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第一部 サークルポリス襲撃編
元転移転生魔術師、通せんぼされる 後編
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「な、何だコレは……?」
ようやく動けるようになったかラスティア。
動揺しておるようじゃの。まあ無理もなかろう。
目の前に突然、石像と人形が転移されてきたのじゃから。
そう、これらはワシが転移したもの。
ワシは詠唱なしでも転移魔法が使えるのじゃ。
すでに剣を抜き、斬りかかろうとするマネキン相手に、詠唱しては間に合わんからの。びっくりさせるつもりで、何も言わず転移したという訳じゃ。
「どうじゃラスティア、驚いたか?」
「え……、これ、マリー様が……?」
「そうじゃ。今回は急ぎで転移させてもらった。この威厳☆存在☆人形像、中々壮観じゃろ?」
マネキンを取り囲んだ六体の石像と人形。
そのどれもが異世界【日本】から転移されたものじゃ。
まずは白いスーツに白ひげのおじいさん。次に見た目がちょっと怖いピエロ、それから小太鼓を持った人形、本を読む石像、今にも小便しそうな小僧、頭頂部に一本毛を生やした親父……。
そのどれもが存在感をもち、畏怖の念さえ感じさせてくれる。
そう、これこそが威厳☆存在☆人形像の最大の効果。
石像や人形一体一体から大きな存在感と胸にくるような威圧感を放ち、見ている者どもに畏怖の念を与えてしまう。一体いるだけでもメンタルの弱い者は恐怖に震え、屈服してしまうじゃろう。
それが六体。しかも取り囲んでおるんじゃ。いくら騎士でも、その威圧感には逆らえんじゃろうて。
「マリー様……すみませんがそろそろ引っ込めてもらえると……その、プレッシャーが凄くて……」
おお、ラスティアが震え声でお願いしてきおった。
さて、どうしようかのう。流石にワシ、プッツンしたからのう。
あヤツ、ワシのローブを斬るとかぬかしてきおった。その上、布きれとか……母のリーリエがワシの誕生日に作ってくれた、最高のローブじゃろが。
もう少し懲らしめてやりたい所じゃが……。
「ま、マリー様……どうか……。こ、これ以上は……押し潰されそうで……」
ラスティアが二度もお願いしてくる。
よく見ると、脂汗が流れておるではないか。仕方ない、そろそろ引っ込めてやろう。
「よし。もういいぞ。――転移魔法、消滅」
ワシは手を掲げ、詠唱する。
その直後に、威厳☆存在☆人形像は全て消えていった。
こんな風に、ワシは転移した道具をいつでも消滅させる事ができる。転移した物とは魔力で繋がっておるからの。ソレを断ち切るという話じゃ。
「た、助かりました。……ホッ」
ラスティアは胸を撫で下ろしていた。よほどのプレッシャーだったようじゃな。
しかし、遠くから見ていたラスティアでさえ、緊張感と震えを与えておった。それに比べ、マネキンには六体も囲わせておる。さぞかし強烈なプレッシャーに違いなかったろう。
「今のは脅しじゃ。これが武器ならお主は死んでいたぞ」
「……………………」
返事がない。固まっておるわ。
やはり効果てきめんじゃったようじゃな。
怯えたのか悔しいのか涙ぐんでおる。そらもう、涙が股下にまで流れて……。
「……ん?」
股下?
いや涙はそんな所から流れたりせん。
っていうかよく見ると、足元が水浸しで、太ももから液体が垂れておるではないか。
これはもしかして……。
「漏らして……おるのか?」
ビクッ!
震えるマネキン。
「やれやれ、上からも下からも泣きおって。小便する小僧がもう一体、増えてしもうたではないか」
ワシは冗談混じりな口調でからかってやった。
すると、これがトドメになったのか。
「……ぐすっ」
肩を強張らせるマネキン。
「う、うぇ……。うええええぇぇぇぇぇ……ん」
盛大に泣いてしもうたわ。まるで赤子のように。騎士としての威厳など感じなくなる程に。
「ふむ、やり過ぎてしまったかのう」
「いいえ、マリー様。マネキンの態度の悪さが招いた種です。自業自得です」
「あー、確かに、あの排他的なのはのう……。騎士としてあるまじき乱暴ぶりじゃったのう」
「真面目な者ではあるんですが……。実は、教団規則の一つに、貴族間の上下関係を持ち込まない……というものがあるんです。騎士間の序列を確かなものにするために……」
「ラスティアが先輩じゃから、偉く振る舞えないと」
「それもありますし、評価方法が騎士としての戦果なのです。マネキンは内勤、私は外勤なので、その分私の方が評価が集まりやすく……」
あー、対抗意識を燃やしておったのか。子爵の子なのに偉そうに振る舞えず、ラスティアより評価されないせいで、鬱憤が溜まってしもうて……。
きっと日頃から、憂さ晴らしをしとったんじゃろうな。ラスティアや、ワシ位の子供に辛く当たったりして……。
「行きましょう、マリー様」
「ああ、そうじゃな。……これに懲りたら、大人しくするんじゃぞ? あとこのローブ、最高のローブじゃからな?」
返事はなかった。これでマネキンが反省してくれればよいのじゃが……。
ワシはそそくさと、その場をあとにする。
これ以上、マネキンの話をする事なく、ワシらは教会へ向かっていった。
************************
【サージャ】≪『第十三話をお読みいただき、ありがとうございます』
【サージャ】≪『流石に、ローブを侮辱した件は許せなかったようですね』
【サージャ】≪『あの白いローブは、マスターが転生してから八歳の誕生日の時、リーリエがなけなしのお金で上等な絹を買って編んでくれた、マスターにとって思い出の物だった訳です』
【サージャ】≪『珍しく怒っていましたね。おもらしさせる位に追い詰めたのですから。決めゼリフなんてビシッと決めて』
【サージャ】≪『そのせいで、最後は気まずい空気に包まれてしまいましたが……』
【サージャ】≪『余談ですが、「今のは脅し……」と「小便する小僧……」の下り、実はマスターが密かに使いたいと思っているセリフ第三位と第二位でした』
【サージャ】≪『決めゼリフなるものを考え、格好良く言い放ってやろう、などという妄想に千年前から浸っていたマスターだったのです』
【サージャ】≪『ちなみに第一位は、「悪いな。この転移魔法、三人までなんだ」との事』
【サージャ】≪『何目的に使うつもりなんでしょうね、マスター』
【サージャ】≪『少しは空気が和んだ所で……それでは、次回をお楽しみに』
ようやく動けるようになったかラスティア。
動揺しておるようじゃの。まあ無理もなかろう。
目の前に突然、石像と人形が転移されてきたのじゃから。
そう、これらはワシが転移したもの。
ワシは詠唱なしでも転移魔法が使えるのじゃ。
すでに剣を抜き、斬りかかろうとするマネキン相手に、詠唱しては間に合わんからの。びっくりさせるつもりで、何も言わず転移したという訳じゃ。
「どうじゃラスティア、驚いたか?」
「え……、これ、マリー様が……?」
「そうじゃ。今回は急ぎで転移させてもらった。この威厳☆存在☆人形像、中々壮観じゃろ?」
マネキンを取り囲んだ六体の石像と人形。
そのどれもが異世界【日本】から転移されたものじゃ。
まずは白いスーツに白ひげのおじいさん。次に見た目がちょっと怖いピエロ、それから小太鼓を持った人形、本を読む石像、今にも小便しそうな小僧、頭頂部に一本毛を生やした親父……。
そのどれもが存在感をもち、畏怖の念さえ感じさせてくれる。
そう、これこそが威厳☆存在☆人形像の最大の効果。
石像や人形一体一体から大きな存在感と胸にくるような威圧感を放ち、見ている者どもに畏怖の念を与えてしまう。一体いるだけでもメンタルの弱い者は恐怖に震え、屈服してしまうじゃろう。
それが六体。しかも取り囲んでおるんじゃ。いくら騎士でも、その威圧感には逆らえんじゃろうて。
「マリー様……すみませんがそろそろ引っ込めてもらえると……その、プレッシャーが凄くて……」
おお、ラスティアが震え声でお願いしてきおった。
さて、どうしようかのう。流石にワシ、プッツンしたからのう。
あヤツ、ワシのローブを斬るとかぬかしてきおった。その上、布きれとか……母のリーリエがワシの誕生日に作ってくれた、最高のローブじゃろが。
もう少し懲らしめてやりたい所じゃが……。
「ま、マリー様……どうか……。こ、これ以上は……押し潰されそうで……」
ラスティアが二度もお願いしてくる。
よく見ると、脂汗が流れておるではないか。仕方ない、そろそろ引っ込めてやろう。
「よし。もういいぞ。――転移魔法、消滅」
ワシは手を掲げ、詠唱する。
その直後に、威厳☆存在☆人形像は全て消えていった。
こんな風に、ワシは転移した道具をいつでも消滅させる事ができる。転移した物とは魔力で繋がっておるからの。ソレを断ち切るという話じゃ。
「た、助かりました。……ホッ」
ラスティアは胸を撫で下ろしていた。よほどのプレッシャーだったようじゃな。
しかし、遠くから見ていたラスティアでさえ、緊張感と震えを与えておった。それに比べ、マネキンには六体も囲わせておる。さぞかし強烈なプレッシャーに違いなかったろう。
「今のは脅しじゃ。これが武器ならお主は死んでいたぞ」
「……………………」
返事がない。固まっておるわ。
やはり効果てきめんじゃったようじゃな。
怯えたのか悔しいのか涙ぐんでおる。そらもう、涙が股下にまで流れて……。
「……ん?」
股下?
いや涙はそんな所から流れたりせん。
っていうかよく見ると、足元が水浸しで、太ももから液体が垂れておるではないか。
これはもしかして……。
「漏らして……おるのか?」
ビクッ!
震えるマネキン。
「やれやれ、上からも下からも泣きおって。小便する小僧がもう一体、増えてしもうたではないか」
ワシは冗談混じりな口調でからかってやった。
すると、これがトドメになったのか。
「……ぐすっ」
肩を強張らせるマネキン。
「う、うぇ……。うええええぇぇぇぇぇ……ん」
盛大に泣いてしもうたわ。まるで赤子のように。騎士としての威厳など感じなくなる程に。
「ふむ、やり過ぎてしまったかのう」
「いいえ、マリー様。マネキンの態度の悪さが招いた種です。自業自得です」
「あー、確かに、あの排他的なのはのう……。騎士としてあるまじき乱暴ぶりじゃったのう」
「真面目な者ではあるんですが……。実は、教団規則の一つに、貴族間の上下関係を持ち込まない……というものがあるんです。騎士間の序列を確かなものにするために……」
「ラスティアが先輩じゃから、偉く振る舞えないと」
「それもありますし、評価方法が騎士としての戦果なのです。マネキンは内勤、私は外勤なので、その分私の方が評価が集まりやすく……」
あー、対抗意識を燃やしておったのか。子爵の子なのに偉そうに振る舞えず、ラスティアより評価されないせいで、鬱憤が溜まってしもうて……。
きっと日頃から、憂さ晴らしをしとったんじゃろうな。ラスティアや、ワシ位の子供に辛く当たったりして……。
「行きましょう、マリー様」
「ああ、そうじゃな。……これに懲りたら、大人しくするんじゃぞ? あとこのローブ、最高のローブじゃからな?」
返事はなかった。これでマネキンが反省してくれればよいのじゃが……。
ワシはそそくさと、その場をあとにする。
これ以上、マネキンの話をする事なく、ワシらは教会へ向かっていった。
************************
【サージャ】≪『第十三話をお読みいただき、ありがとうございます』
【サージャ】≪『流石に、ローブを侮辱した件は許せなかったようですね』
【サージャ】≪『あの白いローブは、マスターが転生してから八歳の誕生日の時、リーリエがなけなしのお金で上等な絹を買って編んでくれた、マスターにとって思い出の物だった訳です』
【サージャ】≪『珍しく怒っていましたね。おもらしさせる位に追い詰めたのですから。決めゼリフなんてビシッと決めて』
【サージャ】≪『そのせいで、最後は気まずい空気に包まれてしまいましたが……』
【サージャ】≪『余談ですが、「今のは脅し……」と「小便する小僧……」の下り、実はマスターが密かに使いたいと思っているセリフ第三位と第二位でした』
【サージャ】≪『決めゼリフなるものを考え、格好良く言い放ってやろう、などという妄想に千年前から浸っていたマスターだったのです』
【サージャ】≪『ちなみに第一位は、「悪いな。この転移魔法、三人までなんだ」との事』
【サージャ】≪『何目的に使うつもりなんでしょうね、マスター』
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