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第一部 サークルポリス襲撃編
元転移転生魔術師、到着する 後編
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う、歌……?
サージャの解説が理解できぬまま、
街中の人が一斉に声をあげ始めた――
常世の闇が来ようとも その眼差しが未知を呼ぶ
先にあるのは異世界か 掴める勇者はただひとり
胸をはれ 手を掲げ 伝説の魔法を叫ぶのだ
『どうか! 迷える我らに音楽を!』
『転移魔法! おサル☆シンバル!』
オウ! デウディーン! デウディーン!
信じる我らに救いあれ!
デウディーン! デウディーン!
御身は父の一部なり!
デウディーン! デウディーン!
輝く未来を示せいざ! ヘイ!
皆がイキイキとした表情で歌っておる。
「…………………………………」
一方、ワシはあ然としておった。
言葉にできなかった。何せワシの知らん所で、勝手に歌が作られていたのじゃから。
しかも妙に熱を込めて、【ヘイ!】とか言って盛り上がろうとするセンスのわけ分からんさに……。
「うっ……うっ……」
馬車の運転席から、涙をすする声が聞こえてくる。
あろう事かラスティア、泣いておるのだ。
「ど、どうしたんじゃ……?」
「感動したのです……! デウディーン様への讃美歌に……ソレを届けようとする皆の熱意に……大合唱に……涙が止まりません……!」
感動しておるらしい……。嗚咽が止まらん様子じゃった。
ワシは一刻も早く、この場から逃げ出したい気分なじゃけどなー……。
と、恥ずかしい気分で穴があったら入りたい。そう思っていた、その時じゃった。
――ドォォォン!
鳴り響く爆発音。
何かがぶつかった、もしくは破壊されたような大音量が胸にまで響く。
「何じゃ……? また礼拝か……?」
「いえ、どうも違うようです……」
兵士や冒険者たちの動きが一層慌ただしくなった。
馬車が止まる。混雑が激しく、進めなくなったからじゃ。
すると上空から、モンスターが飛んでくるのが見えていた。モンスターが侵入したのか。
「おい、どうした? 何が起きておる?」
『分析によりますと、モンスターの侵入を許してしまったようです』
「そんな事は分かっておる。何で侵入したんじゃ? 兵士や冒険者たちが守っておったんじゃろ?」
『歌が原因です』
「歌ぁ?」
サージャの説明がイマイチ要領を得ん。
もう少し聞こうかと思った時、ラスティアが口を挟んだ。
「……先程の讃美歌は、信者全員が歌うもの。多くの冒険者や兵士全員が参加した分、守りが手薄になったのでしょう……」
「…………………………」
何じゃそりゃ。
ラスティアの言い訳に、ワシは呆れて言葉が出なかったわ。
この街を守るという使命を投げ出してまで、ワシへの崇拝が大事だと言うのかこの連中は。
よく見ると、オークを始め地上にもモンスターが侵入している。冒険者たちでは手が足りぬようだ。
「マリー様、いったん離れましょう! 安全な場所に避難し、教会へ行くのは今度という事で……」
「いや、行こう。一刻も早く行きたい気分じゃわ」
ワシは馬車を降りた。そして手を掲げた。
「転移魔法、発動――! いでよ! ――ピコピカ☆光線銃!」
掲げた手の先から稲妻が発生。
そこから落ちてきた物は、オモチャの光線銃。
見た目は子供向けの玩具。
ワシは光線銃をオークに向け、狙いを定める。
そして引き金を引く。
――ピピピピ……。
音が鳴る。光線銃の明かりが光るのみ。
弾は出ないし、魔法もなかった。
しかし、オークが悶え始める。
「ぐ、グワァァァァ……! ヤ、ヤラレタァァァ~!」
そして、苦しむようなジェスチャーを見せつつ、その場に倒れてしまった。
「えっ! マリー様! これは一体……!!」
ラスティアが驚いておる。
彼女の視線の先には、ピクピクと痙攣するオーク。
まあ付近の冒険者たちも目を丸くしておる。
ワシはしょうがないと思い、話してやった。
「……ピコピカ☆光線銃。コイツで狙いをつけ、引き金を引く。すると狙われた対象は【ヤラレタ~!】と声をあげながら勝手に倒れてしまう。……そんな道具じゃ」
「ええっ! そんな、すごいじゃないですか! さっきのオークだって、オーガと同じC級ですよ! 冒険者複数人がかりで倒すような強さだというのに、それを、あんな一瞬で倒してしまうって……!」
「ええから! ワシ急いどるんじゃ、はよ案内してくれ!」
「わ、分かりました! ですがこの混乱した状況、馬車は使えそうにないので歩いていきましょう!」
オモチャの光線銃で倒した事がそんなに珍しかったのか、ラスティアがえらく称賛を浴びせてくる。
しかし、ワシはそんなのに構う気になれなかった。
ワシの視界に入ったモンスターを蹴散らしながら、
「ウワアアアアアア……! ヤラレタァァ~!」
「マイッタァァァ~! コウサンダァァァ~……!」
「ク、クソ~! オボエテロヨォォォォォ~!」
ただひたすらと、ラスティアの案内のもと教会を目指していくのじゃった。
ワシはとにかく、一刻も早く教会に行きたかった。
なぜなら、色々と言いたい事があったからのぉ……。
************************
【サージャ】≪『第十二話をお読みいただき、ありがとうございます』
【サージャ】≪『到着したサークルポリスは、モンスターに襲われ、ただ事ではない状況でした』
【サージャ】≪『しかしそれでも祈りの時間を忘れず、讃美歌を歌いきる彼ら信者の崇拝ぶりから、いかにデウディーン教団の教えが、人々の暮らしに浸透しているのか伺えますね』
【サージャ】≪『そんな状況に置かれたマスターたちは、モンスターの襲撃を抜け、無事に教会までたどり着けるのでしょうか』
【サージャ】≪『それでは、次回をお楽しみに』
サージャの解説が理解できぬまま、
街中の人が一斉に声をあげ始めた――
常世の闇が来ようとも その眼差しが未知を呼ぶ
先にあるのは異世界か 掴める勇者はただひとり
胸をはれ 手を掲げ 伝説の魔法を叫ぶのだ
『どうか! 迷える我らに音楽を!』
『転移魔法! おサル☆シンバル!』
オウ! デウディーン! デウディーン!
信じる我らに救いあれ!
デウディーン! デウディーン!
御身は父の一部なり!
デウディーン! デウディーン!
輝く未来を示せいざ! ヘイ!
皆がイキイキとした表情で歌っておる。
「…………………………………」
一方、ワシはあ然としておった。
言葉にできなかった。何せワシの知らん所で、勝手に歌が作られていたのじゃから。
しかも妙に熱を込めて、【ヘイ!】とか言って盛り上がろうとするセンスのわけ分からんさに……。
「うっ……うっ……」
馬車の運転席から、涙をすする声が聞こえてくる。
あろう事かラスティア、泣いておるのだ。
「ど、どうしたんじゃ……?」
「感動したのです……! デウディーン様への讃美歌に……ソレを届けようとする皆の熱意に……大合唱に……涙が止まりません……!」
感動しておるらしい……。嗚咽が止まらん様子じゃった。
ワシは一刻も早く、この場から逃げ出したい気分なじゃけどなー……。
と、恥ずかしい気分で穴があったら入りたい。そう思っていた、その時じゃった。
――ドォォォン!
鳴り響く爆発音。
何かがぶつかった、もしくは破壊されたような大音量が胸にまで響く。
「何じゃ……? また礼拝か……?」
「いえ、どうも違うようです……」
兵士や冒険者たちの動きが一層慌ただしくなった。
馬車が止まる。混雑が激しく、進めなくなったからじゃ。
すると上空から、モンスターが飛んでくるのが見えていた。モンスターが侵入したのか。
「おい、どうした? 何が起きておる?」
『分析によりますと、モンスターの侵入を許してしまったようです』
「そんな事は分かっておる。何で侵入したんじゃ? 兵士や冒険者たちが守っておったんじゃろ?」
『歌が原因です』
「歌ぁ?」
サージャの説明がイマイチ要領を得ん。
もう少し聞こうかと思った時、ラスティアが口を挟んだ。
「……先程の讃美歌は、信者全員が歌うもの。多くの冒険者や兵士全員が参加した分、守りが手薄になったのでしょう……」
「…………………………」
何じゃそりゃ。
ラスティアの言い訳に、ワシは呆れて言葉が出なかったわ。
この街を守るという使命を投げ出してまで、ワシへの崇拝が大事だと言うのかこの連中は。
よく見ると、オークを始め地上にもモンスターが侵入している。冒険者たちでは手が足りぬようだ。
「マリー様、いったん離れましょう! 安全な場所に避難し、教会へ行くのは今度という事で……」
「いや、行こう。一刻も早く行きたい気分じゃわ」
ワシは馬車を降りた。そして手を掲げた。
「転移魔法、発動――! いでよ! ――ピコピカ☆光線銃!」
掲げた手の先から稲妻が発生。
そこから落ちてきた物は、オモチャの光線銃。
見た目は子供向けの玩具。
ワシは光線銃をオークに向け、狙いを定める。
そして引き金を引く。
――ピピピピ……。
音が鳴る。光線銃の明かりが光るのみ。
弾は出ないし、魔法もなかった。
しかし、オークが悶え始める。
「ぐ、グワァァァァ……! ヤ、ヤラレタァァァ~!」
そして、苦しむようなジェスチャーを見せつつ、その場に倒れてしまった。
「えっ! マリー様! これは一体……!!」
ラスティアが驚いておる。
彼女の視線の先には、ピクピクと痙攣するオーク。
まあ付近の冒険者たちも目を丸くしておる。
ワシはしょうがないと思い、話してやった。
「……ピコピカ☆光線銃。コイツで狙いをつけ、引き金を引く。すると狙われた対象は【ヤラレタ~!】と声をあげながら勝手に倒れてしまう。……そんな道具じゃ」
「ええっ! そんな、すごいじゃないですか! さっきのオークだって、オーガと同じC級ですよ! 冒険者複数人がかりで倒すような強さだというのに、それを、あんな一瞬で倒してしまうって……!」
「ええから! ワシ急いどるんじゃ、はよ案内してくれ!」
「わ、分かりました! ですがこの混乱した状況、馬車は使えそうにないので歩いていきましょう!」
オモチャの光線銃で倒した事がそんなに珍しかったのか、ラスティアがえらく称賛を浴びせてくる。
しかし、ワシはそんなのに構う気になれなかった。
ワシの視界に入ったモンスターを蹴散らしながら、
「ウワアアアアアア……! ヤラレタァァ~!」
「マイッタァァァ~! コウサンダァァァ~……!」
「ク、クソ~! オボエテロヨォォォォォ~!」
ただひたすらと、ラスティアの案内のもと教会を目指していくのじゃった。
ワシはとにかく、一刻も早く教会に行きたかった。
なぜなら、色々と言いたい事があったからのぉ……。
************************
【サージャ】≪『第十二話をお読みいただき、ありがとうございます』
【サージャ】≪『到着したサークルポリスは、モンスターに襲われ、ただ事ではない状況でした』
【サージャ】≪『しかしそれでも祈りの時間を忘れず、讃美歌を歌いきる彼ら信者の崇拝ぶりから、いかにデウディーン教団の教えが、人々の暮らしに浸透しているのか伺えますね』
【サージャ】≪『そんな状況に置かれたマスターたちは、モンスターの襲撃を抜け、無事に教会までたどり着けるのでしょうか』
【サージャ】≪『それでは、次回をお楽しみに』
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