上 下
2 / 75
第一部 プロローグ

転移転生魔術師、追放される 後編

しおりを挟む
「め、女神にならないか……じゃと?」

 何を言っとるんじゃ、この男は……?
 ワシの動揺を知ってか知らないでか、たかしはドヤ顔で語り続けてくる。

「どうも女神になるとよ、永遠の命が手に入るって言うんだ。さらに強大な力も加わって、この異世界を思いのままにできるんだってよ。……だからさ、つまんねぇ日本なんかやめて上にのぼってみようって思ったんだ!」

「う、上って、何じゃ……?」

「上は上だろ! 神様とか支配者とかに決まってんじゃん! オレやってみたかったんだよねぇ~、王様とか、人の上に立つってやつ? 英雄にはなれたし、今度は周りの男がオレのために戦って死んでさ、んで女はオレのために服を脱ぐの! もちろんお触りつきで。そして全てオレの思いのまま! 女神になったらそれ位当たり前らしいじゃん! だからオレ、つまんねぇ日本なんか辞めてこっちで頑張る事にしたんだわ~!」

 たかしが得意げに自分の欲望を語っていく。
 ワシは目まいがしてきた。たかしの余りにも幼稚で低俗な夢の話ではない。

 よく知らん女神とやらの話。
 夜中に突然現れたという者の、確かめようがない内容を鵜呑みにした事。
 しかもたかしが眠っている間に見た夢の話だという事。

 何より、ワシとの約束よりそんな話を優先してしまった事実についてじゃ。

「そ、そんな……それじゃあ、ワシとの約束はどうなる! 異世界転移にはお主のチート魔力が必要なんじゃぞ!」

「知らねぇな~。女神化で大量の魔力使うって言ってたし、諦めてくれや。ってか、一人でやってくれや」

 な、何じゃと……。
 その余りにも身勝手な返答にワシはよろめき、イスを倒してしまう。

 呼び寄せる転移魔法と違い、自ら異世界転移をするとなると莫大な魔力を消費してしまう。その魔力はワシ一人では何ともならない。
 だからたかしの力が必要じゃった。

 たかしは転移した時から、あらゆる魔力を吸収、変換するチート能力を持っておった。そのくせ自動的に魔力が溜まっていくおまけ付き。その長年溜まった膨大な量は、ワシとたかし二人で異世界転移できるほどに……。

「あのな、この際言っておくけど」

 たかしは改まってきた。
 口調を変えて。いや、本来の口調に戻って。

「お前の事、前からウザいって思ってたんや」

 う、ウザい……?
 さらにたかしは、追い打ちをかけてくる。

「お前オレの事親友って言ったけどな、オレは別にそんなん思ってへんから」

「なっ……」

「お前の事、転移魔法がちょっと便利だから利用してやっただけや。でないと親友とか約束とか連呼するウザいジジイなんか、とっくに切り捨てとるから」

「…………」

「出てけや。今夜女神が会ってくれるって言ってるさかい、不純なもんそばにいて、機嫌損ねちまったらどーすんじゃ」

 面と向かってされる宣言。

 追放。
 絶交。

 ワシの脳裏に、その四文字が浮かび上がった。

 そんな……。
 余りにもショックじゃった。長年築きあげてきたものが、ガラガラ音を立て崩れていく。
 ワシは迷惑じゃった……?

「……分かった。そうしよう」

 ワシは何も言い返せなかった。言い返す気力も湧かなかった。
 そして無言のまま、たかしに背を向け宿を出ていったのじゃった……。





     ※※※※※※※※※※※※     





「……………………」

 ワシは荒野をトボトボ歩く。
 呼吸が細い。足元がおぼつかない。
 自分の寿命が残り少ないのが感じられる。

「……ここでいいかの」

 荒野の片すみで、ワシは膝をつく。
 手に持っていたのは、大きな竜の卵。

 それは、かつての知り合いからもらった竜の死骸。
 埋葬方法を任されておった。
 そして、いざという時の許可ももらってある。
 
「これで現世とも、おさらばかの」

 ワシは卵に魔力を込める。
 自らの全身を委ねるように。
 ……転生するために。

 実は、ワシには使える魔法がもう一つある。
 それは、転生魔法。

 文字通り、生まれ変わる事を指す。
 かつて死にかけた妖精を転生させ、魂を繋ぎ止めた例もあった。
 それを、今度は自分自身に使おうというのだ。

 何度も使わなかった、いや使う機会の無かった魔法じゃ。転移魔法以上に周りに知られておらんし、ワシもうまくいくか自信がない。
 それでも使うのは……。

 こんな無意味な人生を終わらせるため。
 そして……。

「スローライフを……送ろうかの……」

 それは、ワシが描いたもう一つの夢。
 たかしと異世界転移が最優先じゃった。スローライフなど【日本】に生まれてからでも遅くはないと思っておった。
 しかしそれが叶わぬというなら、せめてもう一つの夢を目指してみたい。

 そうじゃな……とある小さな村で生まれ、小さな女の子がご飯の時間まで近所で遊び、夜は父と母とテーブルを囲って団らんを楽しみ、安らかな気持ちでベッドで眠りにつく……。そんな生活を送ってみたいものじゃな……。

「そうじゃ、どうせなら、ワシの事など誰も覚えとらん時代がええの。千年後とか……」

 意識が遠のいていく。
 ワシの転生魔法が効き始めた証じゃ。
 ああ、眠たい。考えがまとまらない……

 そのまま眠るように、ワシは卵と一つになっていった――



************************

???≪『転生魔法を使い、眠るように息を引き取ったデウディーンは一体、どうなるのか……』

???≪『第一話をお読みいただき、ありがとうございます。こちらのコーナーにて、話の感想やメッセージをお送りしますので、よろしければお読み下さい』

???≪『え、私が誰か、ですか? それは次話のお楽しみという事で』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...