12 / 75
第一部 転生編
元転移転生魔術師、ミルクを盛る 後編
しおりを挟む
「デウディーン様の伝説はね、この村でもよく聞くの。誰もが崇拝する、素晴らしい方だって。教団には入ってないけど、私たちもファンなのよ」
「そ、そうなん……」
「特にお父さんなんて熱心でね。部屋にいっぱいデウディーン様の彫刻が飾られてるのよ。お父さんに一つ分けてもらえるか頼んでみよっか?」
「ううん……いらない……」
ワシは頭を抱えていた。生前のワシが、こんなに有名になっているなんて、知らなかったからじゃ。何なんこれ……何でこんな知れ渡ってるん……?
そう言えば、村の事など疎かった気がする。何せ、遊びに行くと言っては、秘密基地に出かけてばっかりじゃったからのぉ。
そうじゃ。有名と言えば……。
念のため、確かめてみようかの。
「ねぇお母さん、お父さん、騎士さん、……【田中たかし】って知ってる?」
「田中たかし……いえ、知らないわね。お父さんも聞いた事がないって言っているわ」
「ご存知ありませんね……。過去千年の異世界転移者のリストに目を通しましたが、そのような名前の者は覚えがありませんでした」
やはり、たかしの事は誰も知らんらしい。
それはそれとして、マズイ流れじゃ。
なぜならワシ、卵から転生したからね。
卵から千年後に転生して、今の両親に拾われ育てられてきた過去があるからね。
もし、両親からその話をされるとラスティアを勢いづかせてしまう。やはり私の目に狂いはなかったと。
そうなってしまえば、ワシの教団連行が現実になってしまいそうじゃ。その前に手を打たねば。
「ねー、お母さん、お父さん。向こう行っていいー?」
「ええ、どうしたのマリー?」
「あのね、騎士さんにミルクあげようと思うの。お客さんだからね、マリーがあげたいの。いいでしょ?」
「まあ、偉いわマリー。そんな気づかいができるなんて! いいわ、おいしいミルクお願いね」
よし、うまくいった。
ワシはこのスキに、奥の部屋に移動していく。
そして扉を閉め、懐に忍ばせていたサージャに声をかけた。
「サージャ、聞こえとるか。両親とラスティアのステータスを、把握しといてくれ」
『やれやれ覗きですか。人のステータスを覗く性癖に、育てた覚えはありませんよ?』
「違わい! 誰が性癖じゃ! あヤツらの様子を確認しとけって言っとるんじゃ!」
全くサージャめ。勘違いで呆れおって!
ワシはこれからやる事があるというのに! そう、ワシの今後を決めかねん大事な事を!
「転移魔法、発動――!」
掲げた手に魔力を込める。
――バチバチ! と音を立て、現れる稲妻。
その刹那、ワシは求める物をイメージした。
「いでよ! ――まどろみ☆ホットミルク!」
詠唱であり、名称を唱えた瞬間。
稲妻が止み、物質となってワシの手に落ちる。
掲げた手でキャッチするそれは、白いガラス細工のカップ。その中から湯気がたち、温もりが伝わってくる。
入っていたのは白い液体。ミルクだ。
「ホットミルクには、リラックス効果がある――」
誰に向けるでもなく、ワシは独り言をつぶやく。
「両親やラスティアが飲んでくれれば、ワシの言う事を聞いてくれるじゃろう……」
これが、ワシの立てた作戦。
ホットミルクを飲ませてリラックス効果で脱力させる。
そして意識を混濁させたところで、ワシの言う事を聞かせるのじゃ。
************************
【サージャ】≪『第六話をお読みいただき、ありがとうございます』
【サージャ】≪『マスターが存命していた千年前と言えば、攻撃魔法が高く評価される時代であり、転移魔法への評価はゼロに限りなく近い、最低評価でした』
【サージャ】≪『なのに今となっては、伝説とまで言われるこの有り様。時間の流れとは残酷ですね』
【サージャ】≪『それにしても、マスターのスローライフが危ぶまれる中で考えた、意識を混濁させるという、端から見れば最低の行為』
【サージャ】≪『しかし、なりふり構っていられなかったのかもしれません』
【サージャ】≪『果たして、この作戦はうまくいくのでしょうか』
【サージャ】≪『それでは、次回をお楽しみに』
「そ、そうなん……」
「特にお父さんなんて熱心でね。部屋にいっぱいデウディーン様の彫刻が飾られてるのよ。お父さんに一つ分けてもらえるか頼んでみよっか?」
「ううん……いらない……」
ワシは頭を抱えていた。生前のワシが、こんなに有名になっているなんて、知らなかったからじゃ。何なんこれ……何でこんな知れ渡ってるん……?
そう言えば、村の事など疎かった気がする。何せ、遊びに行くと言っては、秘密基地に出かけてばっかりじゃったからのぉ。
そうじゃ。有名と言えば……。
念のため、確かめてみようかの。
「ねぇお母さん、お父さん、騎士さん、……【田中たかし】って知ってる?」
「田中たかし……いえ、知らないわね。お父さんも聞いた事がないって言っているわ」
「ご存知ありませんね……。過去千年の異世界転移者のリストに目を通しましたが、そのような名前の者は覚えがありませんでした」
やはり、たかしの事は誰も知らんらしい。
それはそれとして、マズイ流れじゃ。
なぜならワシ、卵から転生したからね。
卵から千年後に転生して、今の両親に拾われ育てられてきた過去があるからね。
もし、両親からその話をされるとラスティアを勢いづかせてしまう。やはり私の目に狂いはなかったと。
そうなってしまえば、ワシの教団連行が現実になってしまいそうじゃ。その前に手を打たねば。
「ねー、お母さん、お父さん。向こう行っていいー?」
「ええ、どうしたのマリー?」
「あのね、騎士さんにミルクあげようと思うの。お客さんだからね、マリーがあげたいの。いいでしょ?」
「まあ、偉いわマリー。そんな気づかいができるなんて! いいわ、おいしいミルクお願いね」
よし、うまくいった。
ワシはこのスキに、奥の部屋に移動していく。
そして扉を閉め、懐に忍ばせていたサージャに声をかけた。
「サージャ、聞こえとるか。両親とラスティアのステータスを、把握しといてくれ」
『やれやれ覗きですか。人のステータスを覗く性癖に、育てた覚えはありませんよ?』
「違わい! 誰が性癖じゃ! あヤツらの様子を確認しとけって言っとるんじゃ!」
全くサージャめ。勘違いで呆れおって!
ワシはこれからやる事があるというのに! そう、ワシの今後を決めかねん大事な事を!
「転移魔法、発動――!」
掲げた手に魔力を込める。
――バチバチ! と音を立て、現れる稲妻。
その刹那、ワシは求める物をイメージした。
「いでよ! ――まどろみ☆ホットミルク!」
詠唱であり、名称を唱えた瞬間。
稲妻が止み、物質となってワシの手に落ちる。
掲げた手でキャッチするそれは、白いガラス細工のカップ。その中から湯気がたち、温もりが伝わってくる。
入っていたのは白い液体。ミルクだ。
「ホットミルクには、リラックス効果がある――」
誰に向けるでもなく、ワシは独り言をつぶやく。
「両親やラスティアが飲んでくれれば、ワシの言う事を聞いてくれるじゃろう……」
これが、ワシの立てた作戦。
ホットミルクを飲ませてリラックス効果で脱力させる。
そして意識を混濁させたところで、ワシの言う事を聞かせるのじゃ。
************************
【サージャ】≪『第六話をお読みいただき、ありがとうございます』
【サージャ】≪『マスターが存命していた千年前と言えば、攻撃魔法が高く評価される時代であり、転移魔法への評価はゼロに限りなく近い、最低評価でした』
【サージャ】≪『なのに今となっては、伝説とまで言われるこの有り様。時間の流れとは残酷ですね』
【サージャ】≪『それにしても、マスターのスローライフが危ぶまれる中で考えた、意識を混濁させるという、端から見れば最低の行為』
【サージャ】≪『しかし、なりふり構っていられなかったのかもしれません』
【サージャ】≪『果たして、この作戦はうまくいくのでしょうか』
【サージャ】≪『それでは、次回をお楽しみに』
117
お気に入りに追加
479
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる