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第一部 転生編
元転移転生魔術師、ミルクを盛る 前編
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「ここがデウディーン様の家……風情がありますね……」
「それ何? 嫌味? 小さい田舎の家だって言いたい?」
「とんでもない! 伝説の始まりに相応しいと言いたいのです! 決して嫌味ではありません!」
全力で否定するラスティア。
ワシの家の前で、勢いよく首を振っている。
ラスティアを家に招いてしまった。あヤツの強い要望を断りきれなかったためじゃ。
ワシをデウディーンの転生体と信じて疑わず(実際そうなのじゃが)、ワシの暮らしをこの目で見たいと、ついてきてしまったのじゃから。
「じゃあ入るけど、さっきの戦い、内緒にしいてくれよ?」
「お任せ下さい! このデウディーン教団所属騎士ラスティア、命にかえても果たしてみせましょう!」
意気揚々と宣言するラスティア。
正直、不安しかない。勢い余って喋ってしまうんじゃないか……?
いや、これ以上悩むのはやめじゃ。ワシはこれから家に入る。一人娘のマリーとして、帰ってくるのじゃ。
後ろにお客さんがいるが、まあオマケのようなもの。適当にあしらって帰ってもらおう。
「よし……」
ワシは小声で気合をいれ、扉を開けた。
「お母さーん、ただいまー!」
「おかえりマリー。ってあら、その人は……?」
ワシの帰りを、両親が出迎えてくれる。
エプロンを巻いていた母の名は、リーリエ。まだ若々しく、穏やかな物腰じゃ。
一方の父は、マイケルという。木こりをやっており、今日は仕事を終えたのか、家でくつろいでいたようじゃな。
「まさか、騎士様……? ……ええ、そうよ! 騎士様だわ! イヤだどうしよう、何のおもてなしも用意してないのに!」
「いえいえお構いなく。マリー様は命の恩人ですから」
突然訪問してきた騎士を前に、両親は、特に母のリーリエがうろたえてしまう。確かに、こんなへんぴな村に騎士のような高貴な者が来るはずがない。
一方のラスティアは落ち着いていた。いや、何かギリギリアウトゾーンの発言をしたような……。
「今、私がこうしていられるのは、マリー様のおかげでなのです。彼女の活躍があったからこそ、五体満足でいられるのです。あのオーガとゴブリンたちを一瞬……モガッ!」
ワシは大急ぎでラスティアの口を塞ぐ。
そして耳元で注意した。
「おい! 言ったそばから何喋ろうとしとるんじゃ! 内緒にしろと言ったじゃろが!」
「も、申し訳ありません……! しかし、こういう時にこそ、デウディーン様の威厳を見せるいい機会なのでは?」
「いらん! ワシは普通の女の子として暮らすの! そう決めたの! なのに強力なモンスターを倒す幼女とか変じゃろ! 不自然じゃろ!」
「あの~……、どういったご用事でしょうか……?」
ワシが密着し、ラスティアに言い聞かせている途中で、母のリーリエが尋ねてきた。まあ騎士が突然やってきて用件を何も言わないでいるのは、さすがに戸惑うのじゃろう。
「おい……今度こそ頼むぞ」
「はっ! 承知しております!」
気まずく思ったワシは、ラスティアのそばを離れる。もちろん、釘を刺した上でじゃ。
「お母様、私がここを訪ねたのは……」
「は、はい」
「この女の子を、我が教団に譲ってほしく参ったからです!」
「うおおおおおおおおおおおおおいいい!!」
何か、とんでもない事を言い出したぞコイツ! 思わず叫んでしまったではないか!
「な、な何を言っとるんじゃお主……!」
「ええ、ええ! 分かっております! なので一度、私の話を聞いていただきたいのです!」
しかも思わず、素が出てしまったワシ。そんなワシを止めるように。一見、両親の方に向いているようで、ワシに話しかけているようにも聞こえるようにも、ラスティアは語り始めた。
「我らデウディーン教団は、かつて千年前に名を遺した皇陛下・デウディーン世界教皇様を崇拝しております」
「え、ええ……」
「デウディーン様はそれはもう、転移魔法によりありとあらゆる物を転移する。そのお姿に神々しさを感じると、言い伝えられてきました。そしてこの子、マリー様にも、その素質があるのです!」
「そ、素質ですか? しかしマリーは……」
「ええ! 分かっておりますお母様! 彼女はごく普通の娘! 戸惑うのも無理ありません! しかし我が教団の目に狂いなし! 素質どころか、むしろ再来! 伝説の再現! っていうか本人が転生したんじゃないかって位神々しさがヤバいのです!」
「………………………………………………………」
こヤツ、よくもまあペラペラと口が動く。
腹立つくらいペラペラ口が動くのう。
特に、【秘密基地でモンスターと戦った時の事は喋ってないから大丈夫ですよね!】とでも言いたげにドヤ顔……な表情見せている所が最高にムカつくのう。
何が再来じゃ。何が伝説の再現じゃ。生前の頃は誰からも褒められんかったというのに。
しかし、ワシの転生まで……意図しとらんかもしれんが、実際当たっておるから心臓に悪いわい。
いや、まだ狼狽えるのは早い。ワシなんかを崇拝しとる教団なんぞ、マイナーに決まっておる。こんな田舎になんぞ広まっておらんじゃろう。
「ねー、お母さん、お父さん。教団って言ってるけど何だろね? デウディーンって誰か知ってる?」
「もちろん知ってるわマリー。この村どころか、国中で知らない人はいないと思うの」
「えマジでみんな知っとんの!?」
ワシは驚いてしまった。驚いた余りに素が飛び出してしまった。何せ、千年前に死んだワシを両親が知っていると言うのじゃから。
「それ何? 嫌味? 小さい田舎の家だって言いたい?」
「とんでもない! 伝説の始まりに相応しいと言いたいのです! 決して嫌味ではありません!」
全力で否定するラスティア。
ワシの家の前で、勢いよく首を振っている。
ラスティアを家に招いてしまった。あヤツの強い要望を断りきれなかったためじゃ。
ワシをデウディーンの転生体と信じて疑わず(実際そうなのじゃが)、ワシの暮らしをこの目で見たいと、ついてきてしまったのじゃから。
「じゃあ入るけど、さっきの戦い、内緒にしいてくれよ?」
「お任せ下さい! このデウディーン教団所属騎士ラスティア、命にかえても果たしてみせましょう!」
意気揚々と宣言するラスティア。
正直、不安しかない。勢い余って喋ってしまうんじゃないか……?
いや、これ以上悩むのはやめじゃ。ワシはこれから家に入る。一人娘のマリーとして、帰ってくるのじゃ。
後ろにお客さんがいるが、まあオマケのようなもの。適当にあしらって帰ってもらおう。
「よし……」
ワシは小声で気合をいれ、扉を開けた。
「お母さーん、ただいまー!」
「おかえりマリー。ってあら、その人は……?」
ワシの帰りを、両親が出迎えてくれる。
エプロンを巻いていた母の名は、リーリエ。まだ若々しく、穏やかな物腰じゃ。
一方の父は、マイケルという。木こりをやっており、今日は仕事を終えたのか、家でくつろいでいたようじゃな。
「まさか、騎士様……? ……ええ、そうよ! 騎士様だわ! イヤだどうしよう、何のおもてなしも用意してないのに!」
「いえいえお構いなく。マリー様は命の恩人ですから」
突然訪問してきた騎士を前に、両親は、特に母のリーリエがうろたえてしまう。確かに、こんなへんぴな村に騎士のような高貴な者が来るはずがない。
一方のラスティアは落ち着いていた。いや、何かギリギリアウトゾーンの発言をしたような……。
「今、私がこうしていられるのは、マリー様のおかげでなのです。彼女の活躍があったからこそ、五体満足でいられるのです。あのオーガとゴブリンたちを一瞬……モガッ!」
ワシは大急ぎでラスティアの口を塞ぐ。
そして耳元で注意した。
「おい! 言ったそばから何喋ろうとしとるんじゃ! 内緒にしろと言ったじゃろが!」
「も、申し訳ありません……! しかし、こういう時にこそ、デウディーン様の威厳を見せるいい機会なのでは?」
「いらん! ワシは普通の女の子として暮らすの! そう決めたの! なのに強力なモンスターを倒す幼女とか変じゃろ! 不自然じゃろ!」
「あの~……、どういったご用事でしょうか……?」
ワシが密着し、ラスティアに言い聞かせている途中で、母のリーリエが尋ねてきた。まあ騎士が突然やってきて用件を何も言わないでいるのは、さすがに戸惑うのじゃろう。
「おい……今度こそ頼むぞ」
「はっ! 承知しております!」
気まずく思ったワシは、ラスティアのそばを離れる。もちろん、釘を刺した上でじゃ。
「お母様、私がここを訪ねたのは……」
「は、はい」
「この女の子を、我が教団に譲ってほしく参ったからです!」
「うおおおおおおおおおおおおおいいい!!」
何か、とんでもない事を言い出したぞコイツ! 思わず叫んでしまったではないか!
「な、な何を言っとるんじゃお主……!」
「ええ、ええ! 分かっております! なので一度、私の話を聞いていただきたいのです!」
しかも思わず、素が出てしまったワシ。そんなワシを止めるように。一見、両親の方に向いているようで、ワシに話しかけているようにも聞こえるようにも、ラスティアは語り始めた。
「我らデウディーン教団は、かつて千年前に名を遺した皇陛下・デウディーン世界教皇様を崇拝しております」
「え、ええ……」
「デウディーン様はそれはもう、転移魔法によりありとあらゆる物を転移する。そのお姿に神々しさを感じると、言い伝えられてきました。そしてこの子、マリー様にも、その素質があるのです!」
「そ、素質ですか? しかしマリーは……」
「ええ! 分かっておりますお母様! 彼女はごく普通の娘! 戸惑うのも無理ありません! しかし我が教団の目に狂いなし! 素質どころか、むしろ再来! 伝説の再現! っていうか本人が転生したんじゃないかって位神々しさがヤバいのです!」
「………………………………………………………」
こヤツ、よくもまあペラペラと口が動く。
腹立つくらいペラペラ口が動くのう。
特に、【秘密基地でモンスターと戦った時の事は喋ってないから大丈夫ですよね!】とでも言いたげにドヤ顔……な表情見せている所が最高にムカつくのう。
何が再来じゃ。何が伝説の再現じゃ。生前の頃は誰からも褒められんかったというのに。
しかし、ワシの転生まで……意図しとらんかもしれんが、実際当たっておるから心臓に悪いわい。
いや、まだ狼狽えるのは早い。ワシなんかを崇拝しとる教団なんぞ、マイナーに決まっておる。こんな田舎になんぞ広まっておらんじゃろう。
「ねー、お母さん、お父さん。教団って言ってるけど何だろね? デウディーンって誰か知ってる?」
「もちろん知ってるわマリー。この村どころか、国中で知らない人はいないと思うの」
「えマジでみんな知っとんの!?」
ワシは驚いてしまった。驚いた余りに素が飛び出してしまった。何せ、千年前に死んだワシを両親が知っていると言うのじゃから。
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