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第四章
「これからはおれたちのためだけに」
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〇
夕食を前にした四人の空気は張り詰めていた。
座卓の上には大きな鍋がひとつ乗っている。
中身は浅黒い色をした粘度の高い汁ものだ。
野菜の端切れのようなものが浮かんでいるが、煮崩れしたそれらの正確な種類を判別することはできない。
「いいにおいだ」
シェルティはにっこりとほほ笑んだが、アフィーとレオンは顔を見合わせ、同じように眉間に皺をよせた。
「においは、蒸かした芋みたい、だけど……」
「食いもんの見た目じゃねえよ」
「いや食えるから!」
カイは胸をはって鍋をかき回す。
「見た目は――――まああれだけど――――ちゃんと味見したし!意外といけるんだよこれ!」
「そうだ。食べもせずに評価を下すな」
シェルティはカイの肩を持ち、汁ものをたっぷり注いだ椀を二人の前に突き出す。
二人は怪訝な表情を浮かべつつもそれを受け取り、なるべく中を見ないように口に含んだ。
「ん?」
「……!」
口内に広がった独特の風味に、二人ははじめ警戒を強めたが、二口、三口と飲み込んでいくうちに、その目の色は次第に変化していった。
「ど、どうよ……?」
カイはふたりの表情の変化にほっと胸をなでおろしつつ、訊ねた。
「悪くないだろ?」
アフィーは椀から口を離して頷く。
「はじめての味。おいしい。――――もっと食べたい」
アフィーの椀はすでに空になっていた。
カイは嬉々として二杯目を、なみなみとよそった。
「レオンは?どう?おかわりする?」
「……おお」
レオンは口の端を舌で拭い、同じく空になった椀をカイに差し出した。
「たしかに癖になるな、これは」
「だから言っただろう」
シェルティは自慢げに二人を非難する。
「見た目はドブだが、カイが本当のドブを僕らに食べさせるわけがないだろう。ぬけぬけとおかわりをする前に、はじめの態度を詫びたらどうだい?」
「え?シェルこれのことドブだと思ってたの?」
「ドブは言い過ぎたかな?泥というべきだったかな?」
「かわんねーから!」
お前が一番失礼だよ、とカイはぼやきながらも、柄杓にすくった汁ものを見て、苦笑する。
「……まあこれは、言われても仕方ないか。とりあえず形になったからいいだろって思ってたけど、改めてなかなかのダークマターだわこれ」
「くもり空の水たまりと同じ色で、なかなか趣深いと思うけどね」
「またそうやって褒めてるのか貶しているのかわからないことを……。つかシェル、お前いまはさんざん言うくせに、味見のときは何のためらいもなかったよな」
「うん?そりゃまあ、こんな見た目のものを嬉々として人に食べさせようとするカイがおかしくて、これは指摘しない方がおもしろ――――カイのためになると思ってね」
「シェルてめえ――――」
「――――んっ!」
じゃれ合う二人を割り裂くように、顔を大きく膨らませたアフィーはカイに椀を差し出す。
「え、もう食ったの?またおかわり?」
アフィーは咀嚼を続けながら頷く。
カイは満面の笑みで椀を受け取る。
「気に入ってくれたのか!よかった!でもゆっくり食えよ、まだまだあるから!」
アフィーはまた頷き、シェルティーに勝ち誇った表情を向ける。
「ガキが……」
シェルティは笑顔で暴言を吐く。
「大飯を食らってほめられるのは子どもだけだぞ。いい加減齢相応の振る舞いを覚えたらどうだ?」
「しゃべってばかりで、箸の進まないのも、子どもと同じ」
「ゆっくり味わって食べているんだ。舌が未熟なガキは流しこむことしか知らないようだがな」
(ああ、なんか、すごい懐かしいな、この感じ)
カイはふたりの口論をとめることもなく、むしろ笑みをもらしてしまう。
しかしカイの制止が入らないことにより、二人のやりとりは白熱していく。
「わかった」
「なにがだ」
「本当は、苦手」
「……は?」
「お前、本当は、この味が苦手。だから、あんまり食べない」
「まさか!」
シェルティは自棄になったように汁物を食べて見せるが、礼儀作法が身に沁み込んでいる彼は、アフィーのような早食いはできない。
アフィーは三杯目をぺろりと平らげると、すぐさま四杯目をよそいはじめた。
「カイ、これ、わたし、すごく好き」
「お、おお。気に入ってもらえてよかったよ」
「毎日、食べたい」
「毎日はどうかな……。かなり行き当たりばったりでできたもんだから……」
「うん。でも、これじゃなくても、わたし、カイの作ったもの、これからもたくさん食べたい」
ようやく一杯目を空にしたがシェルティは、僕だって、と応戦する。
「毎日カイの料理を食べたいし、カイにもぼくの料理を食べてほしいね」
「シェルの料理はいつも食ってるじゃん」
カイはシェルティにおかわりをよそってやる。
しかしそれをアフィーが横取りする。
「……なんの真似だ?」
「無理する必要はない」
「無理なんてしていない。お前こそ食い意地にも限度があるぞ」
アフィーはシェルティから奪った汁ものをおいしそうに頬張った。
「お前はカイの料理が、苦手。わたしは好き。つまり、わたしとカイの方が、相性が、いい。だからカイの料理はわたしが食べる。カイが食べる料理も、きっとわたしは、お前よりカイ好みに作れる」
「笑わせるな。お前の料理ではカイはひと月で今の十倍に膨れ上がるぞ。それに生涯虫歯に苦しむことになる」
アフィーの味付けはとにかく甘い。
肉だろうが魚だろうがおかまいなしだ。
砂糖が貴重品となったいまでも、果汁や野菜の甘味を最大限引き出すことで、アフィーは甘い料理を作ろうとする。
この半年でカイがアフィーの料理を食べたことは数えるほどだが、それだけで傾向を充分に理解したカイも、アフィーの提案にはそっとかぶりをふった。
「まあ、一理あるな」
「カイ、わたしの料理、嫌い?」
「嫌いではないけど……えっと……正気身体にはよくなさそうというか……」
「甘いもの、いっぱい食べると、元気になる。身体も大きくなる。いまのカイは、痩せすぎだから、きっとちょうどいい」
「……そう言われると、また一理ある気がするな」
「砂糖詰めになりたいのかい?たしかにきみはもっと肉をつけるべきだが、その場合必要なのは、甘いだけの料理じゃない。身体に良くて、かつ身になるものじゃないと」
「そのへんはシェルがうまくやってくれるんだろ?」
「もちろん」
「……カイ、わたしの料理、いや?」
「いやじゃない!いやじゃないけど……たまにでいいかな……」
アフィーは澄ました表情で、わずかに唇を尖らせる。
カイは慌てて言葉を重ねる。
「いやほらだって、料理はシェルが得意じゃん。代わりに、畑の管理とかはアフィーの分野なわけで、適材適所というか……ね?」
「……うん」
「それにたまにの方が特別感あっていいじゃん。おれの料理も……まあこれ正直、毎日食べろって言われたらきついと思うんだよな。たまに食べるくらいがちょうどいいっていうかさ」
「わたし、これ、毎日食べたい」
「おれも、これは飽きる気がしねえな」
「ぼくもだ。毎食だっていい」
異口同音に声をそろえる三人に、カイは思わず吹き出してしまう。
「お前ら、おれに甘すぎるだろ」
「本当のことだ。これは癖になる」
レオンもいつの間にか四杯目を椀に注いでいた。
彼は箸で椀に浮かぶ、布の切れ端のようなものをつまみあげ、首をひねる。
「だが中身がわからねえな。芋と人参と山羊乳と――――こりゃなんだ?魚か?」
「貝だよ」
「あ?カイ?」
「ちがうちがう、おれじゃなくて、川の中にいるやつ!」
「……ああ、雨貝か」
レオンは納得がいったと頷いて、切れはしを口に放りこんだ。
「よく見つけたな。どこに溜まりがあった?」
「ここから少し下流に、ちょっと段差があって小さい滝みたいになってるとこがあるだろ?あそこに岩下にいたんだ」
「気づかなかったな。あんな流れがあるところにも、溜まるもんなのか」
レオンは感心した。
雨貝とは、淡水に生息する二枚貝だ。
大きなアサリのような形で、味もそれに近い。
殻は美しい真珠色で、日光を受けると水面からでもわかるほどの輝きを放つ。
主な生息域は湖の浅瀬だが、この貝は野鳥に好まれているため、さまざまな場所へ運ばれる。
多くの野鳥はあえて一度貝を高所から落とすことでその殻を割り、中身を取りだす。
空からふいに落とされる貝。それも鳥が群れの場合は、雨のように降り注ぐ。
故に雨貝この淡水貝は、川辺に溜まり、本来生息するはずのない場所で目にすることができた。
カイが見つけたのもそのひとつだった。
夕食を用意する、とはりきったものの、雉どころか野鳥の一匹仕留めることのできなかったカイは、狙いを川魚に切り替えたが、これもうまくはいかなかった。
なにも獲れなかったら仕掛け網にかかっているものを使えばいいとシェルティが助け舟を出したが、カイはなにかひとつでいいから自分の手で用意した具材を使いたい、となかなか諦めきれずにいた。
(この際、沢蟹の一匹でもいいからいないもんか……)
半ばやけくそになって、手あたり次第川岸の石をひっくり返ししていたところで、カイは雨貝の溜まりを見つけたのだった。
「あんだけ豪語しておいて、自分ではなにも用意できませんでしたってなったらどうしようかと思ってたから、ほんとラッキーだったよ」
カイは残り僅かとなった鍋の中身をかき回しながら言った。
「まあとりあえず鍋っぽくすれば食べれるかなと思って全部煮たんだよね。メインは貝だし、山羊乳いれて、クラムチャウダーてきなものにしようと思ったんだけど……なんか、貝も野菜も全部溶けてすごい色になっちゃって……味付けもいろいろいれてるうちにわかんなくなるし……」
カイは鍋の残りを自分の椀にいれ、大きく一口頬張った。
「うん、やっぱけっこういけるよな。癖になる味だよな」
「だが今のお前の口ぶりじゃ、これはもう二度と作れねえんだろ?」
「はは、そうそう。これは奇跡的にたどり着いた味だから、みんなにねだられても、二度とは作れない。一期一会だ」
カイは笑った。
けれどその頬には、大粒の涙が伝っていた。
「カイ……?」
「あ、あれ、おれ……ごめん、泣くつもりじゃなかったんだけど……」
カイは頬を拭うが、涙はとめどなくあふれてきた。
「まじ……はは……なんでだろ……涙腺バグったわ……」
誤魔化すように、カイは椀の中身をいっぺんに飲み干した。
そして顔全体を荒っぽく袖で拭い、どうにか涙を押さえて、言った。
「あのさ」
カイは三人を見つめた。
三人は、黙って、カイの言葉を聞いた。
「おれ、みんなに、ちょっとでも恩返ししたくて、今日の晩飯作ろうと思ったんだけどさ」
「でも結局、ひとりじゃぜんぜんダメだった」
「魚は、レオンの仕掛けにかかってたやつだし、野菜も山羊乳も、アフィーが用意してくれたもんだし、料理だって、魚捌いたり、貝の処理したり、そういうの全部シェルにやってもらったし、おれ、けっきょく、自分じゃほとんどなにもしなかった」
「痛感したよ」
「おれやっぱ、ひとりじゃ全然ダメなんだ」
「ひとりじゃ、なにもできないんだ」
自立しなければならない。
与えられたものを、返さなければならない。
それは五年前のカイも思っていたことだった。
「でもお前らがいるなら、おれはだいじょうぶなんだ」
それは五年前とは違う結論だった。
カイは自分の弱さを受け入れ、改めて強くなることを誓った。
「おれは、自分が強いって勘違いしてた」
「なんとなく、ぜんぶうまくいくだろうって思ってたんだ」
「異世界にきて、すごい力もらってて、救世主だって言われて、本当にそうなれる気がしてたんだ」
「全部守り通せると思ってたんだ、きっと」
「でも違った」
「おれは弱かった」
「……いや、ばかだったんだ」
「ばかだったから、本当に大事なもの、自分が、一番守りたかったものに、気づけなかった」
「最後の、本当のギリギリまで」
災嵐の日、カイはなぜ自分が朝廷を出てラウラたち四人のいた南端の冬営地へ向かったのか知らない。
彼には記憶がない。
あの時点で朝廷を、縮地の起点を離れるということは、世界を捨てるも同然の行為だった。
おそらく激しい葛藤があったのだろう。
ラウラの記憶を通して見たその後のカイが、ひどく後悔している様子からも、それは明らかだ。
災嵐に見舞われたエレヴァンの凄惨な光景を前に、感じる責任は、並大抵のものではなかったはずだ。
(でも、それは仕方のないことだった)
けれどいまのカイは、当時の自分の選択を、絶対に正しいものだったと、認めていた。
何度やり直したとしても、同じように、なによりも大切な四人のために、すべてを捨てるだろう。
「おれはもう迷わない」
「あのとき、おれは選びとおせなかった」
「みんなを守った。けどおれはすごく中途半端な気持ちで、だから自分の選んだことで死んだ人たちを、直視することができなかった」
「怖かったんだ」
「おれは弱かった」
「だから受け止めることも逃げることもできなくて、ただ立ち尽くすことしかできなくて……最後はラウラに守られた」
「……」
「……おれは」
「おれはもう二度と大事な人を失いたくない」
「シェルと、アフィーと、レオンと、おれ自身のためだけに、これからは生きたい」
「そのためなら、なんだってやる」
「おれは弱くて無力だ」
「でもみんなのためなら強くなれる」
「……ならなくちゃ、いけない」
「どんな非情なことだってやる」
「なんだって壊すし、なん人だって殺す」
「それに、誰に求められても、助けたりはしない」
「……おれは弱いから、どんなにがんばっても、守れるものは限られてる」
「だからもう二度と、前みたいに、高望みはしない」
「みんな助けるとか、救世主になるとか、そういう馬鹿げたもんは、全部捨てる」
「おれには三人だけがいればいいから」
「四人でいることが、なによりも大事だから」
「……だから」
カイは小さな体をめいっぱい広げて、三人を抱きしめた。
「シェル」
「アフィー」
「レオン」
「ありがとう」
「今日までのこと、ぜんぶ」
「おれはお前らのおかげで、今日まで生きてこれたよ」
「お前らがいなかったら、ラウラがしてくれたこと、全部、むだにするとこだった」
三人はそれぞれカイを抱き返した。
二度とほどけないように、固く、きつく、互いを結び合った。
「四人で生きていこう」
「思うままに」
「これからもずっと」
「これからはおれたちのためだけに」
この先の暮らしに決して平穏がないことは、四人全員が理解していた。
この世界に、彼らを殺したいほど憎んでいる人間はいるが、彼らの味方になってくれる人間はいない。
事情がどうあれ、カイが縮地を放棄したという事実は変わらない。
さまざまな不測が起こった今回の災嵐において、カイが縮地を成功させたからといって世界が無傷であったかどうかはわからない。
それでも、可能性はあった。
カイは世界を救えたかもしれなかったのだ。
その可能性を、カイは捨てたのだ。
故に、生き残った人びとは、カイを許すことはできなかった。
これから先、カイと、カイに味方する三人は、生涯に渡って世間を敵に回すことになるだろう。
カイはそれを理解していた。
けれど、三人と共にあれば、耐えきれると思った。
どんな困難にも立ち向かえると。
ラウラを失った以上の最悪は起こりえないと。
そう思っていた。
カイは過信していた。
人はそう簡単には変わることはできない。
カイはそれを理解していなかった。
そして、過ちは繰り返される。
彼らは再び転げ落ちてゆく。
より深い、奈落の底へ。
夕食を前にした四人の空気は張り詰めていた。
座卓の上には大きな鍋がひとつ乗っている。
中身は浅黒い色をした粘度の高い汁ものだ。
野菜の端切れのようなものが浮かんでいるが、煮崩れしたそれらの正確な種類を判別することはできない。
「いいにおいだ」
シェルティはにっこりとほほ笑んだが、アフィーとレオンは顔を見合わせ、同じように眉間に皺をよせた。
「においは、蒸かした芋みたい、だけど……」
「食いもんの見た目じゃねえよ」
「いや食えるから!」
カイは胸をはって鍋をかき回す。
「見た目は――――まああれだけど――――ちゃんと味見したし!意外といけるんだよこれ!」
「そうだ。食べもせずに評価を下すな」
シェルティはカイの肩を持ち、汁ものをたっぷり注いだ椀を二人の前に突き出す。
二人は怪訝な表情を浮かべつつもそれを受け取り、なるべく中を見ないように口に含んだ。
「ん?」
「……!」
口内に広がった独特の風味に、二人ははじめ警戒を強めたが、二口、三口と飲み込んでいくうちに、その目の色は次第に変化していった。
「ど、どうよ……?」
カイはふたりの表情の変化にほっと胸をなでおろしつつ、訊ねた。
「悪くないだろ?」
アフィーは椀から口を離して頷く。
「はじめての味。おいしい。――――もっと食べたい」
アフィーの椀はすでに空になっていた。
カイは嬉々として二杯目を、なみなみとよそった。
「レオンは?どう?おかわりする?」
「……おお」
レオンは口の端を舌で拭い、同じく空になった椀をカイに差し出した。
「たしかに癖になるな、これは」
「だから言っただろう」
シェルティは自慢げに二人を非難する。
「見た目はドブだが、カイが本当のドブを僕らに食べさせるわけがないだろう。ぬけぬけとおかわりをする前に、はじめの態度を詫びたらどうだい?」
「え?シェルこれのことドブだと思ってたの?」
「ドブは言い過ぎたかな?泥というべきだったかな?」
「かわんねーから!」
お前が一番失礼だよ、とカイはぼやきながらも、柄杓にすくった汁ものを見て、苦笑する。
「……まあこれは、言われても仕方ないか。とりあえず形になったからいいだろって思ってたけど、改めてなかなかのダークマターだわこれ」
「くもり空の水たまりと同じ色で、なかなか趣深いと思うけどね」
「またそうやって褒めてるのか貶しているのかわからないことを……。つかシェル、お前いまはさんざん言うくせに、味見のときは何のためらいもなかったよな」
「うん?そりゃまあ、こんな見た目のものを嬉々として人に食べさせようとするカイがおかしくて、これは指摘しない方がおもしろ――――カイのためになると思ってね」
「シェルてめえ――――」
「――――んっ!」
じゃれ合う二人を割り裂くように、顔を大きく膨らませたアフィーはカイに椀を差し出す。
「え、もう食ったの?またおかわり?」
アフィーは咀嚼を続けながら頷く。
カイは満面の笑みで椀を受け取る。
「気に入ってくれたのか!よかった!でもゆっくり食えよ、まだまだあるから!」
アフィーはまた頷き、シェルティーに勝ち誇った表情を向ける。
「ガキが……」
シェルティは笑顔で暴言を吐く。
「大飯を食らってほめられるのは子どもだけだぞ。いい加減齢相応の振る舞いを覚えたらどうだ?」
「しゃべってばかりで、箸の進まないのも、子どもと同じ」
「ゆっくり味わって食べているんだ。舌が未熟なガキは流しこむことしか知らないようだがな」
(ああ、なんか、すごい懐かしいな、この感じ)
カイはふたりの口論をとめることもなく、むしろ笑みをもらしてしまう。
しかしカイの制止が入らないことにより、二人のやりとりは白熱していく。
「わかった」
「なにがだ」
「本当は、苦手」
「……は?」
「お前、本当は、この味が苦手。だから、あんまり食べない」
「まさか!」
シェルティは自棄になったように汁物を食べて見せるが、礼儀作法が身に沁み込んでいる彼は、アフィーのような早食いはできない。
アフィーは三杯目をぺろりと平らげると、すぐさま四杯目をよそいはじめた。
「カイ、これ、わたし、すごく好き」
「お、おお。気に入ってもらえてよかったよ」
「毎日、食べたい」
「毎日はどうかな……。かなり行き当たりばったりでできたもんだから……」
「うん。でも、これじゃなくても、わたし、カイの作ったもの、これからもたくさん食べたい」
ようやく一杯目を空にしたがシェルティは、僕だって、と応戦する。
「毎日カイの料理を食べたいし、カイにもぼくの料理を食べてほしいね」
「シェルの料理はいつも食ってるじゃん」
カイはシェルティにおかわりをよそってやる。
しかしそれをアフィーが横取りする。
「……なんの真似だ?」
「無理する必要はない」
「無理なんてしていない。お前こそ食い意地にも限度があるぞ」
アフィーはシェルティから奪った汁ものをおいしそうに頬張った。
「お前はカイの料理が、苦手。わたしは好き。つまり、わたしとカイの方が、相性が、いい。だからカイの料理はわたしが食べる。カイが食べる料理も、きっとわたしは、お前よりカイ好みに作れる」
「笑わせるな。お前の料理ではカイはひと月で今の十倍に膨れ上がるぞ。それに生涯虫歯に苦しむことになる」
アフィーの味付けはとにかく甘い。
肉だろうが魚だろうがおかまいなしだ。
砂糖が貴重品となったいまでも、果汁や野菜の甘味を最大限引き出すことで、アフィーは甘い料理を作ろうとする。
この半年でカイがアフィーの料理を食べたことは数えるほどだが、それだけで傾向を充分に理解したカイも、アフィーの提案にはそっとかぶりをふった。
「まあ、一理あるな」
「カイ、わたしの料理、嫌い?」
「嫌いではないけど……えっと……正気身体にはよくなさそうというか……」
「甘いもの、いっぱい食べると、元気になる。身体も大きくなる。いまのカイは、痩せすぎだから、きっとちょうどいい」
「……そう言われると、また一理ある気がするな」
「砂糖詰めになりたいのかい?たしかにきみはもっと肉をつけるべきだが、その場合必要なのは、甘いだけの料理じゃない。身体に良くて、かつ身になるものじゃないと」
「そのへんはシェルがうまくやってくれるんだろ?」
「もちろん」
「……カイ、わたしの料理、いや?」
「いやじゃない!いやじゃないけど……たまにでいいかな……」
アフィーは澄ました表情で、わずかに唇を尖らせる。
カイは慌てて言葉を重ねる。
「いやほらだって、料理はシェルが得意じゃん。代わりに、畑の管理とかはアフィーの分野なわけで、適材適所というか……ね?」
「……うん」
「それにたまにの方が特別感あっていいじゃん。おれの料理も……まあこれ正直、毎日食べろって言われたらきついと思うんだよな。たまに食べるくらいがちょうどいいっていうかさ」
「わたし、これ、毎日食べたい」
「おれも、これは飽きる気がしねえな」
「ぼくもだ。毎食だっていい」
異口同音に声をそろえる三人に、カイは思わず吹き出してしまう。
「お前ら、おれに甘すぎるだろ」
「本当のことだ。これは癖になる」
レオンもいつの間にか四杯目を椀に注いでいた。
彼は箸で椀に浮かぶ、布の切れ端のようなものをつまみあげ、首をひねる。
「だが中身がわからねえな。芋と人参と山羊乳と――――こりゃなんだ?魚か?」
「貝だよ」
「あ?カイ?」
「ちがうちがう、おれじゃなくて、川の中にいるやつ!」
「……ああ、雨貝か」
レオンは納得がいったと頷いて、切れはしを口に放りこんだ。
「よく見つけたな。どこに溜まりがあった?」
「ここから少し下流に、ちょっと段差があって小さい滝みたいになってるとこがあるだろ?あそこに岩下にいたんだ」
「気づかなかったな。あんな流れがあるところにも、溜まるもんなのか」
レオンは感心した。
雨貝とは、淡水に生息する二枚貝だ。
大きなアサリのような形で、味もそれに近い。
殻は美しい真珠色で、日光を受けると水面からでもわかるほどの輝きを放つ。
主な生息域は湖の浅瀬だが、この貝は野鳥に好まれているため、さまざまな場所へ運ばれる。
多くの野鳥はあえて一度貝を高所から落とすことでその殻を割り、中身を取りだす。
空からふいに落とされる貝。それも鳥が群れの場合は、雨のように降り注ぐ。
故に雨貝この淡水貝は、川辺に溜まり、本来生息するはずのない場所で目にすることができた。
カイが見つけたのもそのひとつだった。
夕食を用意する、とはりきったものの、雉どころか野鳥の一匹仕留めることのできなかったカイは、狙いを川魚に切り替えたが、これもうまくはいかなかった。
なにも獲れなかったら仕掛け網にかかっているものを使えばいいとシェルティが助け舟を出したが、カイはなにかひとつでいいから自分の手で用意した具材を使いたい、となかなか諦めきれずにいた。
(この際、沢蟹の一匹でもいいからいないもんか……)
半ばやけくそになって、手あたり次第川岸の石をひっくり返ししていたところで、カイは雨貝の溜まりを見つけたのだった。
「あんだけ豪語しておいて、自分ではなにも用意できませんでしたってなったらどうしようかと思ってたから、ほんとラッキーだったよ」
カイは残り僅かとなった鍋の中身をかき回しながら言った。
「まあとりあえず鍋っぽくすれば食べれるかなと思って全部煮たんだよね。メインは貝だし、山羊乳いれて、クラムチャウダーてきなものにしようと思ったんだけど……なんか、貝も野菜も全部溶けてすごい色になっちゃって……味付けもいろいろいれてるうちにわかんなくなるし……」
カイは鍋の残りを自分の椀にいれ、大きく一口頬張った。
「うん、やっぱけっこういけるよな。癖になる味だよな」
「だが今のお前の口ぶりじゃ、これはもう二度と作れねえんだろ?」
「はは、そうそう。これは奇跡的にたどり着いた味だから、みんなにねだられても、二度とは作れない。一期一会だ」
カイは笑った。
けれどその頬には、大粒の涙が伝っていた。
「カイ……?」
「あ、あれ、おれ……ごめん、泣くつもりじゃなかったんだけど……」
カイは頬を拭うが、涙はとめどなくあふれてきた。
「まじ……はは……なんでだろ……涙腺バグったわ……」
誤魔化すように、カイは椀の中身をいっぺんに飲み干した。
そして顔全体を荒っぽく袖で拭い、どうにか涙を押さえて、言った。
「あのさ」
カイは三人を見つめた。
三人は、黙って、カイの言葉を聞いた。
「おれ、みんなに、ちょっとでも恩返ししたくて、今日の晩飯作ろうと思ったんだけどさ」
「でも結局、ひとりじゃぜんぜんダメだった」
「魚は、レオンの仕掛けにかかってたやつだし、野菜も山羊乳も、アフィーが用意してくれたもんだし、料理だって、魚捌いたり、貝の処理したり、そういうの全部シェルにやってもらったし、おれ、けっきょく、自分じゃほとんどなにもしなかった」
「痛感したよ」
「おれやっぱ、ひとりじゃ全然ダメなんだ」
「ひとりじゃ、なにもできないんだ」
自立しなければならない。
与えられたものを、返さなければならない。
それは五年前のカイも思っていたことだった。
「でもお前らがいるなら、おれはだいじょうぶなんだ」
それは五年前とは違う結論だった。
カイは自分の弱さを受け入れ、改めて強くなることを誓った。
「おれは、自分が強いって勘違いしてた」
「なんとなく、ぜんぶうまくいくだろうって思ってたんだ」
「異世界にきて、すごい力もらってて、救世主だって言われて、本当にそうなれる気がしてたんだ」
「全部守り通せると思ってたんだ、きっと」
「でも違った」
「おれは弱かった」
「……いや、ばかだったんだ」
「ばかだったから、本当に大事なもの、自分が、一番守りたかったものに、気づけなかった」
「最後の、本当のギリギリまで」
災嵐の日、カイはなぜ自分が朝廷を出てラウラたち四人のいた南端の冬営地へ向かったのか知らない。
彼には記憶がない。
あの時点で朝廷を、縮地の起点を離れるということは、世界を捨てるも同然の行為だった。
おそらく激しい葛藤があったのだろう。
ラウラの記憶を通して見たその後のカイが、ひどく後悔している様子からも、それは明らかだ。
災嵐に見舞われたエレヴァンの凄惨な光景を前に、感じる責任は、並大抵のものではなかったはずだ。
(でも、それは仕方のないことだった)
けれどいまのカイは、当時の自分の選択を、絶対に正しいものだったと、認めていた。
何度やり直したとしても、同じように、なによりも大切な四人のために、すべてを捨てるだろう。
「おれはもう迷わない」
「あのとき、おれは選びとおせなかった」
「みんなを守った。けどおれはすごく中途半端な気持ちで、だから自分の選んだことで死んだ人たちを、直視することができなかった」
「怖かったんだ」
「おれは弱かった」
「だから受け止めることも逃げることもできなくて、ただ立ち尽くすことしかできなくて……最後はラウラに守られた」
「……」
「……おれは」
「おれはもう二度と大事な人を失いたくない」
「シェルと、アフィーと、レオンと、おれ自身のためだけに、これからは生きたい」
「そのためなら、なんだってやる」
「おれは弱くて無力だ」
「でもみんなのためなら強くなれる」
「……ならなくちゃ、いけない」
「どんな非情なことだってやる」
「なんだって壊すし、なん人だって殺す」
「それに、誰に求められても、助けたりはしない」
「……おれは弱いから、どんなにがんばっても、守れるものは限られてる」
「だからもう二度と、前みたいに、高望みはしない」
「みんな助けるとか、救世主になるとか、そういう馬鹿げたもんは、全部捨てる」
「おれには三人だけがいればいいから」
「四人でいることが、なによりも大事だから」
「……だから」
カイは小さな体をめいっぱい広げて、三人を抱きしめた。
「シェル」
「アフィー」
「レオン」
「ありがとう」
「今日までのこと、ぜんぶ」
「おれはお前らのおかげで、今日まで生きてこれたよ」
「お前らがいなかったら、ラウラがしてくれたこと、全部、むだにするとこだった」
三人はそれぞれカイを抱き返した。
二度とほどけないように、固く、きつく、互いを結び合った。
「四人で生きていこう」
「思うままに」
「これからもずっと」
「これからはおれたちのためだけに」
この先の暮らしに決して平穏がないことは、四人全員が理解していた。
この世界に、彼らを殺したいほど憎んでいる人間はいるが、彼らの味方になってくれる人間はいない。
事情がどうあれ、カイが縮地を放棄したという事実は変わらない。
さまざまな不測が起こった今回の災嵐において、カイが縮地を成功させたからといって世界が無傷であったかどうかはわからない。
それでも、可能性はあった。
カイは世界を救えたかもしれなかったのだ。
その可能性を、カイは捨てたのだ。
故に、生き残った人びとは、カイを許すことはできなかった。
これから先、カイと、カイに味方する三人は、生涯に渡って世間を敵に回すことになるだろう。
カイはそれを理解していた。
けれど、三人と共にあれば、耐えきれると思った。
どんな困難にも立ち向かえると。
ラウラを失った以上の最悪は起こりえないと。
そう思っていた。
カイは過信していた。
人はそう簡単には変わることはできない。
カイはそれを理解していなかった。
そして、過ちは繰り返される。
彼らは再び転げ落ちてゆく。
より深い、奈落の底へ。
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