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第二章

鎮静

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この地に暮らすのはラプソという遊牧民の一族だった。
馴鹿の牧畜を生業とし、夏はいくつかの小集団に分かれ、それぞれの夏営地において放牧を行っている。
冬は大集落をつくり、ひとつの冬営地に一族が集まる。
ラプソは排他的な傾向が強く、必要物資や家畜の売買は行うものの、朝廷や諸都市といった外部との交流はほとんど行っていない。
そのぶん一族内の結束は強かった。
欄環という、この地でもっとも過酷な場所で繫栄する一族の一員であることに、誰もが誇りを持っていた。
欄環の東部から南部にかけて、広く占有牧地とするラプソの一族は、この世界で最も栄える遊牧民族であった。
 


三人は専用の天幕をひとつ与えられ、そこで一晩を過ごした。
天幕の中には薬香が焚かれていた。
甘ったるい独特な臭いが充満していた。
馴染のない、鼻につくその臭いにカイは不安を覚えたが、身体への効果はてき面だった。
ラウラはたった一晩で回復し、頭痛や倦怠感といった症状はすっかり治まっていた。
「良薬は鼻に甘し、ってか?おれも昨日ほとんど眠れてないのに、なんか頭がすっきりしてて、いい気分なんだ」
「すごいですね。煙だけでこんなに効く薬があるなんて」
「ラウラも知らない薬なのか」
「ラプソ独自の、なにか特別なものなんでしょうね、きっと」
対して、シェルティの具合は悪化の一途だった。
重篤だったラウラがすぐに回復したので、シェルティもすぐに調子を取り戻すだろうと二人は楽観視していたが、しかしシェルティは数日たっても起き上がることはなかった。
目を覚ましても意識が定かでなく、薬を飲んでまた眠る。それの繰り返しだった。
「ただの霊切れだと思っていたが、そうではないのかもしれません」
ラウラは一向に回復の兆しを見せないシェルティへの見立てを改めた。
「カイさんにはわからない感覚かもしれませんが、体内の霊が極端に低下すると、意識障害を起こします。霊切れは酸欠のようなものなんです。私たちは生命維持のため一定の霊を常に体内に循環させていますが、それは呼吸によって取り入れられるもので、意識的な霊摂の必要はありません。生まれたばかりの赤ん坊でも、呼吸が続いている限り霊切れを起こすことはありません。ですから、霊切れは霊操や霊術の使用によって極端に霊力を消耗した場合にのみ怒ります。しかしそれも、通常は霊力の放出を中止すればすぐに収まるはずですが……」
「でも、シェルティは今霊力をつかってないだろ?ただ寝てるだけだよな?」
「はい……」
「なんで良くならないんだ?」
「原因が霊切れ以外にあるのかもしれません」
「わからないのか?」
「すみません、私は医者ではないので……」
二人は途方に暮れていた。
助けを呼ぶために、カイ達が不時着した翌日には一族の若者が連れ立って朝廷に向かったが、戻るのは早くとも一週間後と見込まれている。
カイは自ら赴くことも考えたが、飛行術は目立つ。
またレオンに見つかり、捕まってしまう可能性がある。
ラプソの者たちにも、それは我々を危険にさらすことにも繋がる、と強く反対され、断念した。
ラプソの老婆が処方する薬に頼るほか、現状打てる手はなかった。
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