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第一部 プロローグ

転移転生魔術師、追放される 後編

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「め、女神にならないか……じゃと?」

 何を言っとるんじゃ、この男は……?
 ワシの動揺を知ってか知らないでか、たかしはドヤ顔で語り続けてくる。

「どうも女神になるとよ、永遠の命が手に入るって言うんだ。さらに強大な力も加わって、この異世界を思いのままにできるんだってよ。……だからさ、つまんねぇ日本なんかやめて上にのぼってみようって思ったんだ!」

「う、上って、何じゃ……?」

「上は上だろ! 神様とか支配者とかに決まってんじゃん! オレやってみたかったんだよねぇ~、王様とか、人の上に立つってやつ? 英雄にはなれたし、今度は周りの男がオレのために戦って死んでさ、んで女はオレのために服を脱ぐの! もちろんお触りつきで。そして全てオレの思いのまま! 女神になったらそれ位当たり前らしいじゃん! だからオレ、つまんねぇ日本なんか辞めてこっちで頑張る事にしたんだわ~!」

 たかしが得意げに自分の欲望を語っていく。
 ワシは目まいがしてきた。たかしの余りにも幼稚で低俗な夢の話ではない。

 よく知らん女神とやらの話。
 夜中に突然現れたという者の、確かめようがない内容を鵜呑みにした事。
 しかもたかしが眠っている間に見た夢の話だという事。

 何より、ワシとの約束よりそんな話を優先してしまった事実についてじゃ。

「そ、そんな……それじゃあ、ワシとの約束はどうなる! 異世界転移にはお主のチート魔力が必要なんじゃぞ!」

「知らねぇな~。女神化で大量の魔力使うって言ってたし、諦めてくれや。ってか、一人でやってくれや」

 な、何じゃと……。
 その余りにも身勝手な返答にワシはよろめき、イスを倒してしまう。

 呼び寄せる転移魔法と違い、自ら異世界転移をするとなると莫大な魔力を消費してしまう。その魔力はワシ一人では何ともならない。
 だからたかしの力が必要じゃった。

 たかしは転移した時から、あらゆる魔力を吸収、変換するチート能力を持っておった。そのくせ自動的に魔力が溜まっていくおまけ付き。その長年溜まった膨大な量は、ワシとたかし二人で異世界転移できるほどに……。

「あのな、この際言っておくけど」

 たかしは改まってきた。
 口調を変えて。いや、本来の口調に戻って。

「お前の事、前からウザいって思ってたんや」

 う、ウザい……?
 さらにたかしは、追い打ちをかけてくる。

「お前オレの事親友って言ったけどな、オレは別にそんなん思ってへんから」

「なっ……」

「お前の事、転移魔法がちょっと便利だから利用してやっただけや。でないと親友とか約束とか連呼するウザいジジイなんか、とっくに切り捨てとるから」

「…………」

「出てけや。今夜女神が会ってくれるって言ってるさかい、不純なもんそばにいて、機嫌損ねちまったらどーすんじゃ」

 面と向かってされる宣言。

 追放。
 絶交。

 ワシの脳裏に、その四文字が浮かび上がった。

 そんな……。
 余りにもショックじゃった。長年築きあげてきたものが、ガラガラ音を立て崩れていく。
 ワシは迷惑じゃった……?

「……分かった。そうしよう」

 ワシは何も言い返せなかった。言い返す気力も湧かなかった。
 そして無言のまま、たかしに背を向け宿を出ていったのじゃった……。





     ※※※※※※※※※※※※     





「……………………」

 ワシは荒野をトボトボ歩く。
 呼吸が細い。足元がおぼつかない。
 自分の寿命が残り少ないのが感じられる。

「……ここでいいかの」

 荒野の片すみで、ワシは膝をつく。
 手に持っていたのは、大きな竜の卵。

 それは、かつての知り合いからもらった竜の死骸。
 埋葬方法を任されておった。
 そして、いざという時の許可ももらってある。
 
「これで現世とも、おさらばかの」

 ワシは卵に魔力を込める。
 自らの全身を委ねるように。
 ……転生するために。

 実は、ワシには使える魔法がもう一つある。
 それは、転生魔法。

 文字通り、生まれ変わる事を指す。
 かつて死にかけた妖精を転生させ、魂を繋ぎ止めた例もあった。
 それを、今度は自分自身に使おうというのだ。

 何度も使わなかった、いや使う機会の無かった魔法じゃ。転移魔法以上に周りに知られておらんし、ワシもうまくいくか自信がない。
 それでも使うのは……。

 こんな無意味な人生を終わらせるため。
 そして……。

「スローライフを……送ろうかの……」

 それは、ワシが描いたもう一つの夢。
 たかしと異世界転移が最優先じゃった。スローライフなど【日本】に生まれてからでも遅くはないと思っておった。
 しかしそれが叶わぬというなら、せめてもう一つの夢を目指してみたい。

 そうじゃな……とある小さな村で生まれ、小さな女の子がご飯の時間まで近所で遊び、夜は父と母とテーブルを囲って団らんを楽しみ、安らかな気持ちでベッドで眠りにつく……。そんな生活を送ってみたいものじゃな……。

「そうじゃ、どうせなら、ワシの事など誰も覚えとらん時代がええの。千年後とか……」

 意識が遠のいていく。
 ワシの転生魔法が効き始めた証じゃ。
 ああ、眠たい。考えがまとまらない……

 そのまま眠るように、ワシは卵と一つになっていった――



************************

???≪『転生魔法を使い、眠るように息を引き取ったデウディーンは一体、どうなるのか……』

???≪『第一話をお読みいただき、ありがとうございます。こちらのコーナーにて、話の感想やメッセージをお送りしますので、よろしければお読み下さい』

???≪『え、私が誰か、ですか? それは次話のお楽しみという事で』
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