☆テニスラケットを頂きたいのです!」
へ? なりきり☆テニスラケット?
それでいいの? 途中テニス用語を連呼していただけじゃったのに?
「確かに、教団騎士でありながら、球技系の道具を欲しがるなんて滑稽かもしれません! しかし私はあの時から、あの高揚感が忘れられないのです! ラケットを握っただけで伝わる熱いパトス! あの熱意を励みにより一層教団騎士として高みにのぼりたいのです!」
ラスティア……あんなのが良かったのか?
まあ、よかろう。そんなに欲しいなら、さっさとくれてやるわい。
「……転移魔法、発動。なりきり☆テニスラケット」
ワシはさっさと転移魔法を発動し、目当ての物を差し出す。
受け取ったラスティアは嬉しそうだ。さっそくラケットを握った途端……。
「ありがとう、ございますマリー様! 一生の宝物にします! 家宝にします!」
――ブン! ブン!
「まあ家宝にせんでもええけど、大事に使ってくれたたええよ」
「はい……! ……サーブリターンボレーボレー! ジャストジャストデュースフォールトフォルト……! ゲームセット……!」
――ブンブンブンブンブンブンブンブン……!
振り回し始めたのだ。
おお、さっそく始まったか。
なりきり☆テニスラケットのせいじゃの。
ボールがないと自主練を始めてしまう効果があるのじゃ。テニス用語で掛け声を出しながら。
「じゃあ、これでお別れじゃな。ワシはスローライフを果たしてくるから、そっとしといてくれ」
「カモン! マッチポイントホットドック、アレーコートドロップショット! ゲームカウントタイブレークセットカウント……! 分かりました! これからは一人のラスティアとして! 会いに! 行きます! ……ボレーボレー!」
――ブンブンブンブンブンブンブンブンブンブン……!
別に来なくていい。
いや、まあよい。今日の所はそのまま振り続けるがよい。
なりきり☆テニスラケットの効果は永遠ではない。体力が無くなる頃には一旦治まるのじゃから。
ラスティアの額から、爽やかな汗が散っていく。素振りを続ける彼女に別れを告げ、ワシはその場を後にした。
「……よし」
ラスティアの姿が見えなくなるくらい距離をとった。
そろそろ本題に入ろうか。
ワシは服に仕舞っていたサージャを取り出した。
「サージャよ、用意はできとるか?」
『いつでもできています、マスター。私のアプリは常時起動中です』
「……今もいるのか? この町に」
『はい。魔力反応を検知。北北西三キロメートル先に存在を確認。……分析の結果、八十九パーセントの確率で田中たかしの魔力と一致します』
「それは……たかし本人がここにいる……という意味か?」
『いいえ。魔力の薄さから残滓であると予想。詳細は不明ですが、田中たかしと関わりがあって付着したものと思われます』
「残滓……残滓か……」
ワシの胸がざわついている。期待と戸惑いと不安で緊張しておる。
実は昨日から魔力反応の報告を受けていた。そう……サークルポリス内に侵入したモンスターを倒しておった最中じゃった。
初めはサージャの報告を疑ったりもした。憎たらしい皮肉を叩いても、あヤツはウソをつくような者ではない。
女神化。あの話が本当だったとしたら……。
「急ごう。町から離れでもしたら、解決を急いだかいが無くなってしまうわい」
ワシは早足で駆けていった。
田中たかしを知っている者――手がかりと会うために。
************************
【サージャ】≪『第二十五話をお読みいただき、ありがとうございます』
【サージャ】≪『マスターを崇拝する姿勢は変わらずとも、一歩だけ、彼らを変える事はできたようです』
【サージャ】≪『数々のトラブルと出会い、そして解決します。……しかしそれは同時に、人々との別れをも意味するのです』
【サージャ】≪『しかし、マスターの旅はもう少しだけ続きます』
【サージャ】≪『そう、田中たかしと会うために……』
【サージャ】≪『それでは、次回をお楽しみに』
『マスター、声が聞こえます。二時の方角です』
……声?
突然どうしたんじゃサージャのヤツ。やっと肩の力が抜けるというのに台無しにしおって……。
「じぃぃーーーーーーーーーーーーーーーー……」
……確かに聞こえとる。サージャが言っとった方から。
んで、何か建物の影に隠れておる……。
……ラスティアが。
「じぃぃーーーーーーーーーーーーーーーー……」
いや、遠くから見つめてるの知っとるよ。声に出さんでも分かっとるからね?
んな構ってほしそうに見なくても……。
「……何やっとるんじゃ、ラスティア?」
「ハッ! これは失礼しました!」
何事もなかったかのように、ラスティアが建物から飛び出し、敬礼してくる。
と思いきや、何か言いたげにコチラにチラチラと視線を送ってくるのだ。訳が分からんがまあ、構ってやろう。
「ラスティアもご苦労じゃったな。見張りをしといてくれて感謝するぞ」
「あー、その件なのですが……」
……?
ラスティアが何やらモジモジとしておる。何事かと思っていると……。
「見て……しまったんです」
「見た……?」
「教皇様たちとの……やり取りを……」
「……、あー……」
どうやらラスティア、覗いてしまったらしい。
まあよく考えればあヤツの性分。ワシの活躍をこの目で見られない事に、納得できなかったんじゃろうなぁ……。
「見張りという使命を放棄して聞き耳を立ててしまった事をお詫びいたします。しかしハッキリさせて下さい。やはりアナタ様はマリー様などではなく……」
「……そうじゃ、デウディーンじゃ。じゃがの、ワシはスローライフを送りたくて転生したんじゃ。だからワシの事はマリーと呼んでそっとしといてくれんか……?」
「分かりました。デウディー、いえマリー様の言う通り大人しくします」
あれ? 何やら聞き分けがいいぞ?
もっと興奮するものと思っておったが……。
するとラスティア、何かを期待するかのような表情を見せる。そして、手を差し出してきた。
「何……これ?」
「約束しましたよね? 恐山で。転移道具を、授けて下さると」
約束?
って、あー……。そう言えばしたような……。
確かシャルルとミミティにナイショ話をする時じゃったな……。つい勢いで言ってしまったアレ……覚えておったか。
「いけ……ませんか?」
こヤツ、涙ぐんだ目でワシを見つめてきおる。
面倒じゃが、仕方あるまい。約束は約束じゃしな……。
「よかろう。何かリクエストはあるか?」
「でしたら、なりきり☆テニスラケットを頂きたいのです!」
へ? なりきり☆テニスラケット?
それでいいの? 途中テニス用語を連呼していただけじゃったのに?
「確かに、教団騎士でありながら、球技系の道具を欲しがるなんて滑稽かもしれません! しかし私はあの時から、あの高揚感が忘れられないのです! ラケットを握っただけで伝わる熱いパトス! あの熱意を励みにより一層教団騎士として高みにのぼりたいのです!」
ラスティア……あんなのが良かったのか?
まあ、よかろう。そんなに欲しいなら、さっさとくれてやるわい。
「……転移魔法、発動。なりきり☆テニスラケット」
ワシはさっさと転移魔法を発動し、目当ての物を差し出す。
受け取ったラスティアは嬉しそうだ。さっそくラケットを握った途端……。
「ありがとう、ございますマリー様! 一生の宝物にします! 家宝にします!」
――ブン! ブン!
「まあ家宝にせんでもええけど、大事に使ってくれたたええよ」
「はい……! ……サーブリターンボレーボレー! ジャストジャストデュースフォールトフォルト……! ゲームセット……!」
――ブンブンブンブンブンブンブンブン……!
振り回し始めたのだ。
おお、さっそく始まったか。
なりきり☆テニスラケットのせいじゃの。
ボールがないと自主練を始めてしまう効果があるのじゃ。テニス用語で掛け声を出しながら。
「じゃあ、これでお別れじゃな。ワシはスローライフを果たしてくるから、そっとしといてくれ」
「カモン! マッチポイントホットドック、アレーコートドロップショット! ゲームカウントタイブレークセットカウント……! 分かりました! これからは一人のラスティアとして! 会いに! 行きます! ……ボレーボレー!」
――ブンブンブンブンブンブンブンブンブンブン……!
別に来なくていい。
いや、まあよい。今日の所はそのまま振り続けるがよい。
なりきり☆テニスラケットの効果は永遠ではない。体力が無くなる頃には一旦治まるのじゃから。
ラスティアの額から、爽やかな汗が散っていく。素振りを続ける彼女に別れを告げ、ワシはその場を後にした。
「……よし」
ラスティアの姿が見えなくなるくらい距離をとった。
そろそろ本題に入ろうか。
ワシは服に仕舞っていたサージャを取り出した。
「サージャよ、用意はできとるか?」
『いつでもできています、マスター。私のアプリは常時起動中です』
「……今もいるのか? この町に」
『はい。魔力反応を検知。北北西三キロメートル先に存在を確認。……分析の結果、八十九パーセントの確率で田中たかしの魔力と一致します』
「それは……たかし本人がここにいる……という意味か?」
『いいえ。魔力の薄さから残滓であると予想。詳細は不明ですが、田中たかしと関わりがあって付着したものと思われます』
「残滓……残滓か……」
ワシの胸がざわついている。期待と戸惑いと不安で緊張しておる。
実は昨日から魔力反応の報告を受けていた。そう……サークルポリス内に侵入したモンスターを倒しておった最中じゃった。
初めはサージャの報告を疑ったりもした。憎たらしい皮肉を叩いても、あヤツはウソをつくような者ではない。
女神化。あの話が本当だったとしたら……。
「急ごう。町から離れでもしたら、解決を急いだかいが無くなってしまうわい」
ワシは早足で駆けていった。
田中たかしを知っている者――手がかりと会うために。
************************
【サージャ】≪『第二十五話をお読みいただき、ありがとうございます』
【サージャ】≪『マスターを崇拝する姿勢は変わらずとも、一歩だけ、彼らを変える事はできたようです』
【サージャ】≪『数々のトラブルと出会い、そして解決します。……しかしそれは同時に、人々との別れをも意味するのです』
【サージャ】≪『しかし、マスターの旅はもう少しだけ続きます』
【サージャ】≪『そう、田中たかしと会うために……』
【サージャ】≪『それでは、次回をお楽しみに』
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