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第二章
隠葬
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〇
馴鹿の肉で腹を満たした四人は、たき火を囲んだまま微睡に落ちた。
たき火はすでに消えかかっていたが、平地の近い初夏の山林では、夜半に火の暖はもはや必要なく、誰も追加の木をくべようとはしなかった。
「……?」
隣に座っていたレオンが立ち上がったので、カイは目を開き、声をかけた。
「どっかいくのか?」
カイはレオンの腕に狗鷲の入った笠が抱えられているのを見て、起き上がった。
「弔うのか」
レオンは低い声でああ、返した。
「おれも行く」
「いらねえ」
レオンはきっぱりとはねつけた。
そして険しい顔つきとは裏腹な、落ち着いた声で、つけたした。
「肉体の形が残っているうちは、まだ死んでない。骸は赤子と同じだ。どんな生き物も一生で二度だけ経験する、他者の助けがなくちゃならねえ状態だ。――――だからついてくるな。こいつは誇り高い狗鷲だった。おれ以外の手で弔われることを、こいつは決して望まない」
「それが、レオンの信仰か」
カイはたき火から、火のともった、まだ長い枝を一本抜きとると、レオンに手渡した。
「野暮だったな。――――暗いから、気を付けて」
レオンはわずかな躊躇いの間を空けてから、その枝を受け取った。
道中の灯としてはあまりにもか細いものだったが、レオンはそれだけを頼りに森の中へ消えていった。
カイは腰を降ろすと、たき火にありったけの枝をくべた。
目を開けて二人のやりとり見ていたシェルティとラウラも、周囲の枝葉を集め、火にくべるのを手伝った。
やがてたき火は勢いを取り戻し、煙を高くあげ、周囲を明るく照らし出した。
「……熱いかな?」
カイの問いにシェルティとラウラは首を振った。
「すこし肌寒いくらいでしたから、ちょうどいいです」
「そうだね。冷えるよりは汗をかいたほうが、ずっといい」
三人はたき火を囲んで、再び微睡に落ちた。
火が爆ぜる音に混ざって、枝葉を踏み分ける音が、レオンの消えた森の方から響いてきた。
「レオン?戻ったのか?」
三人は起き上がって、森の奥に目を凝らした。
暗闇の中に、松明の明りが浮かんでいるのが見える。
「……!」
ラウラとシェルティが飛び起きる。
「え、なになに!?」
カイもつられて腰をあげる。
よく見ると松明は三つあり、凄まじい速度で近づいてくる。
枝葉を踏み分ける音も人のものではなく、馬の蹄によるものだった。
「あっ……!」
森の中から馬に乗ってあらわれたのは、市井ではあまり見かけない、古典的な装束をまとった四人の青年だった。
そしてそのうちのひとりは、一族を裏切ってカイたちを解放した、キース・ラプソだった。
「なぜ貴方たちが……?!」
驚愕するキースの問いに、カイはここに至るまでの経緯を話して聞かせた。
「――――そういうわけで、おれたちはここにいるんだ」
カイは深く頭を下げた。
「改めて、ありがとう。君がいなかったら、おれたちは今頃――――」
キースは首を振ってカイの礼を拒絶した。
「やめてくれ。我々ラプソが自ら蒔いた種だ。恨み言はいくらでも聞くが、感謝を受け取ることは出来ない」
「……そった。わかった。じゃあ、もう言わないよ」
命の恩人だと、地に頭をつけても足りない心持ちだったが、カイはそれを飲み込んで、キースに笑いかけた。
「礼は言わないけど、でも家畜を集めたのは見逃してくれよ。きみたちに恩返ししたいって気持ちも、そりゃすこしはあったけど、そもそもはレオンの仕事を台無しにしちゃったおれたちが悪いわけで――――いうなればこれは、レオンへの借りを返してるだけだから」
キースは他の三人の少年たちと視線を交わす。
三人は揃って肩を竦め、首を捻った。
その様子を見て、なにかを察したらしいシェルティが口を挟んだ。
「君たちが彼に家畜の回収を依頼したんじゃないのか?」
「していない」
キースはそう答え、深くため息をついた。
「まったく――――あの人らしい」
今度はカイたち三人が顔を見合わせて、首を傾げた。
「聞いていた話と違うな」
「うん、レオンは君たちに頼まれて、手のまわらない家畜の回収をしてるって言ってたよ」
「あの人らしい方便だな。俺たちは決して、あの人に頼ったりしない。ましてや自分の一族の不始末だ。自分たちでケリをつける。あの人もそれはわかっているはずだが――――」
キースの言葉を引き継いで、他の青年たちが口々に言った。
「でもああいう性分の人だからな」
「面倒見がいいんだよな。昔から何も変わらない」
「いつもおれたちを気にかけてくれる」
「くやしいが、あの人にとっておれたちは、まだ子どもなんだろう」
「正直助かるけどな」
「きっとすべてのことを黙って終わらせる気だったんだろう」
キースは咳払いし、三人を黙らせる。
「なるほどね。すべては彼の善意だと」
キースは黙って頷き、シェルティの言葉を肯定する。
それを見たカイは場違いに抜けた声を出した。
「かっこよすぎんだろ、あいつ……!」
どこか悔しそうに、シェルティも頷く。
「朝廷を嫌っているくせに、やっていることは朝廷の掲げる滅私奉公なんだから、皮肉なものだ」
「さすがシェルも認めざるを得ないか」
カイは嬉しそうにシェルティの顔をのぞきこもうとするが、シェルティは逃げるように顔を反らし、キースに尋ねた。
「ところで、君たちと彼は一体どういう間柄なんだい?同じ一族というわけでもないのに、随分親しいようだが……」
キースと青年たちは顔を見合わせる。
「兄貴分だよ」
彼らは気恥ずかしそうに、けれど胸をはって答えた。
「俺たちはレオンみたいになりたいんだ」
●
都を追われ、山の民となったウルフとラプソは、それまであった主従関係を次第に失っていった。
同じ山に暮らす遊牧民として、両一族の関係は密接となり、血縁者も増えていった。
ウルフとラプソはほとんど同化しつつあった。
しかしウルフは朝廷への反乱をラプソに知らせなかった。
ウルフはウルフだけで革命を起こそうとした。
それを知ったラプソは憤怒した。
同化しつつあった両族は、生活様式や祭事、服飾など、すべてを共有していた。
同じ風俗を持つ両族のたったひとつの相違点は、ラプソにはケタリングの操者がいないことだった。
ケタリングを操ることができるのは、ウルフの中でも限られた者だけだった。
ウルフは操者を決して外には出さなかった。
操者の資格を持つ者は、男でも女でも、一族で囲いこんでいた。
ラプソは不満があっても、ウルフに対抗する術を持たなかった。
いざ争いになれば、ケタリングを持つウルフに敵うはずがなかった。
ラプソは思い知った。
ウルフは自分たちを対等な存在とは認めていなかったのだということを。
自分たちは見下されている。未だ下僕として扱われている。
ウルフが玉座に戻っても、自分たちは山間での惨めな生活を続けなければならないのだろう。
ウルフはラプソを見限っていた。
それに気づいたラプソは、同じようにウルフに見切りをつけた。
もはやアレは従うべき主ではない。
居を共にする同族でもない。
ケタリングという利用価値を持つ、他人だ、と。
両族の断絶は、ウルフの一族が反乱に失敗した後も変わらなかった。
たった一人生き残ったウルフの男は、変わらず同じ山に住み続けたが、ラプソは特に面倒を見てやることも関わりを持つこともしなかった。
男はやがて所帯を持ち、多くの子をなした。
その子がまた伴侶を得て所帯を持ち、やがてウルフは五十人の住む小さな集落を築いた。
反乱の鎮圧からすでに百年近くが経過しており、当時のことを知る者は誰もいなくなっていたが、それでも両族の関係は変わらなかった。
同じ山間に在りながら、互いの存在を無視し続けていた。
それどころかウルフはラプソ以外の一族とも交流をほとんど持たず、孤立を貫いていた。
山を下りることさえほとんどなく、息を殺して、隠れ住んでいた。
彼らはまだ玉座を諦めてはいない。
朝廷への、ラサへの復讐のためにその牙を研いでいる。
ラプソは確信していた。
確信した上で、静観していた。
さまざまな画策を巡らせながら。
しかし事情をよく知らないラプソの少年たちにとって、ウルフはただの遊牧民族だった。
遺伝で変わった風貌の者しか生まれないため、市井に定住できない者たち。
流れ者の集まり、という認識しか持ちえていなかった。
少年たちはウルフを軽んじていた。
度胸試しで、大人から禁じられているにも関わらず、ウルフの領内に立ち入ったりした。
そこで彼らはレオン・ウルフに出会った。
自分たちと同世代とは思えない、迫力のある少年だった。
レオンの他にもウルフの少年はいたが、褐色の肌に象牙の髪色というウルフの特色を持っていたのはレオンだけだった。
ラプソの少年たちははじめレオンを畏れた。
その特異な外見は、なにか病気のためではないかと。そしてそれは自分たちにうつるものではないかと、彼らは怯え、レオンを山から追い出そうとした。
けれどレオンに勝てる者は誰もいなかった。
むしろ返り討ちにされてしまった。
力でも足の速さでも弓を射る技術でも、口喧嘩でさえも、ラプソの少年たちはレオンの足元にも及ばなかった。
彼らは次第に認識を改めていった。
レオンは病気ではない。
彼は強く、美しい人だった。
思わず従いたくなる、抗いがたい魅力を持つ傑物だった。
やがてラプソとウルフの少年たちの間で、ひそかに交流がもたれるようになった。
彼らは大人の目を盗んで、共に山を駆け回った。
互いの一族の関係を知っても、少年たちには関係なかった。
明日はなにをして遊ぼう。
大木に登るか。洞窟へ探検に行くか。川で魚を釣るか。
少年たちは新しくできた友だちに夢中だった。
その中心にいたのはレオンだった。
少年たちは皆レオンを慕っていた。
レオンは兄貴分として、少年たちの面倒をよく見てやっていた。
「大人がどうあっても、俺らは関係ないよな」
少年たちはよくそう言い合った。
「俺たちが大人になったら、ラプソとウルフをひとつにしよう」
少年たちの案に、レオンも賛成した。
賑やかになるぞ、と言って笑っていた。
けれど、ほどなくしてウルフは滅んだ。
他ならぬレオンの手によって。
馴鹿の肉で腹を満たした四人は、たき火を囲んだまま微睡に落ちた。
たき火はすでに消えかかっていたが、平地の近い初夏の山林では、夜半に火の暖はもはや必要なく、誰も追加の木をくべようとはしなかった。
「……?」
隣に座っていたレオンが立ち上がったので、カイは目を開き、声をかけた。
「どっかいくのか?」
カイはレオンの腕に狗鷲の入った笠が抱えられているのを見て、起き上がった。
「弔うのか」
レオンは低い声でああ、返した。
「おれも行く」
「いらねえ」
レオンはきっぱりとはねつけた。
そして険しい顔つきとは裏腹な、落ち着いた声で、つけたした。
「肉体の形が残っているうちは、まだ死んでない。骸は赤子と同じだ。どんな生き物も一生で二度だけ経験する、他者の助けがなくちゃならねえ状態だ。――――だからついてくるな。こいつは誇り高い狗鷲だった。おれ以外の手で弔われることを、こいつは決して望まない」
「それが、レオンの信仰か」
カイはたき火から、火のともった、まだ長い枝を一本抜きとると、レオンに手渡した。
「野暮だったな。――――暗いから、気を付けて」
レオンはわずかな躊躇いの間を空けてから、その枝を受け取った。
道中の灯としてはあまりにもか細いものだったが、レオンはそれだけを頼りに森の中へ消えていった。
カイは腰を降ろすと、たき火にありったけの枝をくべた。
目を開けて二人のやりとり見ていたシェルティとラウラも、周囲の枝葉を集め、火にくべるのを手伝った。
やがてたき火は勢いを取り戻し、煙を高くあげ、周囲を明るく照らし出した。
「……熱いかな?」
カイの問いにシェルティとラウラは首を振った。
「すこし肌寒いくらいでしたから、ちょうどいいです」
「そうだね。冷えるよりは汗をかいたほうが、ずっといい」
三人はたき火を囲んで、再び微睡に落ちた。
火が爆ぜる音に混ざって、枝葉を踏み分ける音が、レオンの消えた森の方から響いてきた。
「レオン?戻ったのか?」
三人は起き上がって、森の奥に目を凝らした。
暗闇の中に、松明の明りが浮かんでいるのが見える。
「……!」
ラウラとシェルティが飛び起きる。
「え、なになに!?」
カイもつられて腰をあげる。
よく見ると松明は三つあり、凄まじい速度で近づいてくる。
枝葉を踏み分ける音も人のものではなく、馬の蹄によるものだった。
「あっ……!」
森の中から馬に乗ってあらわれたのは、市井ではあまり見かけない、古典的な装束をまとった四人の青年だった。
そしてそのうちのひとりは、一族を裏切ってカイたちを解放した、キース・ラプソだった。
「なぜ貴方たちが……?!」
驚愕するキースの問いに、カイはここに至るまでの経緯を話して聞かせた。
「――――そういうわけで、おれたちはここにいるんだ」
カイは深く頭を下げた。
「改めて、ありがとう。君がいなかったら、おれたちは今頃――――」
キースは首を振ってカイの礼を拒絶した。
「やめてくれ。我々ラプソが自ら蒔いた種だ。恨み言はいくらでも聞くが、感謝を受け取ることは出来ない」
「……そった。わかった。じゃあ、もう言わないよ」
命の恩人だと、地に頭をつけても足りない心持ちだったが、カイはそれを飲み込んで、キースに笑いかけた。
「礼は言わないけど、でも家畜を集めたのは見逃してくれよ。きみたちに恩返ししたいって気持ちも、そりゃすこしはあったけど、そもそもはレオンの仕事を台無しにしちゃったおれたちが悪いわけで――――いうなればこれは、レオンへの借りを返してるだけだから」
キースは他の三人の少年たちと視線を交わす。
三人は揃って肩を竦め、首を捻った。
その様子を見て、なにかを察したらしいシェルティが口を挟んだ。
「君たちが彼に家畜の回収を依頼したんじゃないのか?」
「していない」
キースはそう答え、深くため息をついた。
「まったく――――あの人らしい」
今度はカイたち三人が顔を見合わせて、首を傾げた。
「聞いていた話と違うな」
「うん、レオンは君たちに頼まれて、手のまわらない家畜の回収をしてるって言ってたよ」
「あの人らしい方便だな。俺たちは決して、あの人に頼ったりしない。ましてや自分の一族の不始末だ。自分たちでケリをつける。あの人もそれはわかっているはずだが――――」
キースの言葉を引き継いで、他の青年たちが口々に言った。
「でもああいう性分の人だからな」
「面倒見がいいんだよな。昔から何も変わらない」
「いつもおれたちを気にかけてくれる」
「くやしいが、あの人にとっておれたちは、まだ子どもなんだろう」
「正直助かるけどな」
「きっとすべてのことを黙って終わらせる気だったんだろう」
キースは咳払いし、三人を黙らせる。
「なるほどね。すべては彼の善意だと」
キースは黙って頷き、シェルティの言葉を肯定する。
それを見たカイは場違いに抜けた声を出した。
「かっこよすぎんだろ、あいつ……!」
どこか悔しそうに、シェルティも頷く。
「朝廷を嫌っているくせに、やっていることは朝廷の掲げる滅私奉公なんだから、皮肉なものだ」
「さすがシェルも認めざるを得ないか」
カイは嬉しそうにシェルティの顔をのぞきこもうとするが、シェルティは逃げるように顔を反らし、キースに尋ねた。
「ところで、君たちと彼は一体どういう間柄なんだい?同じ一族というわけでもないのに、随分親しいようだが……」
キースと青年たちは顔を見合わせる。
「兄貴分だよ」
彼らは気恥ずかしそうに、けれど胸をはって答えた。
「俺たちはレオンみたいになりたいんだ」
●
都を追われ、山の民となったウルフとラプソは、それまであった主従関係を次第に失っていった。
同じ山に暮らす遊牧民として、両一族の関係は密接となり、血縁者も増えていった。
ウルフとラプソはほとんど同化しつつあった。
しかしウルフは朝廷への反乱をラプソに知らせなかった。
ウルフはウルフだけで革命を起こそうとした。
それを知ったラプソは憤怒した。
同化しつつあった両族は、生活様式や祭事、服飾など、すべてを共有していた。
同じ風俗を持つ両族のたったひとつの相違点は、ラプソにはケタリングの操者がいないことだった。
ケタリングを操ることができるのは、ウルフの中でも限られた者だけだった。
ウルフは操者を決して外には出さなかった。
操者の資格を持つ者は、男でも女でも、一族で囲いこんでいた。
ラプソは不満があっても、ウルフに対抗する術を持たなかった。
いざ争いになれば、ケタリングを持つウルフに敵うはずがなかった。
ラプソは思い知った。
ウルフは自分たちを対等な存在とは認めていなかったのだということを。
自分たちは見下されている。未だ下僕として扱われている。
ウルフが玉座に戻っても、自分たちは山間での惨めな生活を続けなければならないのだろう。
ウルフはラプソを見限っていた。
それに気づいたラプソは、同じようにウルフに見切りをつけた。
もはやアレは従うべき主ではない。
居を共にする同族でもない。
ケタリングという利用価値を持つ、他人だ、と。
両族の断絶は、ウルフの一族が反乱に失敗した後も変わらなかった。
たった一人生き残ったウルフの男は、変わらず同じ山に住み続けたが、ラプソは特に面倒を見てやることも関わりを持つこともしなかった。
男はやがて所帯を持ち、多くの子をなした。
その子がまた伴侶を得て所帯を持ち、やがてウルフは五十人の住む小さな集落を築いた。
反乱の鎮圧からすでに百年近くが経過しており、当時のことを知る者は誰もいなくなっていたが、それでも両族の関係は変わらなかった。
同じ山間に在りながら、互いの存在を無視し続けていた。
それどころかウルフはラプソ以外の一族とも交流をほとんど持たず、孤立を貫いていた。
山を下りることさえほとんどなく、息を殺して、隠れ住んでいた。
彼らはまだ玉座を諦めてはいない。
朝廷への、ラサへの復讐のためにその牙を研いでいる。
ラプソは確信していた。
確信した上で、静観していた。
さまざまな画策を巡らせながら。
しかし事情をよく知らないラプソの少年たちにとって、ウルフはただの遊牧民族だった。
遺伝で変わった風貌の者しか生まれないため、市井に定住できない者たち。
流れ者の集まり、という認識しか持ちえていなかった。
少年たちはウルフを軽んじていた。
度胸試しで、大人から禁じられているにも関わらず、ウルフの領内に立ち入ったりした。
そこで彼らはレオン・ウルフに出会った。
自分たちと同世代とは思えない、迫力のある少年だった。
レオンの他にもウルフの少年はいたが、褐色の肌に象牙の髪色というウルフの特色を持っていたのはレオンだけだった。
ラプソの少年たちははじめレオンを畏れた。
その特異な外見は、なにか病気のためではないかと。そしてそれは自分たちにうつるものではないかと、彼らは怯え、レオンを山から追い出そうとした。
けれどレオンに勝てる者は誰もいなかった。
むしろ返り討ちにされてしまった。
力でも足の速さでも弓を射る技術でも、口喧嘩でさえも、ラプソの少年たちはレオンの足元にも及ばなかった。
彼らは次第に認識を改めていった。
レオンは病気ではない。
彼は強く、美しい人だった。
思わず従いたくなる、抗いがたい魅力を持つ傑物だった。
やがてラプソとウルフの少年たちの間で、ひそかに交流がもたれるようになった。
彼らは大人の目を盗んで、共に山を駆け回った。
互いの一族の関係を知っても、少年たちには関係なかった。
明日はなにをして遊ぼう。
大木に登るか。洞窟へ探検に行くか。川で魚を釣るか。
少年たちは新しくできた友だちに夢中だった。
その中心にいたのはレオンだった。
少年たちは皆レオンを慕っていた。
レオンは兄貴分として、少年たちの面倒をよく見てやっていた。
「大人がどうあっても、俺らは関係ないよな」
少年たちはよくそう言い合った。
「俺たちが大人になったら、ラプソとウルフをひとつにしよう」
少年たちの案に、レオンも賛成した。
賑やかになるぞ、と言って笑っていた。
けれど、ほどなくしてウルフは滅んだ。
他ならぬレオンの手によって。
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