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第一部 サークルポリス襲撃編

元転移転生魔術師、辟易する 前編

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 本当はこんな事したくなかった。

 転移魔法を見せつけて、正体を明かすようなマネなど。
 ワシはスローライフを楽しみたかったのじゃ。それを崩すようでは転生した意味がない。

 しかし相手は教皇と王様。高貴な存在。こうでもせねば話し合いの席につくなど叶わなかったじゃろうからの。
 もちろん、釘をさしておくつもりじゃが。

「して……下さらないのですか?」

 ここで、土下座したままルイスロールが尋ねてくる。

「……何がじゃ?」

「踏んで……いただきたいのです。より親密な拝謁の機会を与えていただきたいのですが……」

「せんわ!」

 ルイスロールが、上目遣いでとんでもない事を言いおった。確かに教会のステンドグラスにもそんな絵はあったが……。
 それでも欲しいのか、ジロジロ見てくるルイスロール。

 ワシはそんな呪縛から逃れるため、本題に切り込んだ。

「ワシはのぉ、聞きたいんじゃ。なぜ竜人族と手を取り合った聖地を、お主ら教団の領土などと主張したのか……」

 ミミティが言うには、一方的なものじゃったらしい。教団が勝手に主張し、勝手に奪ってしまったとか。

「元々は……聖地のためなんです」

 ワシに求める目つきをやめたルイスロールが、説明し始めた。

「この目で見て頂いてお分かりかと思いますが、今や聖地とはもう名ばかりで、実際は荒れ果てた大地に過ぎません。ならば我々の方が管理が行き届くだろうし、自分たちで持っていた方がいいい……全てはデウディーン様のためになると思い、行動に移したのです」

「ウソ。自分たちの手柄が欲しかったんでしょ?」

 ルイスロールが話している最中、ミミティが割って入ってきた。

「うおっ! ど、ドラゴンが喋りおった!」

 王様が驚いておる。ルイスロールも声を出していないが、ギョッとした目でミミティに注目しておる。
 まあ無理もないか。モンスターに突然話に入られては驚くわな。

「ミミティ、すまんが人間の姿になってくれ。その方がこヤツらも話しやすいじゃろうて」

 ワシの頼みを、ミミティは素直に受け入れた。
 身体を縮こませ、徐々に人間の形に変わっていく。
 そして、ショートヘアーの少女に戻ったのじゃった。

「アナタは……竜人族でしたか」

「初めて見たわい……。モンスターとばかり、すまなかった」

 ルイスロールが驚き、王様が謝罪する。対するミミティは、自分がモンスター呼ばわりされた事は気にしておらん様子じゃった。

 それよりも、ルイスロールの話の方が聞き捨てならんみたいじゃ。

「聖地を守りたいって言いたいんだろうけど、そもそも竜人族と共同だったはずでしょ? 度々あそこで交流だってしていたはずよ。なのに何で話し合おうとしなかったの? それって結局、何でもいいから手柄作りたかっただけだからでしょ!」

 ミミティの剣幕に、ルイスロールがビクッと、肩を強張らせてしまう。
 どうも図星のようじゃ。いくら綺麗事を言おうと、自分の栄光のためじゃったと。

 と、ここでルイスロールが深々と頭を下げ、お辞儀をし始める。

「その……焦っていたのです」

 顔を上げると、瞳が涙で潤んでいた。
 そして消え入りそうな声で弁解していくのじゃった。

「我らがデウディーン教団が千年続く由緒正しき教団であっても、流行り廃りは避けられません。教徒や信者たちに飽きられ離れてしまわないよう、常に新しい成果を求められているのです。万が一にも教団の人気にかげりが見えてしまうような事態は避けたく……」

 ぐすっ、ぐすっと涙をこらえるように話していくルイスロール。

「それに、占領した後の話でしたが、聖地の周辺には強力なモンスターがはびこっていたのです。聖地の維持という王国の要望もあり、私たち教団騎士と王国の兵士を派兵していました……。そこを運悪く竜人族の方と遭遇してしまい、モンスターと勘違いした末戦う流れになり……面目次第もございません……」

 ルイスロールがミミティと向き合い、謝罪していく。
 その誠実ともいえる態度に、ミミティが即座の反論を控えておるようじゃった。

 まあ、分からんでもない。C級クラスのモンスターがうろついているような場では、いつ命の危険に晒されてもおかしくない。全方位に意識を向け、ピリピリしておったのじゃろう。そこへ巨大なドラゴンが現れた……となれば、戦闘になるのも当然の流れじゃろうて。

「騙されてはなりませんぞ、デウディーン様」

 と、ここで王様がワシに耳打ちをしてきた。ってか王様なんじゃからんなコソコソせんでも……。
 と思っていたが、その内容はルイスロールと食い違うものじゃった。

「彼女は申し訳なさそうにしておりますが、そもそも我が兵を無理やり引っ張ったのは教団の方なんです。共犯のように言っておりますがとんでもない」

「ぬぅ……」

「それに我が国は反対していたのです。竜人族と交流していた我らです。レッドドラゴンがそうかを確かめる時間があったのに、結局攻撃を仕掛けてしまいましたし」

「……そうなの?」

 言われてみれば千年前、竜人族と手を取り合ったのはサークルポリス。そしてその後創られたのが教団と聞く。なら、交流をしていたのもサークルポリスであって教団ではない……?

「つまりアレか? 教団は聖地を竜人族との交流の場と知っていながら、降りてきたドラゴンを確かめもせず攻撃した。いやそもそも、自分たちが交流もしてなかったクセに我が物顔で占領してたって事……?」

「……! そうよそれ! 間違いないわ! 私名乗ったもん! モモティ・アン・レッドフレイムって名乗ったのに問答無用とか言って、騎士の人が攻めてきたもん!」

 ワシの指摘に同意し、ミミティが非難を浴びせていく。もちろん、矛先はルイスロールに。
 彼女は気まずそうに目を反らしておる。ワシの指摘どおりとすれば、教団にだいぶ落ち度がありそうじゃからの。

「……確かに、私たち教団に非がなかったとは言い切れません」

 ルイスロールはしおらしく、しかし弁解をやめようとしない。
 今度は王様への落ち度を語っていく。

「しかし、王様も了承したのです。【人の知能を持っているなら、突然攻撃されたら普通逃げるか投降するだろうけど、反撃するって事はモンスターに違いない!】……そう言われて」

「はぁ! 何ソレ!?」

 ルイスロールの証言。王様の身勝手な言い分にミミティが声を荒らげる。

「お気持ちは分かります。王様も立場ある方、竜人族への攻撃に加担していたなど落ち度を認める訳にいかなかったのでしょう。……あくまでモンスター討伐と宣伝してくれと頼んできましたし」

 ルイスロールのここだけばなし
 随分と姑息な内容じゃった。
 王様は俯いたまま唸っておる。どうも図星のようじゃな。

 しかしまさかの隠蔽とはの。ミミティが冷たい目で王様を睨んでおるわい。

「それはアレか? せっかく交流を持っていた竜人族を過程はどうあれ攻撃してしまった。竜人族の長にでも知られれば大問題……。ならその前に仕留めてしまおう。こちらの落ち度を隠すために……そんな所か?」

 王様の目が泳いでおるわい。これも図星らしいの。
 しかし王様も、負けじと言い返してきた。
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