追放されたので千年後に転生しました~その幼女、元転移転生魔術師の再来~

がっきー

文字の大きさ
上 下
44 / 75
第一部 サークルポリス襲撃編

元転移転生魔術師、正体を明かす 後編

しおりを挟む
「集まりましたが……何用ですか?」

 ややあって。
 ワシの前に並ぶ二人の大人。
 デウディーン教団教皇のルイスロールと、サークルポリスの王様じゃ。

 ルイスロールは不機嫌そうで、王様は至近距離のレッドドラゴンを見ては、オドオドしておる。
 まあ仕方あるまいか。
 何せ、噴水の広場から人目につかぬ路地裏まで移ってもらったのじゃからの。

「ただの幼女だと侮っていたけど、まさか教団騎士すらつけて下さりませんとはね」

「な、なぁ……このドラゴン、何とかならんか……。さっきから息が当たって熱いんだが……」

「すまんのう、王様よ。そのレッドドラゴンは見張りじゃ。余計な者を寄せ付けんためのな」

 薄暗く、狭い路地裏。
 高貴な二人には似つかわしくない場所なのは理解しとる。しかし、そうしてでも周囲に見られてはならん理由が、ワシにはあった。

 ちなみに、ラスティアには路地裏の外を見張ってもらっておる。悪い虫を寄せ付けんのも騎士の役目だと説得しての。

「これだけ厳重に隠そうとするなんて、余程大事な話がある……という事なんでしょうねぇ?」

 ルイスロールが、皮肉めいた口調で尋ねてくる。

「まぁ、の。もしかしたら【見せる】かもしれんがのぉ」

「何を偉そうに……。いいですか、私たち教団には多くの教団騎士がおられます。その一人一人が強力なレベルやステータスを持っているのです。例えA級モンスターを従えていたとしても、教団騎士たちが束になればこんなもの……」

 ルイスロールが教団騎士の存在と戦力を話題に出して、ワシを脅しかけようとしてくる。
 その時、ワシは……。

「常世の闇が来ようとも、その眼差しが未知を呼ぶ……」

 デウディーン教団の賛美歌とやらを、口ずさんでいた。

「な、何です……」

「先にあるのは異世界か、掴める勇者はただひとり……胸をはれ、手を掲げ、伝説の魔法を叫ぶのだ……」

「何じゃこれ……デウディーン教団の歌か……?」

「な、何かと思えば、賛美歌を歌うのはよい心がけです。しかし今さら歌った所で、アナタの愚行を許す訳ではありません……」

 おーおー、言っとる言っとる。
 ビビってばかりの王様と違い、ルイスロールの方はそれなりに度胸を見せてきおる。
 ならワシも、本題に入ってやらねばな……。

「転移魔法、発動――!」

 ワシは手を掲げ、呪文を唱えた。
 ――バチバチバチ! と、稲妻が発生する。

「な、何じゃ、これは……!」

「アナタ、何を……!」

 ルイスロールも王様も驚いておる。
 ワシは二人の観客を前に転移魔法を発動させる。

「いでよ! ――おサル☆シンバル!」

 稲妻から発生した道具。ワシは掲げた手で掴み取った。
 それはオモチャのおサルさん。シンバルを両手に持ったシンプルな物。

「何が起きた……? 何だそのオモチャは……?」

「待って下さい。その前に、転移魔法って……」

 二人が戸惑って混乱しておる。
 ワシはおサルさんの背中を見る。ねじ巻きがついていた。そいつを指で掴み、回してみる。
 おサルさんの両手が動き出し、タンバリンを叩こうとした。
 すると……。
 オーケストラが流れて始めたのだ。

「え!? 何だこの高尚な音楽は!?」

「ど、どう見てもタンバリンを叩いているはずなのに……どこにこんなメロディが……?」

 突然のオーケストラに、二人が驚き強張ってしまう。無理もなかろう。タンバリンなんて、――バン! バン! って音しか鳴らないはずなのにな。
 ワシはよいリアクションを見せてくれる二人に対し、説明をしてやった。

「おサル☆シンバル。一見ただのねじ巻き式のおもちゃにしか見えぬじゃろうが、叩き出すシンバルからあらゆる音楽を奏でる事ができる」

「な、何を……?」

「奏でるって、たかがシンバルでしょう……?」

「もちろんじゃルイスロール。シンバル一つでこんな音楽、奏でられるはずがない。しかしワシの転移魔法なら可能じゃ。異世界【日本】から呼び寄せる時、実体を形成する影響で魔力を含んでいく。その恩恵によって、普通以上の効果が発揮できるようになるという訳じゃ」

「異世界、【日本】……?」

「な、その説明、一体何を言って……」

 呆ける王様に、戸惑いを隠しきれないルイスロール。
 二人の反応は別々。しかし表情が青ざめていく。
 当然じゃ。転移魔法を見せただけで、ラスティアでさえ感銘したのじゃ。

 信心深い教皇様に、権力に逆らえない王様。二人が信仰しておる伝説とやらを目の当たりにして、平然としていられるはずがない。

「転移魔法じゃ。お主らの言う伝説を……の」 

「伝……説……」

「あっ……」

「……!!」

 二人はようやく理解したらしい。
 ワシの転移魔法を見て。
 彼らの言う伝説とやらを、この目で目撃しているのじゃと。

「まさか……まさか……」

皇陛下すめらぎへいか・デウディーン世界教皇せかいきょうこう様の……伝説の……再来……?」

 こうなってしまえば後は簡単じゃ。
 奇跡を目の当たりにしたと思い込んだ彼らは、なだれ込むように行動を決していく。
 ダメ押しじゃ。一声かけてやるか。

「【伝説】を目の前にして、どうすればいいか……分かっておるじゃろう?」

 ビクッと、肩を震わせる。それから青ざめた表情のまま、二人は地面に手をつけ……。
 そして……。

「「ははーーーーーーーーーーーーーー!!!」」

 二人仲よく、土下座するのじゃった。



   ************************ 

【サージャ】≪『第二十二話をお読みいただき、ありがとうございます』

【サージャ】≪『今生かもしれない、シャルルとの別れ、ミミティとラスティアの協力をえて……』

【サージャ】≪『ついに自ら正体を明かしましたねマスター』

【サージャ】≪『スローライフのため避けていた手段を取ってでも、ルイスロールと王様に向き合おうとするその姿、覚醒した主人公のようでちょっと格好良かったですよ』

【サージャ】≪『最も、これからの事を考えると、マスターにとって嬉しくない賞賛なのかもしれません』

【サージャ】≪『そう、これは覚悟であり、ギャンブル。マスターのスローライフが犠牲になるかもしれないのですから……』

【サージャ】≪『それでは、次回をお楽しみに』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...