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第一部 サークルポリス襲撃編
元転移転生魔術師、正体を明かす 後編
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「集まりましたが……何用ですか?」
ややあって。
ワシの前に並ぶ二人の大人。
デウディーン教団教皇のルイスロールと、サークルポリスの王様じゃ。
ルイスロールは不機嫌そうで、王様は至近距離のレッドドラゴンを見ては、オドオドしておる。
まあ仕方あるまいか。
何せ、噴水の広場から人目につかぬ路地裏まで移ってもらったのじゃからの。
「ただの幼女だと侮っていたけど、まさか教団騎士すらつけて下さりませんとはね」
「な、なぁ……このドラゴン、何とかならんか……。さっきから息が当たって熱いんだが……」
「すまんのう、王様よ。そのレッドドラゴンは見張りじゃ。余計な者を寄せ付けんためのな」
薄暗く、狭い路地裏。
高貴な二人には似つかわしくない場所なのは理解しとる。しかし、そうしてでも周囲に見られてはならん理由が、ワシにはあった。
ちなみに、ラスティアには路地裏の外を見張ってもらっておる。悪い虫を寄せ付けんのも騎士の役目だと説得しての。
「これだけ厳重に隠そうとするなんて、余程大事な話がある……という事なんでしょうねぇ?」
ルイスロールが、皮肉めいた口調で尋ねてくる。
「まぁ、の。もしかしたら【見せる】かもしれんがのぉ」
「何を偉そうに……。いいですか、私たち教団には多くの教団騎士がおられます。その一人一人が強力なレベルやステータスを持っているのです。例えA級モンスターを従えていたとしても、教団騎士たちが束になればこんなもの……」
ルイスロールが教団騎士の存在と戦力を話題に出して、ワシを脅しかけようとしてくる。
その時、ワシは……。
「常世の闇が来ようとも、その眼差しが未知を呼ぶ……」
デウディーン教団の賛美歌とやらを、口ずさんでいた。
「な、何です……」
「先にあるのは異世界か、掴める勇者はただひとり……胸をはれ、手を掲げ、伝説の魔法を叫ぶのだ……」
「何じゃこれ……デウディーン教団の歌か……?」
「な、何かと思えば、賛美歌を歌うのはよい心がけです。しかし今さら歌った所で、アナタの愚行を許す訳ではありません……」
おーおー、言っとる言っとる。
ビビってばかりの王様と違い、ルイスロールの方はそれなりに度胸を見せてきおる。
ならワシも、本題に入ってやらねばな……。
「転移魔法、発動――!」
ワシは手を掲げ、呪文を唱えた。
――バチバチバチ! と、稲妻が発生する。
「な、何じゃ、これは……!」
「アナタ、何を……!」
ルイスロールも王様も驚いておる。
ワシは二人の観客を前に転移魔法を発動させる。
「いでよ! ――おサル☆シンバル!」
稲妻から発生した道具。ワシは掲げた手で掴み取った。
それはオモチャのおサルさん。シンバルを両手に持ったシンプルな物。
「何が起きた……? 何だそのオモチャは……?」
「待って下さい。その前に、転移魔法って……」
二人が戸惑って混乱しておる。
ワシはおサルさんの背中を見る。ねじ巻きがついていた。そいつを指で掴み、回してみる。
おサルさんの両手が動き出し、タンバリンを叩こうとした。
すると……。
オーケストラが流れて始めたのだ。
「え!? 何だこの高尚な音楽は!?」
「ど、どう見てもタンバリンを叩いているはずなのに……どこにこんなメロディが……?」
突然のオーケストラに、二人が驚き強張ってしまう。無理もなかろう。タンバリンなんて、――バン! バン! って音しか鳴らないはずなのにな。
ワシはよいリアクションを見せてくれる二人に対し、説明をしてやった。
「おサル☆シンバル。一見ただのねじ巻き式のおもちゃにしか見えぬじゃろうが、叩き出すシンバルからあらゆる音楽を奏でる事ができる」
「な、何を……?」
「奏でるって、たかがシンバルでしょう……?」
「もちろんじゃルイスロール。シンバル一つでこんな音楽、奏でられるはずがない。しかしワシの転移魔法なら可能じゃ。異世界【日本】から呼び寄せる時、実体を形成する影響で魔力を含んでいく。その恩恵によって、普通以上の効果が発揮できるようになるという訳じゃ」
「異世界、【日本】……?」
「な、その説明、一体何を言って……」
呆ける王様に、戸惑いを隠しきれないルイスロール。
二人の反応は別々。しかし表情が青ざめていく。
当然じゃ。転移魔法を見せただけで、ラスティアでさえ感銘したのじゃ。
信心深い教皇様に、権力に逆らえない王様。二人が信仰しておる伝説とやらを目の当たりにして、平然としていられるはずがない。
「転移魔法じゃ。お主らの言う伝説を……の」
「伝……説……」
「あっ……」
「……!!」
二人はようやく理解したらしい。
ワシの転移魔法を見て。
彼らの言う伝説とやらを、この目で目撃しているのじゃと。
「まさか……まさか……」
「皇陛下・デウディーン世界教皇様の……伝説の……再来……?」
こうなってしまえば後は簡単じゃ。
奇跡を目の当たりにしたと思い込んだ彼らは、なだれ込むように行動を決していく。
ダメ押しじゃ。一声かけてやるか。
「【伝説】を目の前にして、どうすればいいか……分かっておるじゃろう?」
ビクッと、肩を震わせる。それから青ざめた表情のまま、二人は地面に手をつけ……。
そして……。
「「ははーーーーーーーーーーーーーー!!!」」
二人仲よく、土下座するのじゃった。
************************
【サージャ】≪『第二十二話をお読みいただき、ありがとうございます』
【サージャ】≪『今生かもしれない、シャルルとの別れ、ミミティとラスティアの協力をえて……』
【サージャ】≪『ついに自ら正体を明かしましたねマスター』
【サージャ】≪『スローライフのため避けていた手段を取ってでも、ルイスロールと王様に向き合おうとするその姿、覚醒した主人公のようでちょっと格好良かったですよ』
【サージャ】≪『最も、これからの事を考えると、マスターにとって嬉しくない賞賛なのかもしれません』
【サージャ】≪『そう、これは覚悟であり、ギャンブル。マスターのスローライフが犠牲になるかもしれないのですから……』
【サージャ】≪『それでは、次回をお楽しみに』
ややあって。
ワシの前に並ぶ二人の大人。
デウディーン教団教皇のルイスロールと、サークルポリスの王様じゃ。
ルイスロールは不機嫌そうで、王様は至近距離のレッドドラゴンを見ては、オドオドしておる。
まあ仕方あるまいか。
何せ、噴水の広場から人目につかぬ路地裏まで移ってもらったのじゃからの。
「ただの幼女だと侮っていたけど、まさか教団騎士すらつけて下さりませんとはね」
「な、なぁ……このドラゴン、何とかならんか……。さっきから息が当たって熱いんだが……」
「すまんのう、王様よ。そのレッドドラゴンは見張りじゃ。余計な者を寄せ付けんためのな」
薄暗く、狭い路地裏。
高貴な二人には似つかわしくない場所なのは理解しとる。しかし、そうしてでも周囲に見られてはならん理由が、ワシにはあった。
ちなみに、ラスティアには路地裏の外を見張ってもらっておる。悪い虫を寄せ付けんのも騎士の役目だと説得しての。
「これだけ厳重に隠そうとするなんて、余程大事な話がある……という事なんでしょうねぇ?」
ルイスロールが、皮肉めいた口調で尋ねてくる。
「まぁ、の。もしかしたら【見せる】かもしれんがのぉ」
「何を偉そうに……。いいですか、私たち教団には多くの教団騎士がおられます。その一人一人が強力なレベルやステータスを持っているのです。例えA級モンスターを従えていたとしても、教団騎士たちが束になればこんなもの……」
ルイスロールが教団騎士の存在と戦力を話題に出して、ワシを脅しかけようとしてくる。
その時、ワシは……。
「常世の闇が来ようとも、その眼差しが未知を呼ぶ……」
デウディーン教団の賛美歌とやらを、口ずさんでいた。
「な、何です……」
「先にあるのは異世界か、掴める勇者はただひとり……胸をはれ、手を掲げ、伝説の魔法を叫ぶのだ……」
「何じゃこれ……デウディーン教団の歌か……?」
「な、何かと思えば、賛美歌を歌うのはよい心がけです。しかし今さら歌った所で、アナタの愚行を許す訳ではありません……」
おーおー、言っとる言っとる。
ビビってばかりの王様と違い、ルイスロールの方はそれなりに度胸を見せてきおる。
ならワシも、本題に入ってやらねばな……。
「転移魔法、発動――!」
ワシは手を掲げ、呪文を唱えた。
――バチバチバチ! と、稲妻が発生する。
「な、何じゃ、これは……!」
「アナタ、何を……!」
ルイスロールも王様も驚いておる。
ワシは二人の観客を前に転移魔法を発動させる。
「いでよ! ――おサル☆シンバル!」
稲妻から発生した道具。ワシは掲げた手で掴み取った。
それはオモチャのおサルさん。シンバルを両手に持ったシンプルな物。
「何が起きた……? 何だそのオモチャは……?」
「待って下さい。その前に、転移魔法って……」
二人が戸惑って混乱しておる。
ワシはおサルさんの背中を見る。ねじ巻きがついていた。そいつを指で掴み、回してみる。
おサルさんの両手が動き出し、タンバリンを叩こうとした。
すると……。
オーケストラが流れて始めたのだ。
「え!? 何だこの高尚な音楽は!?」
「ど、どう見てもタンバリンを叩いているはずなのに……どこにこんなメロディが……?」
突然のオーケストラに、二人が驚き強張ってしまう。無理もなかろう。タンバリンなんて、――バン! バン! って音しか鳴らないはずなのにな。
ワシはよいリアクションを見せてくれる二人に対し、説明をしてやった。
「おサル☆シンバル。一見ただのねじ巻き式のおもちゃにしか見えぬじゃろうが、叩き出すシンバルからあらゆる音楽を奏でる事ができる」
「な、何を……?」
「奏でるって、たかがシンバルでしょう……?」
「もちろんじゃルイスロール。シンバル一つでこんな音楽、奏でられるはずがない。しかしワシの転移魔法なら可能じゃ。異世界【日本】から呼び寄せる時、実体を形成する影響で魔力を含んでいく。その恩恵によって、普通以上の効果が発揮できるようになるという訳じゃ」
「異世界、【日本】……?」
「な、その説明、一体何を言って……」
呆ける王様に、戸惑いを隠しきれないルイスロール。
二人の反応は別々。しかし表情が青ざめていく。
当然じゃ。転移魔法を見せただけで、ラスティアでさえ感銘したのじゃ。
信心深い教皇様に、権力に逆らえない王様。二人が信仰しておる伝説とやらを目の当たりにして、平然としていられるはずがない。
「転移魔法じゃ。お主らの言う伝説を……の」
「伝……説……」
「あっ……」
「……!!」
二人はようやく理解したらしい。
ワシの転移魔法を見て。
彼らの言う伝説とやらを、この目で目撃しているのじゃと。
「まさか……まさか……」
「皇陛下・デウディーン世界教皇様の……伝説の……再来……?」
こうなってしまえば後は簡単じゃ。
奇跡を目の当たりにしたと思い込んだ彼らは、なだれ込むように行動を決していく。
ダメ押しじゃ。一声かけてやるか。
「【伝説】を目の前にして、どうすればいいか……分かっておるじゃろう?」
ビクッと、肩を震わせる。それから青ざめた表情のまま、二人は地面に手をつけ……。
そして……。
「「ははーーーーーーーーーーーーーー!!!」」
二人仲よく、土下座するのじゃった。
************************
【サージャ】≪『第二十二話をお読みいただき、ありがとうございます』
【サージャ】≪『今生かもしれない、シャルルとの別れ、ミミティとラスティアの協力をえて……』
【サージャ】≪『ついに自ら正体を明かしましたねマスター』
【サージャ】≪『スローライフのため避けていた手段を取ってでも、ルイスロールと王様に向き合おうとするその姿、覚醒した主人公のようでちょっと格好良かったですよ』
【サージャ】≪『最も、これからの事を考えると、マスターにとって嬉しくない賞賛なのかもしれません』
【サージャ】≪『そう、これは覚悟であり、ギャンブル。マスターのスローライフが犠牲になるかもしれないのですから……』
【サージャ】≪『それでは、次回をお楽しみに』
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