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第一部 転生編

元転移転生魔術師、ミルクを盛る 後編

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「デウディーン様の伝説はね、この村でもよく聞くの。誰もが崇拝する、素晴らしい方だって。教団には入ってないけど、私たちもファンなのよ」

「そ、そうなん……」

「特にお父さんなんて熱心でね。部屋にいっぱいデウディーン様の彫刻が飾られてるのよ。お父さんに一つ分けてもらえるか頼んでみよっか?」

「ううん……いらない……」

 ワシは頭を抱えていた。生前のワシが、こんなに有名になっているなんて、知らなかったからじゃ。何なんこれ……何でこんな知れ渡ってるん……?

 そう言えば、村の事など疎かった気がする。何せ、遊びに行くと言っては、秘密基地に出かけてばっかりじゃったからのぉ。

 そうじゃ。有名と言えば……。
 念のため、確かめてみようかの。

「ねぇお母さん、お父さん、騎士さん、……【田中たかし】って知ってる?」

「田中たかし……いえ、知らないわね。お父さんも聞いた事がないって言っているわ」

「ご存知ありませんね……。過去千年の異世界転移者のリストに目を通しましたが、そのような名前の者は覚えがありませんでした」

 やはり、たかしの事は誰も知らんらしい。

 それはそれとして、マズイ流れじゃ。
 なぜならワシ、卵から転生したからね。
 卵から千年後に転生して、今の両親に拾われ育てられてきた過去があるからね。

 もし、両親からその話をされるとラスティアを勢いづかせてしまう。やはり私の目に狂いはなかったと。

 そうなってしまえば、ワシの教団連行が現実になってしまいそうじゃ。その前に手を打たねば。

「ねー、お母さん、お父さん。向こう行っていいー?」

「ええ、どうしたのマリー?」

「あのね、騎士さんにミルクあげようと思うの。お客さんだからね、マリーがあげたいの。いいでしょ?」

「まあ、偉いわマリー。そんな気づかいができるなんて! いいわ、おいしいミルクお願いね」

 よし、うまくいった。
 ワシはこのスキに、奥の部屋に移動していく。
 そして扉を閉め、懐に忍ばせていたサージャに声をかけた。

「サージャ、聞こえとるか。両親とラスティアのステータスを、把握しといてくれ」

『やれやれ覗きですか。人のステータスを覗く性癖に、育てた覚えはありませんよ?』

「違わい! 誰が性癖じゃ! あヤツらの様子を確認しとけって言っとるんじゃ!」

 全くサージャめ。勘違いで呆れおって!
 ワシはこれからやる事があるというのに! そう、ワシの今後を決めかねん大事な事を!

「転移魔法、発動――!」

 掲げた手に魔力を込める。
 ――バチバチ! と音を立て、現れる稲妻。
 その刹那、ワシは求める物をイメージした。

「いでよ! ――まどろみ☆ホットミルク!」

 詠唱であり、名称を唱えた瞬間。
 稲妻が止み、物質となってワシの手に落ちる。
 掲げた手でキャッチするそれは、白いガラス細工のカップ。その中から湯気がたち、温もりが伝わってくる。
 入っていたのは白い液体。ミルクだ。

「ホットミルクには、リラックス効果がある――」

 誰に向けるでもなく、ワシは独り言をつぶやく。

「両親やラスティアが飲んでくれれば、ワシの言う事を聞いてくれるじゃろう……」

 これが、ワシの立てた作戦。
 ホットミルクを飲ませてリラックス効果で脱力させる。
 そして意識を混濁させたところで、ワシの言う事を聞かせるのじゃ。



************************

【サージャ】≪『第六話をお読みいただき、ありがとうございます』

【サージャ】≪『マスターが存命していた千年前と言えば、攻撃魔法が高く評価される時代であり、転移魔法への評価はゼロに限りなく近い、最低評価でした』

【サージャ】≪『なのに今となっては、伝説とまで言われるこの有り様。時間の流れとは残酷ですね』

【サージャ】≪『それにしても、マスターのスローライフが危ぶまれる中で考えた、意識を混濁させるという、端から見れば最低の行為』

【サージャ】≪『しかし、なりふり構っていられなかったのかもしれません』

【サージャ】≪『果たして、この作戦はうまくいくのでしょうか』

【サージャ】≪『それでは、次回をお楽しみに』
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