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第一部 サークルポリス襲撃編

元転移転生魔術師、通せんぼされる 前編

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「や、やっと着いたか……」

 ワシとラスティアの息が荒かった。
 ようやくモンスターの侵入を乗り越えて、教会の前まで着いたからじゃ。

『マスターが手当たり次第にモンスターを倒していかなければ、ニ時間三十分は早く到着していました』

「やかましい! だってしょうがないじゃろ、目の前で人が襲われとったら放っておけんじゃろ……」

 まあ、サージャに指摘された通り、ワシらは騒ぎが落ち着くまでモンスターを倒して回っていた。そのせいで時間がかかってしまったのじゃ……。
 と思っていたら、ラスティアがまたも涙を流しておる。

「感動……いたしました!」

 何に感じたんじゃろうか。こヤツの反応がよく分からん……。

「自らの使命があるにも関わらず、弱者を救いモンスターを倒していく! ……その勇ましくも慈悲深い姿はまさに……かの皇陛下すめらぎへいか、デウディーン世界教皇せかいきょうこう様を彷彿とさせる活躍ぶり!」

「……分かっておると思うが、ワシ、そのデウディーンじゃないから」

「も……もちろん分かっております! まま、間違ってもマリー様とデウディーン様が同一人物など微塵も思ってません!!!」

 何か怯えたように、ラスティアの口調が早口になった。
 まあ、今の反応は分かっておるんじゃけどね……。

「もうよい。それより案内してくれ。中に入りたい」

「ハッ! ではこちらに!」

 見るからに巨大な建物。改めて見ても、その大きさも質感もすごい物がある。近くに建てられておる城は年季が入っておるのか、手入れが行き届いてない感じなのに、教会にはそんな粗が全く見当たらない。どれをとっても完璧なのじゃ。
 そんな豪華絢爛ごうかけんらんな教会に入ろうとしておるのじゃ。一体、中はどうなっておるのか……。

「そこの二人、待ちなさい!」

 ワシとラスティアを呼び止める声が響いた。
 振り向くと、向かってきたのは一人の少女騎士。

「アナタたち、ここで何をしているの?」

「何って、見学に来たんじゃが……」

「帰りなさい! ここは神聖な総本山。けがらわしい子供ごときが立ち入っていい場所じゃないのよ!」

 何じゃコイツ……。随分偉そうじゃのう……。
 出会いがしらにワシを侮辱しおったのか?
 腹立つのう……何者なんじゃこヤツは……。

 見た所、ラスティアと似たような鎧を着ておるおかっぱ頭の少女じゃな。歳もラスティアと近そうか? ならこヤツも教団の騎士……?

「ああっ、マリー様! 申し訳ございません!」

 ここでラスティアがワシの前にたち、頭を下げ始める。

「彼女はマネキン! 私と同じ教団騎士なのです! マネキンは私の後輩ですが、私と違い教会勤務であるため、一般市民への態度を知らないのです!」

「ふんっ、世渡り上手と言ってもらいたいですね、先輩」

 ワシに深々と謝罪をするラスティア。そんな彼女を見下しておる少女騎士――マネキン。
 先輩後輩の関係らしいが、どうも穏やかじゃなさそうじゃのう……。

「私は教徒。総本山を守る身。たかが信者と同じだと思わないでいただきたい。ましてや見学って……キミ野蛮人? 今どきデウディーン様を崇拝していない人なんていたんだ!」

「やめろマネキン! マリー様を侮辱するんじゃない!」

「先輩も! 今の状況分かってます? モンスターに襲われてるんですよ? それなのにのん気に見学ですか? 見回り組は気楽でいいですねぇ~」

 コイツさっきから態度が悪い。
 嫌な感じじゃ。先輩のハズのラスティアにも、随分と当たりが強い。

 そう思いイライラしていたワシの様子に気がついたのか、ラスティアが耳元で説明してくれた。

「彼女はデウディーン教団の教徒と呼ばれる存在で、信者より教団に近い立場なのです。そのせいか、自分を偉いと思って態度がでかい者も多くいるんです」

「教団教徒ねぇ……。にしても、何でお主にまでキツく当たってくるんじゃ?」

「……一方的にライバル視されているようです。マネキンも、私のように村をパトロールする仕事の大切さは知っているはずなのですが……」

 立場が低いとか言っとったし、見下されてるかも分からんね。
 ともかく、こういう輩は無視に限る。
 ワシはマネキンに構わず、教会に入っていこうとした。

「待ちなさいと言ってるでしょ!」

 マネキンはソレを見逃さず、ガシッとワシの腕を掴んできた。

「マネキン! 何をしている!」

「いいえ先輩! この子は罪を犯しました! 我が総本山への不法侵入! 子供であろうと重罪です! 即刻処刑にします!」

 何とこのマネキン、突然怒ったかと思うと鞘から剣を抜き出してきたではないか。さすがのワシもびっくり。
 ラスティアも剣を抜いてしまう。まさに一触即発の状況。
 おいおいマジかよ……。なぜこんな子供一人にここまでムキになれるんじゃ……?

「なぁ、マネキンといったか? お主、それでいいのか? イメージダウンにならんか?」

「な、何ですって……!」

「ワシ、今日は見学で来たんじゃけど、もしかしたら感動して入信するかもよ? 信者増えるかもしれんよ? なのに初対面で横暴な態度で接してきたら、せっかくのお客さんを逃してしまうかもしれんよ?」

「ううっ……!」

 マネキンが歯を噛み締めておる。効いておる証拠じゃな。

「た、たかが子供が信者になった所で、デウディーン様が喜ぶものか……!」

「ワシが教祖だったら嬉しいけどなぁ。右側に分けた前髪が似合う黒髪美幼女が、信者になるとか言ってくれたらワシ、それだけでお腹膨れるわい」

「……っ、キサマ! 田舎臭い幼女ごときがデウディーン様を語るかっ!」

「イヤイヤ、冷静に考えてみ? プリプリ怒った女と、将来有望な幼女。どっちを選ぶかって言われたら……ワシは幼女選ぶけどなぁ?」

「な……な……」

 マネキンの顔が紅潮しておる。
 肩を震わせ、剣に手をかけようとしておる。
 あ、コレ、言い過ぎたか?

「あー、お主、今日はここまでにしてここを通して……」

「うるさいっ! うるさいっ! 私の家は子爵だぞ! 教団規則さえなければ先輩より偉いんだっ!」

 ワシの話をしたのがよほど気に入らなかったらしい。マネキンが剣を抜いてしまったのじゃ。

「……! マリー様、いけません!」

 ラスティアが前に立ちふさがり、剣を抜き始める。
 マネキンが斬りつけようと、襲いかかってきたからじゃ。

「どいて下さい先輩! その幼女、斬らなければなりません!」

「落ち着けマネキン! こんな所で流血沙汰はおかしいだろ!」

「いいえ、許せません! せめて教会に立ち入るなら、そんな汚い布切れだけでも切り落とさないと!」

 汚い、布切れ……?
 ローブの事か……?
 頭の中で、何かが切れる音がした。
 そして、ワシは右手を掲げていた。
 その瞬間じゃった。

「うっ……!」

「あっ……!」

 マネキンも、ラスティアも。
 その場で硬直してしまったのだ。
 一触即発の空気が、一気に青ざめた表情に変わってしまった。

 微動だにしない二人。
 状態異常にかけられたのだろうか。
 それとも、強大なモンスターでも現れたか。
 いや、そうではなかった。

 ――マネキンの周囲を、石像と人形が複数、取り囲んでいたからじゃ。
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