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第五章
谷底の戦い(二)
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ノヴァのあげた濃煙を合図に、降り注いだ弓矢。
それを目にした瞬間、レオンは黒曜石を手元で激しく発光させた。
無抵抗のまま押さえつけられていたレオンのケタリングが激しく暴れ出す。
上から被さるディンゴのケタリングは、逃がすまいとしがみつくが、ワカモノが広げた大きな翼を完全に押さえつけることは出来ない。
ワカモノの翼は降り注いだ弓矢を弾く。
「飛べ!」
レオンは発光させた黒曜石を瞬かせる。
ワカモノはそれに合わせて翼をはためかせる。
狭い渓谷の中で、ワカモノの翼は岩壁を叩き、削る。
「あぶねっ」
ディンゴは飛んできた岩を避けながら、キズモノに向けて硝子球を放つ。
キズモノはワカモノの拘束を解き、ともに飛び上がる。
ディンゴの行動に、黒衣の青年が怒鳴る。
「なんで逃がすんだ!」
「こんな狭いとこで暴れさせられるかよ」
青年は舌を打ち、長杖を振りかぶりながらカイのもとへ突進する。
アフィーは残り二枚となったオーガンジーを放ち、青年を止めようとする。
青年は転がる矢を拾い上げ、オーガンジーにぶつける。
青年の狙いは正確だった。
オーガンジーは自らの勢いで、真っ二つに切り裂かれてしまう。
アフィーは慌てて二枚目のオーガンジーの軌道を逸らす。
二枚目は難を逃れることができたが、見当違いな方向に飛んで行ってしまう。
アフィーはすぐに切り裂かれたオーガンジーを接着しようとするが、オーガンジーの動きは鈍く、うまく重ね合うことができない。
「矢に……なにか……」
アフィーの呟きに、シェルティがはっとして声をあげる。
「油だ!」
再び、渓谷の上から、矢が降り注ぐ。
燃え盛る火矢の雨だ。
「くそっ……!」
シェルティは懐から小刀を取り出し、カイを庇いながら頭上の矢を払う。
地に落ちた矢は、先に放たれた油に濡れた矢に引火し、あたりはあっという間に火に包まれる。
「レオン!ケタリングを!」
シェルティは叫ぶが、レオンは返事もままならない状況だった。
彼は光球でケタリングを操作しながら、自分のもとへ降り注ぐ火矢を血まみれの手で叩き落とさなければならなかった。
「くそっ―――――アフィー!」
アフィーもまた答えることは出来ない。
降り注ぐ火矢も厭わずに、黒衣の青年はカイに襲い掛かろうとしている。
アフィーはほとんど取っ組み合うような形でそれを抑えている。
火に弱いオーガンジーを使うことはできず、長杖をふるう青年に、アフィーは素手で応じざるを得なかった。
なんとか食い止めてはいるものの、カイとシェルティを助ける余裕はない。
「邪魔だ」
黒衣の青年同様、降り注ぐ火の矢をものともせず、ノヴァがシェルティとカイのもとへ突進する。
その手には短剣が握られている。
シェルティはカイを背に隠し、小刀でノヴァを迎え撃つ。
「ノヴァ!無駄なことはやめろ!」
「僕にとって無駄ではありません」
「カイを殺してなにを得るものがあるというんだ!?」
「なにもないでしょうね。ですが、そいつが生きていることは正しくない」
「正しくない?はっ!自己満足を正当化しようとするなよ。本当はただお前自身が我慢ならないだけだろう!」
そのとき、シェルティの肩に火の矢が直撃した。
「ぐっ……!」
「シェル!」
水に濡れていたシェルティに火が燃え移ることはなかったが、その衝撃に小刀を落としてしまう。
「僕は我慢し続けていますよ」
ノヴァはシェルティに短剣を突き出す。
切っ先がシェルティの腹部に食い込んだが、シェルティはノヴァの手をつかみ、それ以上深く食い込ませないよう押しとどめる。
「カイ、逃げろ……!」
「できるかよ!」
カイはシェルティの落とした小刀を拾い、ノヴァに切りかかる。
「シェルから離れろ!」
不慣れなカイの攻撃は、ノヴァの腕を浅く切ることしかできない。
しかし腕から流れた血でノヴァの手が滑り、シェルティの腹部から短剣が離れる。
シェルティはすかさずノヴァに頭突きする。
ガンッ!
二人の額が大きな音を立ててぶつかる。
「ぐっ……!」
ノヴァは軽くのけ反ったが、踏みとどまり、シェルティに蹴りを返す。
「がっ……!」
傷つけられた腹部に蹴りをくらったシェルティは、背中から倒れてしまう。
ノヴァはその上に覆いかぶさり、握りなおした短剣で首筋を切り裂こうとする。
「やめろ!」
カイは背後から、ノヴァの首に小刀を押し当てる。
ノヴァはシェルティの首に刃をあてた状態で、ぴたりと動きを止める。
「剣を捨てろ。お前の狙いはおれなんだろ」
ノヴァはそうだ、と答えた。
「だからこそ、先に手足を捥ぐんだ」
シェルティの首から一筋血が流れる。
カイは怒りを露わにする。
「手足って……シェルはお前の兄貴だろ!」
「これが兄?」
ノヴァはシェルティを見下す。
「ラサの使命を忘れ、一切の責務を放棄し、世界中を謀ってお前という災害を生かしたこいつは、僕の兄でもなんでもない。お前と同じく、葬るべき、悪だ」
絶句するカイに代わって、同族嫌悪だな、とシェルティが嘲笑を返す。
「自分が今していることを鑑みて見ろ。さっきの矢はなんだ?上に何人連れてきているんだ?たかが四人の人間を殺すためだけに、物資と人員を割いて、おまけに皇帝自ら先導を切るとは、朝廷も暇になったものだな」
「僕はもう皇帝ではありません」
「……は?」
「僕も捨てました。あなたと同じように、なにもかも」
風が吹き、熱風が三人に吹きつける。
火の矢はすでに止んでいたが、周囲は燃える矢で火の海と化していた。
カイとシェルティは飛んでくる火の粉に顔を歪めたが、ノヴァは瞬き一つすることがなかった。
まるで熱さなど、痛みなど、なにも感じていないかのようだった。
「僕だけではありません。そこの二人も、上にいる者たちも、三渡カイを討ちとるためにすべてを捨ててきています」
「……そこまでしてカイが憎いか」
「はい。この復讐を果たさずに、僕たちは死ぬことができません」
「生きるためではないのか」
「そういう者もいるでしょう」
「愚かなことだ。恨むべきは災嵐だろう。ケタリングだろう。それがわからないお前ではないはずだ」
「空に石を投げても、胸がすくことはありません」
「ふざけるな!」
シェルティは憤る。
短剣が首に食い込むのも厭わず、怒りに全身を震わせる。
「自己満足だと自覚があってなおカイを葬ろうとするのか、お前は!カイはラウラを助けたんだぞ!?あのときお前はなにをした!?なにもせず見殺しにしたんだろう!?ラウラが死んだのはカイのせいじゃない!お前が恨むべきはお前自身のはずだ!!」
揺さぶりをかけられても、ノヴァはかすかに目蓋を震わせるだけだった。
動揺はむしろカイのほうが大きかった。
その瞳は悲痛に揺らぎ、灼熱の中にありながら、凍りついたように血の気を失っている。
シェルティはさらに畳み掛ける。
「それにカイを生かしたのは他ならぬラウラだぞ。彼女の意志を、お前は無視するというのか?カイを殺すことは、彼女を殺すことと同義だぞ!」
ノヴァは動じることなく、淡々と返す。
「例えこれがラウラに対する裏切りであっても、僕は為さねばなりません」
ノヴァはふいに短剣から手を離し、カイに向かって肘を突き出した。
「っ!?」
突然のことに、カイは動くことができず、鳩尾を強く打たれてしまう。
「カイ!」
シェルティはノヴァの離した短剣をつかむ。
ノヴァは短剣を取り戻そうと手を伸ばしたところを切りつけられてしまう。
ノヴァの左手から、小指と薬指が転がり落ちる。
「ああっ!」
ノヴァは血相を変える。
取り乱し、狼狽し、慌てて指を拾い上げる。
ノヴァの薬指には二つの指輪がはまっていた。
シェルティの一撃により、そのうち一つは切り落とされた指とともに落ちた。
もうひとつのは指のつけ根に残っていたが、いつ外れてもおかしくない状態になってしまた。
シェルティはその隙をついてノヴァを突き飛ばし、カイを抱き上げ、火の海を駆ける。
「シェル、火が……!」
「平気さ。ぼくは熱に強いんだ」
シェルティは燃え盛る無数の弓矢を平然と踏みつけていく。
靴や服は焦げ付き、燻るが、シェルティ自身は汗のひとつもかいていない。
「カイ!シェルティ!」
レオンが二人の名を呼ぶと同時に、ケタリングが再び川の中へ降り立った。
派手な水飛沫があがり、火の海は瞬く間に半減する。
「乗れ!」
空中でキズモノを振り切ったワカモノは、まだ興奮が収まっていない様子だったが、レオンの命令には忠実なままだった。
ワカモノは人が乗り降りできるよう、顎と両翼と尾をぴたりと地に這わせた姿勢をとる。
まずレオンが尾を伝ってその背に乗る。
シェルとカイは左翼から乗りつける。
「アフィー!」
「いま、行く!」
黒衣の青年がアフィーに向けて長杖を突きだす。アフィーはそれをしゃがみ込んで避け、足元の砂利をつかみ、青年の顔に向けて投げつける。
青年は顔を背け、目を守る。アフィーはその隙に、先ほど青年の手で二枚に裂かれた、油に濡れたオーガンジーを操る。
宙に舞ったオーガンジーは火の粉を受けてすぐさま燃え上がった。
アフィーはかまわずオーガンジーを青年に絡みつかせる。
青年のまとう黒衣は燃えにくい素材でできていたが、燃える布に直接まきつけられたとあってはただではすまない。
青年はオーガンジーを引き剥がそうともがく。
燃えたことでアフィーの操作がきかなくなったオーガンジーはすぐに剥がすことができた。しかしそのときすでにアフィーはケタリングの背に乗っていた。
「待て!」
青年は叫んだが、当然、待つはずもない。
ケタリングは飛び立とうと川底を蹴る。
「行かせるかよ!」
ケタリングが浮き上がる直前に、ディンゴが翼に飛び乗った。
離陸体勢に入っていたケタリングは、振り落すことができず、そのまま浮上する。
「しつけえ!」
翼から背に移ったディンゴに、レオンは黒曜石を放つ。
ディンゴは硝子球を弾き、相殺する。
割れた硝子球は発光し、光球となって瞬く。
「ここだ!来い!」
引き返してきたキズモノが光に応じ、ワカモノに飛びかかってくる。
渓谷を抜けようとしていたワカモノは尾をつかまれ、浮上を阻止される。
「くそっ……落ちんなよ、お前ら!」
アフィー、シェルティ、カイの三人は、ケタリングの背にしがみつく。
しかしキズモノとぶつかり合うワカモノの背はあまりにも揺れが激しい。三人はそう長く持ちこたえられないと判断したレオンは、ワカモノに再び浮上の指示を出す。
渓谷の中を遡上していたワカモノは、キズモノを尾で牽制しながら再度浮上を試みる。
ワカモノは渓谷から抜け出す。
眼下に森林が見えると、レオンは叫んだ。
「お前ら、降りろ!」
「……!」
「アフィー!まだオーガンジー残ってんだろ!そいつら抱えて飛び降りろ!」
キズモノがワカモノに体当たりをしかける。
ワカモノはどうにか持ちこたえたが、反動で身体を大きく傾けてしまう。
カイ達はもちろん、ケタリングを操るレオンとディンゴもまた、いつ背から振り落とされてもおかしくない状況だった。
「そうだぜ。逃げるなら今だ」
ディンゴは子どものように無邪気な声で言った。
「本当は、オレが用があるのはレオンだけだからな」
「ディンゴ、てめえ……」
「アンタも、せっかくウルフ同士で遊ぶなら、邪魔は入らない方がいいだろ?」
ディンゴは状況を心から楽しんでいるかのような明るい笑顔を浮かべる。
そしておもむろにワカモノの背から飛び降りる。
「こい!」
ディンゴは叫びながら光球を点滅させる。
キズモノはすかさずディンゴをその背に受け止め、急上昇する。
レオンは舌を打つ。
「上を取りやがった」
キズモノはワカモノの直上を飛行していた。
レオンは黒曜石で新たな光球をつくり、次の攻撃に備えながら言った。
「アフィー!急げ!」
アフィーは歯を食いしばり、最後の一枚のオーガンジーを広げる。
「シェルティ、端をとって」
「ああ」
アフィーとシェルティがそれぞれ端をつかみ、オーガンジーは風の中で大きく膨らむ。
二人を柱として、オーガンジーは帆となった、
「レオンは!?」
「おれはあいつを遠ざける」
「ならおれも行く」
「お前は下の連中をどうにかしろ」
「……戦うのか?」
「もう逃げることはできねえからな」
レオンは頭上のケタリングを睨みつける。
「あっちにもケタリングがいるなら、予定は白紙だ。どんな山奥に逃げようが、すぐに見つかっちまうだろう。それに連中は本気だ。おれらがどこに逃げようと、必ず追いかけてくる。死に物狂いでな」
レオンは鋭い視線をカイに向ける。
「ここで決着をつけるぞ」
カイはわずかに躊躇したが、すぐに覚悟を決めた。
目の前のレオンも、隣に立つシェルティとアフィ―も、このたった数分の内に、何度も死ぬ目にあった。
身体には、すでに無数の傷を負っている。
(逃げればまたこれが続く)
(それは……いやだ)
近づいてきたレオンが、カイの正面に立つ。
カイはその胸に拳を押し当てる。
「……おれやっぱ、ここの家が好きだよ」
「おれもだ」
「離れたくないよな」
「もともと逃げ隠れすんのは性にあってねえ」
「だよな。おれも、こんなことはもう二度とご免だ」
カイはレオンに霊力を送る。
レオンは胸に焼けるような痛みを感じるが、おくびにも出さず、カイの霊力を受け止める。
「おれたちを恨んでいるやつがいなくなれば、もう誰も傷つかなくて済む。逃げたり隠れたりしなくて済む。堂々と、明るい場所で、背後を気にせず生きていける。それなら――――」
カイはレオンの胸から手を離した。
「――――全員、殺そう」
レオンはほんの一瞬目を細めたが、すぐに見開き、不敵に鼻をならした。
「死ぬなよ、カイ」
「レオンこそ。死ぬならおれの目の前で死ねよ」
レオンは声をあげて笑う。
「ああ、いいぜ!首一つになっても、お前のとこに戻ってやるよ!」
頭上を飛んでいたケタリングが、ふいに向きを変え、ワカモノに頭から突っ込んでくる。
「行け!」
レオンが叫ぶのと同時に、三人はケタリングから飛び降りた。
それを目にした瞬間、レオンは黒曜石を手元で激しく発光させた。
無抵抗のまま押さえつけられていたレオンのケタリングが激しく暴れ出す。
上から被さるディンゴのケタリングは、逃がすまいとしがみつくが、ワカモノが広げた大きな翼を完全に押さえつけることは出来ない。
ワカモノの翼は降り注いだ弓矢を弾く。
「飛べ!」
レオンは発光させた黒曜石を瞬かせる。
ワカモノはそれに合わせて翼をはためかせる。
狭い渓谷の中で、ワカモノの翼は岩壁を叩き、削る。
「あぶねっ」
ディンゴは飛んできた岩を避けながら、キズモノに向けて硝子球を放つ。
キズモノはワカモノの拘束を解き、ともに飛び上がる。
ディンゴの行動に、黒衣の青年が怒鳴る。
「なんで逃がすんだ!」
「こんな狭いとこで暴れさせられるかよ」
青年は舌を打ち、長杖を振りかぶりながらカイのもとへ突進する。
アフィーは残り二枚となったオーガンジーを放ち、青年を止めようとする。
青年は転がる矢を拾い上げ、オーガンジーにぶつける。
青年の狙いは正確だった。
オーガンジーは自らの勢いで、真っ二つに切り裂かれてしまう。
アフィーは慌てて二枚目のオーガンジーの軌道を逸らす。
二枚目は難を逃れることができたが、見当違いな方向に飛んで行ってしまう。
アフィーはすぐに切り裂かれたオーガンジーを接着しようとするが、オーガンジーの動きは鈍く、うまく重ね合うことができない。
「矢に……なにか……」
アフィーの呟きに、シェルティがはっとして声をあげる。
「油だ!」
再び、渓谷の上から、矢が降り注ぐ。
燃え盛る火矢の雨だ。
「くそっ……!」
シェルティは懐から小刀を取り出し、カイを庇いながら頭上の矢を払う。
地に落ちた矢は、先に放たれた油に濡れた矢に引火し、あたりはあっという間に火に包まれる。
「レオン!ケタリングを!」
シェルティは叫ぶが、レオンは返事もままならない状況だった。
彼は光球でケタリングを操作しながら、自分のもとへ降り注ぐ火矢を血まみれの手で叩き落とさなければならなかった。
「くそっ―――――アフィー!」
アフィーもまた答えることは出来ない。
降り注ぐ火矢も厭わずに、黒衣の青年はカイに襲い掛かろうとしている。
アフィーはほとんど取っ組み合うような形でそれを抑えている。
火に弱いオーガンジーを使うことはできず、長杖をふるう青年に、アフィーは素手で応じざるを得なかった。
なんとか食い止めてはいるものの、カイとシェルティを助ける余裕はない。
「邪魔だ」
黒衣の青年同様、降り注ぐ火の矢をものともせず、ノヴァがシェルティとカイのもとへ突進する。
その手には短剣が握られている。
シェルティはカイを背に隠し、小刀でノヴァを迎え撃つ。
「ノヴァ!無駄なことはやめろ!」
「僕にとって無駄ではありません」
「カイを殺してなにを得るものがあるというんだ!?」
「なにもないでしょうね。ですが、そいつが生きていることは正しくない」
「正しくない?はっ!自己満足を正当化しようとするなよ。本当はただお前自身が我慢ならないだけだろう!」
そのとき、シェルティの肩に火の矢が直撃した。
「ぐっ……!」
「シェル!」
水に濡れていたシェルティに火が燃え移ることはなかったが、その衝撃に小刀を落としてしまう。
「僕は我慢し続けていますよ」
ノヴァはシェルティに短剣を突き出す。
切っ先がシェルティの腹部に食い込んだが、シェルティはノヴァの手をつかみ、それ以上深く食い込ませないよう押しとどめる。
「カイ、逃げろ……!」
「できるかよ!」
カイはシェルティの落とした小刀を拾い、ノヴァに切りかかる。
「シェルから離れろ!」
不慣れなカイの攻撃は、ノヴァの腕を浅く切ることしかできない。
しかし腕から流れた血でノヴァの手が滑り、シェルティの腹部から短剣が離れる。
シェルティはすかさずノヴァに頭突きする。
ガンッ!
二人の額が大きな音を立ててぶつかる。
「ぐっ……!」
ノヴァは軽くのけ反ったが、踏みとどまり、シェルティに蹴りを返す。
「がっ……!」
傷つけられた腹部に蹴りをくらったシェルティは、背中から倒れてしまう。
ノヴァはその上に覆いかぶさり、握りなおした短剣で首筋を切り裂こうとする。
「やめろ!」
カイは背後から、ノヴァの首に小刀を押し当てる。
ノヴァはシェルティの首に刃をあてた状態で、ぴたりと動きを止める。
「剣を捨てろ。お前の狙いはおれなんだろ」
ノヴァはそうだ、と答えた。
「だからこそ、先に手足を捥ぐんだ」
シェルティの首から一筋血が流れる。
カイは怒りを露わにする。
「手足って……シェルはお前の兄貴だろ!」
「これが兄?」
ノヴァはシェルティを見下す。
「ラサの使命を忘れ、一切の責務を放棄し、世界中を謀ってお前という災害を生かしたこいつは、僕の兄でもなんでもない。お前と同じく、葬るべき、悪だ」
絶句するカイに代わって、同族嫌悪だな、とシェルティが嘲笑を返す。
「自分が今していることを鑑みて見ろ。さっきの矢はなんだ?上に何人連れてきているんだ?たかが四人の人間を殺すためだけに、物資と人員を割いて、おまけに皇帝自ら先導を切るとは、朝廷も暇になったものだな」
「僕はもう皇帝ではありません」
「……は?」
「僕も捨てました。あなたと同じように、なにもかも」
風が吹き、熱風が三人に吹きつける。
火の矢はすでに止んでいたが、周囲は燃える矢で火の海と化していた。
カイとシェルティは飛んでくる火の粉に顔を歪めたが、ノヴァは瞬き一つすることがなかった。
まるで熱さなど、痛みなど、なにも感じていないかのようだった。
「僕だけではありません。そこの二人も、上にいる者たちも、三渡カイを討ちとるためにすべてを捨ててきています」
「……そこまでしてカイが憎いか」
「はい。この復讐を果たさずに、僕たちは死ぬことができません」
「生きるためではないのか」
「そういう者もいるでしょう」
「愚かなことだ。恨むべきは災嵐だろう。ケタリングだろう。それがわからないお前ではないはずだ」
「空に石を投げても、胸がすくことはありません」
「ふざけるな!」
シェルティは憤る。
短剣が首に食い込むのも厭わず、怒りに全身を震わせる。
「自己満足だと自覚があってなおカイを葬ろうとするのか、お前は!カイはラウラを助けたんだぞ!?あのときお前はなにをした!?なにもせず見殺しにしたんだろう!?ラウラが死んだのはカイのせいじゃない!お前が恨むべきはお前自身のはずだ!!」
揺さぶりをかけられても、ノヴァはかすかに目蓋を震わせるだけだった。
動揺はむしろカイのほうが大きかった。
その瞳は悲痛に揺らぎ、灼熱の中にありながら、凍りついたように血の気を失っている。
シェルティはさらに畳み掛ける。
「それにカイを生かしたのは他ならぬラウラだぞ。彼女の意志を、お前は無視するというのか?カイを殺すことは、彼女を殺すことと同義だぞ!」
ノヴァは動じることなく、淡々と返す。
「例えこれがラウラに対する裏切りであっても、僕は為さねばなりません」
ノヴァはふいに短剣から手を離し、カイに向かって肘を突き出した。
「っ!?」
突然のことに、カイは動くことができず、鳩尾を強く打たれてしまう。
「カイ!」
シェルティはノヴァの離した短剣をつかむ。
ノヴァは短剣を取り戻そうと手を伸ばしたところを切りつけられてしまう。
ノヴァの左手から、小指と薬指が転がり落ちる。
「ああっ!」
ノヴァは血相を変える。
取り乱し、狼狽し、慌てて指を拾い上げる。
ノヴァの薬指には二つの指輪がはまっていた。
シェルティの一撃により、そのうち一つは切り落とされた指とともに落ちた。
もうひとつのは指のつけ根に残っていたが、いつ外れてもおかしくない状態になってしまた。
シェルティはその隙をついてノヴァを突き飛ばし、カイを抱き上げ、火の海を駆ける。
「シェル、火が……!」
「平気さ。ぼくは熱に強いんだ」
シェルティは燃え盛る無数の弓矢を平然と踏みつけていく。
靴や服は焦げ付き、燻るが、シェルティ自身は汗のひとつもかいていない。
「カイ!シェルティ!」
レオンが二人の名を呼ぶと同時に、ケタリングが再び川の中へ降り立った。
派手な水飛沫があがり、火の海は瞬く間に半減する。
「乗れ!」
空中でキズモノを振り切ったワカモノは、まだ興奮が収まっていない様子だったが、レオンの命令には忠実なままだった。
ワカモノは人が乗り降りできるよう、顎と両翼と尾をぴたりと地に這わせた姿勢をとる。
まずレオンが尾を伝ってその背に乗る。
シェルとカイは左翼から乗りつける。
「アフィー!」
「いま、行く!」
黒衣の青年がアフィーに向けて長杖を突きだす。アフィーはそれをしゃがみ込んで避け、足元の砂利をつかみ、青年の顔に向けて投げつける。
青年は顔を背け、目を守る。アフィーはその隙に、先ほど青年の手で二枚に裂かれた、油に濡れたオーガンジーを操る。
宙に舞ったオーガンジーは火の粉を受けてすぐさま燃え上がった。
アフィーはかまわずオーガンジーを青年に絡みつかせる。
青年のまとう黒衣は燃えにくい素材でできていたが、燃える布に直接まきつけられたとあってはただではすまない。
青年はオーガンジーを引き剥がそうともがく。
燃えたことでアフィーの操作がきかなくなったオーガンジーはすぐに剥がすことができた。しかしそのときすでにアフィーはケタリングの背に乗っていた。
「待て!」
青年は叫んだが、当然、待つはずもない。
ケタリングは飛び立とうと川底を蹴る。
「行かせるかよ!」
ケタリングが浮き上がる直前に、ディンゴが翼に飛び乗った。
離陸体勢に入っていたケタリングは、振り落すことができず、そのまま浮上する。
「しつけえ!」
翼から背に移ったディンゴに、レオンは黒曜石を放つ。
ディンゴは硝子球を弾き、相殺する。
割れた硝子球は発光し、光球となって瞬く。
「ここだ!来い!」
引き返してきたキズモノが光に応じ、ワカモノに飛びかかってくる。
渓谷を抜けようとしていたワカモノは尾をつかまれ、浮上を阻止される。
「くそっ……落ちんなよ、お前ら!」
アフィー、シェルティ、カイの三人は、ケタリングの背にしがみつく。
しかしキズモノとぶつかり合うワカモノの背はあまりにも揺れが激しい。三人はそう長く持ちこたえられないと判断したレオンは、ワカモノに再び浮上の指示を出す。
渓谷の中を遡上していたワカモノは、キズモノを尾で牽制しながら再度浮上を試みる。
ワカモノは渓谷から抜け出す。
眼下に森林が見えると、レオンは叫んだ。
「お前ら、降りろ!」
「……!」
「アフィー!まだオーガンジー残ってんだろ!そいつら抱えて飛び降りろ!」
キズモノがワカモノに体当たりをしかける。
ワカモノはどうにか持ちこたえたが、反動で身体を大きく傾けてしまう。
カイ達はもちろん、ケタリングを操るレオンとディンゴもまた、いつ背から振り落とされてもおかしくない状況だった。
「そうだぜ。逃げるなら今だ」
ディンゴは子どものように無邪気な声で言った。
「本当は、オレが用があるのはレオンだけだからな」
「ディンゴ、てめえ……」
「アンタも、せっかくウルフ同士で遊ぶなら、邪魔は入らない方がいいだろ?」
ディンゴは状況を心から楽しんでいるかのような明るい笑顔を浮かべる。
そしておもむろにワカモノの背から飛び降りる。
「こい!」
ディンゴは叫びながら光球を点滅させる。
キズモノはすかさずディンゴをその背に受け止め、急上昇する。
レオンは舌を打つ。
「上を取りやがった」
キズモノはワカモノの直上を飛行していた。
レオンは黒曜石で新たな光球をつくり、次の攻撃に備えながら言った。
「アフィー!急げ!」
アフィーは歯を食いしばり、最後の一枚のオーガンジーを広げる。
「シェルティ、端をとって」
「ああ」
アフィーとシェルティがそれぞれ端をつかみ、オーガンジーは風の中で大きく膨らむ。
二人を柱として、オーガンジーは帆となった、
「レオンは!?」
「おれはあいつを遠ざける」
「ならおれも行く」
「お前は下の連中をどうにかしろ」
「……戦うのか?」
「もう逃げることはできねえからな」
レオンは頭上のケタリングを睨みつける。
「あっちにもケタリングがいるなら、予定は白紙だ。どんな山奥に逃げようが、すぐに見つかっちまうだろう。それに連中は本気だ。おれらがどこに逃げようと、必ず追いかけてくる。死に物狂いでな」
レオンは鋭い視線をカイに向ける。
「ここで決着をつけるぞ」
カイはわずかに躊躇したが、すぐに覚悟を決めた。
目の前のレオンも、隣に立つシェルティとアフィ―も、このたった数分の内に、何度も死ぬ目にあった。
身体には、すでに無数の傷を負っている。
(逃げればまたこれが続く)
(それは……いやだ)
近づいてきたレオンが、カイの正面に立つ。
カイはその胸に拳を押し当てる。
「……おれやっぱ、ここの家が好きだよ」
「おれもだ」
「離れたくないよな」
「もともと逃げ隠れすんのは性にあってねえ」
「だよな。おれも、こんなことはもう二度とご免だ」
カイはレオンに霊力を送る。
レオンは胸に焼けるような痛みを感じるが、おくびにも出さず、カイの霊力を受け止める。
「おれたちを恨んでいるやつがいなくなれば、もう誰も傷つかなくて済む。逃げたり隠れたりしなくて済む。堂々と、明るい場所で、背後を気にせず生きていける。それなら――――」
カイはレオンの胸から手を離した。
「――――全員、殺そう」
レオンはほんの一瞬目を細めたが、すぐに見開き、不敵に鼻をならした。
「死ぬなよ、カイ」
「レオンこそ。死ぬならおれの目の前で死ねよ」
レオンは声をあげて笑う。
「ああ、いいぜ!首一つになっても、お前のとこに戻ってやるよ!」
頭上を飛んでいたケタリングが、ふいに向きを変え、ワカモノに頭から突っ込んでくる。
「行け!」
レオンが叫ぶのと同時に、三人はケタリングから飛び降りた。
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授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
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小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
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他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
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書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
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記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
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2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
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