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第一章
面影
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小屋に戻ってきたカイの手には、煮込みではなく薄切りにして焼いた鹿肉があった。
「シェルティがまだ起きてたから焼いてもらったんだ。……いちおうあいつも誘ったんだけど……」
「こねえだろ」
「すげえきれいな笑顔で拒否された」
「おれがあいつでも断るぞ」
「まじでさあ、ちょっとは仲よくしてくれよ。おれほんとは今日だって、ちょうどレオンが帰ってくる日だったしさ、みんなで飯食いたかったんだよ。おれの獲った鹿食ってほしかったんだよ」
「でも食ったんだろ、あいつらも」
「おれはみんな一緒に食べたかったんだって!」
レオンは持ち帰ってきた荷箱から新しい酒瓶を取り出し、カイに投げた。受け取ったカイは、ラベルを見て、顔を綻ばせた。
「おれの好きなやつじゃん!」
それは辛口の薬草酒だった。レオンは自分も同じ薬草酒を手に取り、栓を引き抜いた。
続いてカイも蓋を抜こうとするが、ふと疑問を抱き、そういえば、と問いかける。
「レオンがあんま家いないのって、こういう酒とかの調達してるからなんだよな?」
「おう」
「でもそれにしては頻度高くない?しかも長くない?ケタリングなら朝廷までひとっ飛びなんだろ?他にどっか行ってんの?」
「いろいろな」
「そのいろいろを教えてほしいんだって」
レオンは鹿焼きにかぶりつきながら、面倒そうに答える。
「新しい住処をつくってんだよ」
「住処……?」
「いつまでもここにはいられないだろ」
「え?――――あ、そっか。……そうだよなあ」
カイは弱りきった顔でため息を吐く。
カイたち四人が住居としている建物は、本来霊術の開発、研究を行うための施設であった。
貴重な資材や文献がいまなお多く保管されている場所であり、いつ朝廷に接収されてもおかしくはない。
シェルティからそう説明を受けていたカイは、レオンの言葉を聞いて改めて思い知らされた。
「急がないとな」
もとの世界へ戻る方法を探すために残された時間が、そう多くはないということを。
この一年、カイが霊操や狩りに精を出す傍らで、シェルティは降魂術について調べを進めていた。
調べといっても、霊堂に残された文献をひたすら読み解いてくだけだが、やはり量が尋常ではなく、一年で目を通せたのは全体の一割にも満たない。
そしてその一割に降魂術、カイの帰還に関わりそうなものはなにひとつ見つけられなかった。
長期戦は覚悟していたが、首都の復興が進んだ今、朝廷は地方都市や郊外の重要施設の再建に着手していた。
カイ達の住まう霊堂も、遠からず療養目的での使用は難しくなるだろう。
いつ返却を迫られるかはわからないが、それまでに蔵書すべてに目を通すとは、おそらく不可能だろうというのが、シェルティの見立てだった。
「――――目先のことばっかで、今後のことなにも考えてなかったよ、おれ」
カイは栓を抜かないままの酒瓶を握りしめ、俯いた。
「帰る方法見つけられない限り、ここでの生活は続くんだもんな」
「……不満か」
「いや、申し訳ないなって」
レオンはなにも言わずにカイの肩を抱いた。
「――――新しい住処の候補はいくつかある。どこもここより不便だが、お前も狩りができるくらいにはなったし、まあなんとかやっていけるだろ」
「え、一か所じゃないの?」
「一か所じゃ心もとねえだろ」
「でも……めちゃくちゃ大変だったんじゃない?」
「大した事ねえよ」
(いや絶対大変だろ……)
レオンが霊堂に帰ってくるのは週に一日か二日だけだった。
そして彼はいつも疲れ果てていて、カイと酒を酌み交わしたあとは、ほとんどの時間を眠って過ごしていたのだ。
レオンはいつも資材の調達をしている、と聞かされていたカイは、以前から疑問を感じていた。
なぜならここでの生活は十分に完成されており、酒や調味料といった嗜好品をのぞけば、頻繁に遠出が必要なほど物が不足しているとは思えなかったからだ。
(新しい住処を作ってくれてたから、いつもあんなに疲れてたのか)
その疑問が解かれたカイは、レオンにかかる負担を少しでも取り除かなければ、と意気込み、言った。
「おれも手伝うよ!」
「いらねえ」
その意気込みを、しかしレオンは一蹴する。
「どこもここからケタリングで一日かかる場所だ。お前には遠すぎる」
「馬で行くよ!乗馬はけっこううまくなったんだ。アフィーと半日くらい遠駆けしたこともあるし」
「山の上とか谷底にあんだぞ。ケタリングでしかいけねえよ」
「えっ、そんな遠いのかよ。しかも谷底って、なんでそんなとこに……」
「朝廷のやつらがおいそれと来れないだろ」
自分が狙われてることを忘れるなよ、とレオンは鼻をならす。
「狙われてるって……いやまあ、そうといえなくもないけど……」
カイは今ではすっかり回復し、霊能力も取り戻しつつあった。
無尽蔵の霊力を持つ異界人、唯一無二の技師として、朝廷は必ずカイを酷使するだろう。
この身体をもとの持ち主に返すためにも、決して健全であることを知られてはならない。
シェルティがことあるごとに口にする脅しを思い出し、カイは唸った。
「そうだよな。ここを出て行かなくちゃならなくなったとしても、あんま人目につくとこにはいれないよな――――でもじゃあ、なおさらレオン大変だろ。そんな辺鄙な場所じゃあ、ケタリングあるっていっても、もの運ぶだけで相当疲れるんじゃない?」
「問題ねえよ。どうしても手がいるときはあのバカ力を連れて行くしな」
バカ力とは、アフィーのことであった。
カイはレオンと共にアフィーがたまに外出していることを思いだし、またも唸った。
「……おれが行っても、できることなんてないか」
自虐的な言葉には、隠しきれない悔しさが滲み出ていた。
(ダメだな、おれやっぱ、全然三人の役に立ててないや)
(はじめて狩りがうまくいったからって浮かれてたけど、結局その狩りだってほとんどアフィーに助けてもらった結果だし)
(自分でもとの世界に帰るとか言い出しておいて、方法を探すのはシェルティだし。レオンの負担を減らしてやることもできないし……)
(おれ、三人に、なにも返せてないな)
レオンは酒を煽り、カイが獲った鹿の角を持ち上げる。
老いた真鹿の角は表面が荒くひび割れている。色も若鹿のような真珠色ではなく、褪せた黄土色で、枯れ枝と見まごうばかりだ。
しかしその表面を少し削れば、中からもとの光沢を帯びた真珠色が現れる。
枝の伸び方も、歪曲し絡まるようなことはなく、まっすぐ、堂々とした形をしている。
古いが、立派な角だった。
「――――乗るか」
角を眺めながら、ふいに、レオンは言った。
「ケタリング、乗れよ」
「え?」
「どうせあっちに移るときは乗らなきゃねんねえんだ。今のうちに慣れておいて、損はないだろ」
カイは大きな目を何度も瞬かせ、いいのか?と念を押す。
「ずっとダメだって……。体力も霊操もまだまだだからダメだって言ってたのに……」
レオンは角をカイに投げる。
「わっ!?」
ずしりと重い、十キロはあろう角を、カイはよろけながらもしっかりと受け止める。
「そんだけのもんを獲れるなら、充分資格はある」
それまでカイの内を占めていたやるせなさや悔しさは、途端に消えてなくなる。
「……乗る」
雨上がりの晴天のような笑顔で、カイは大きく頷いた。
「乗る!行く!やる!任せろよ!」
「単純なやつだな」
「うるせー!」
カイは笑顔のまま、レオンの肩をばしばしと叩いた。
「だって。乗っていいんだろ、ケタリングに!」
それはカイの念願だった。
ケタリングに乗るためには高度な霊操能力に加え、少なくとも人並程度の体力、筋力がなくてはならない。
これまでカイは幾度となくケタリングへの搭乗を懇願したが、鍛えてから出なおして来いと撥ねつけられるばかりだったのだ。
カイにとってケタリングに乗ることは、ただ空を飛ぶという好奇心を満たすだけでない。
レオンという男に自分の実力を認められたことを意味することでもあった。
「簡単には乗りこなせねえ。しばらくは訓練を受けてもらうぞ」
「はい!」
「明日から覚悟しとけよ」
「よろしくお願いします!」
カイは真剣な面持ちを繕おうとするが、あがった口角を下げることはできなかった。
「そんなに楽しみか」
「やべー楽しみ!」
「……そうか」
呟くレオンの声色は、心なしか沈んでいた。
細められたその瞳も、カイに向けられているが、カイではなく遠くにいる別の誰かを眺めているようだった。
「レオン?」
「――――なんだよ」
「どうかした?」
レオンは鼻をならし、カイの頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
「浮かれてられんのも今のうちだけだ。おれはあの二人とちがって甘くねえからな」
カイはぼさぼさになった頭をそのままに、おう!と威勢よく返した。
「やってやるよ!――――っていうか、たしかにシェルはずっとおれに甘いけど、アフィーはけっこうスパルタなんだぜ?まあいいや、とにかくよろしく!」
カイは栓をしたままの酒瓶をレオンに向けて掲げる。レオンは片手でその栓を抜いてやり、自分の持つ酒瓶をぶつけた。
がちゃんと、大きな音を立てて、二人は乾杯した。
「あ、でも、明日はやめとこうよ」
「なんでだよ」
「だってレオン、さっき帰ってきたばっかりじゃん。明日は休んでよ」
「平気だ」
「ダメダメ。無茶させたくないし、それに今日獲った肉の処理、まだ全部済んでないんだ」
「ただでさえ固いんだ、干したら噛み切れなくなるぞ」
「同じことシェルに言われたよ。でもはじめての獲物だし、捨てるのはなあ……」
「じゃあはやいとこ食っちまえ」
「そうは言っても量が量だし……」
カイはそこでふと、レオンの足元に置かれた荷箱に目をやった。
荷箱の中は酒瓶でいっぱいだ。レオンとカイで飲んだとしても、ゆうにひと月は持つ量である。
「――――いいこと思いついた」
カイは飛び跳ねんばかりの勢いで立ち上がった。
「宴を開けばいいんだ!」
「シェルティがまだ起きてたから焼いてもらったんだ。……いちおうあいつも誘ったんだけど……」
「こねえだろ」
「すげえきれいな笑顔で拒否された」
「おれがあいつでも断るぞ」
「まじでさあ、ちょっとは仲よくしてくれよ。おれほんとは今日だって、ちょうどレオンが帰ってくる日だったしさ、みんなで飯食いたかったんだよ。おれの獲った鹿食ってほしかったんだよ」
「でも食ったんだろ、あいつらも」
「おれはみんな一緒に食べたかったんだって!」
レオンは持ち帰ってきた荷箱から新しい酒瓶を取り出し、カイに投げた。受け取ったカイは、ラベルを見て、顔を綻ばせた。
「おれの好きなやつじゃん!」
それは辛口の薬草酒だった。レオンは自分も同じ薬草酒を手に取り、栓を引き抜いた。
続いてカイも蓋を抜こうとするが、ふと疑問を抱き、そういえば、と問いかける。
「レオンがあんま家いないのって、こういう酒とかの調達してるからなんだよな?」
「おう」
「でもそれにしては頻度高くない?しかも長くない?ケタリングなら朝廷までひとっ飛びなんだろ?他にどっか行ってんの?」
「いろいろな」
「そのいろいろを教えてほしいんだって」
レオンは鹿焼きにかぶりつきながら、面倒そうに答える。
「新しい住処をつくってんだよ」
「住処……?」
「いつまでもここにはいられないだろ」
「え?――――あ、そっか。……そうだよなあ」
カイは弱りきった顔でため息を吐く。
カイたち四人が住居としている建物は、本来霊術の開発、研究を行うための施設であった。
貴重な資材や文献がいまなお多く保管されている場所であり、いつ朝廷に接収されてもおかしくはない。
シェルティからそう説明を受けていたカイは、レオンの言葉を聞いて改めて思い知らされた。
「急がないとな」
もとの世界へ戻る方法を探すために残された時間が、そう多くはないということを。
この一年、カイが霊操や狩りに精を出す傍らで、シェルティは降魂術について調べを進めていた。
調べといっても、霊堂に残された文献をひたすら読み解いてくだけだが、やはり量が尋常ではなく、一年で目を通せたのは全体の一割にも満たない。
そしてその一割に降魂術、カイの帰還に関わりそうなものはなにひとつ見つけられなかった。
長期戦は覚悟していたが、首都の復興が進んだ今、朝廷は地方都市や郊外の重要施設の再建に着手していた。
カイ達の住まう霊堂も、遠からず療養目的での使用は難しくなるだろう。
いつ返却を迫られるかはわからないが、それまでに蔵書すべてに目を通すとは、おそらく不可能だろうというのが、シェルティの見立てだった。
「――――目先のことばっかで、今後のことなにも考えてなかったよ、おれ」
カイは栓を抜かないままの酒瓶を握りしめ、俯いた。
「帰る方法見つけられない限り、ここでの生活は続くんだもんな」
「……不満か」
「いや、申し訳ないなって」
レオンはなにも言わずにカイの肩を抱いた。
「――――新しい住処の候補はいくつかある。どこもここより不便だが、お前も狩りができるくらいにはなったし、まあなんとかやっていけるだろ」
「え、一か所じゃないの?」
「一か所じゃ心もとねえだろ」
「でも……めちゃくちゃ大変だったんじゃない?」
「大した事ねえよ」
(いや絶対大変だろ……)
レオンが霊堂に帰ってくるのは週に一日か二日だけだった。
そして彼はいつも疲れ果てていて、カイと酒を酌み交わしたあとは、ほとんどの時間を眠って過ごしていたのだ。
レオンはいつも資材の調達をしている、と聞かされていたカイは、以前から疑問を感じていた。
なぜならここでの生活は十分に完成されており、酒や調味料といった嗜好品をのぞけば、頻繁に遠出が必要なほど物が不足しているとは思えなかったからだ。
(新しい住処を作ってくれてたから、いつもあんなに疲れてたのか)
その疑問が解かれたカイは、レオンにかかる負担を少しでも取り除かなければ、と意気込み、言った。
「おれも手伝うよ!」
「いらねえ」
その意気込みを、しかしレオンは一蹴する。
「どこもここからケタリングで一日かかる場所だ。お前には遠すぎる」
「馬で行くよ!乗馬はけっこううまくなったんだ。アフィーと半日くらい遠駆けしたこともあるし」
「山の上とか谷底にあんだぞ。ケタリングでしかいけねえよ」
「えっ、そんな遠いのかよ。しかも谷底って、なんでそんなとこに……」
「朝廷のやつらがおいそれと来れないだろ」
自分が狙われてることを忘れるなよ、とレオンは鼻をならす。
「狙われてるって……いやまあ、そうといえなくもないけど……」
カイは今ではすっかり回復し、霊能力も取り戻しつつあった。
無尽蔵の霊力を持つ異界人、唯一無二の技師として、朝廷は必ずカイを酷使するだろう。
この身体をもとの持ち主に返すためにも、決して健全であることを知られてはならない。
シェルティがことあるごとに口にする脅しを思い出し、カイは唸った。
「そうだよな。ここを出て行かなくちゃならなくなったとしても、あんま人目につくとこにはいれないよな――――でもじゃあ、なおさらレオン大変だろ。そんな辺鄙な場所じゃあ、ケタリングあるっていっても、もの運ぶだけで相当疲れるんじゃない?」
「問題ねえよ。どうしても手がいるときはあのバカ力を連れて行くしな」
バカ力とは、アフィーのことであった。
カイはレオンと共にアフィーがたまに外出していることを思いだし、またも唸った。
「……おれが行っても、できることなんてないか」
自虐的な言葉には、隠しきれない悔しさが滲み出ていた。
(ダメだな、おれやっぱ、全然三人の役に立ててないや)
(はじめて狩りがうまくいったからって浮かれてたけど、結局その狩りだってほとんどアフィーに助けてもらった結果だし)
(自分でもとの世界に帰るとか言い出しておいて、方法を探すのはシェルティだし。レオンの負担を減らしてやることもできないし……)
(おれ、三人に、なにも返せてないな)
レオンは酒を煽り、カイが獲った鹿の角を持ち上げる。
老いた真鹿の角は表面が荒くひび割れている。色も若鹿のような真珠色ではなく、褪せた黄土色で、枯れ枝と見まごうばかりだ。
しかしその表面を少し削れば、中からもとの光沢を帯びた真珠色が現れる。
枝の伸び方も、歪曲し絡まるようなことはなく、まっすぐ、堂々とした形をしている。
古いが、立派な角だった。
「――――乗るか」
角を眺めながら、ふいに、レオンは言った。
「ケタリング、乗れよ」
「え?」
「どうせあっちに移るときは乗らなきゃねんねえんだ。今のうちに慣れておいて、損はないだろ」
カイは大きな目を何度も瞬かせ、いいのか?と念を押す。
「ずっとダメだって……。体力も霊操もまだまだだからダメだって言ってたのに……」
レオンは角をカイに投げる。
「わっ!?」
ずしりと重い、十キロはあろう角を、カイはよろけながらもしっかりと受け止める。
「そんだけのもんを獲れるなら、充分資格はある」
それまでカイの内を占めていたやるせなさや悔しさは、途端に消えてなくなる。
「……乗る」
雨上がりの晴天のような笑顔で、カイは大きく頷いた。
「乗る!行く!やる!任せろよ!」
「単純なやつだな」
「うるせー!」
カイは笑顔のまま、レオンの肩をばしばしと叩いた。
「だって。乗っていいんだろ、ケタリングに!」
それはカイの念願だった。
ケタリングに乗るためには高度な霊操能力に加え、少なくとも人並程度の体力、筋力がなくてはならない。
これまでカイは幾度となくケタリングへの搭乗を懇願したが、鍛えてから出なおして来いと撥ねつけられるばかりだったのだ。
カイにとってケタリングに乗ることは、ただ空を飛ぶという好奇心を満たすだけでない。
レオンという男に自分の実力を認められたことを意味することでもあった。
「簡単には乗りこなせねえ。しばらくは訓練を受けてもらうぞ」
「はい!」
「明日から覚悟しとけよ」
「よろしくお願いします!」
カイは真剣な面持ちを繕おうとするが、あがった口角を下げることはできなかった。
「そんなに楽しみか」
「やべー楽しみ!」
「……そうか」
呟くレオンの声色は、心なしか沈んでいた。
細められたその瞳も、カイに向けられているが、カイではなく遠くにいる別の誰かを眺めているようだった。
「レオン?」
「――――なんだよ」
「どうかした?」
レオンは鼻をならし、カイの頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
「浮かれてられんのも今のうちだけだ。おれはあの二人とちがって甘くねえからな」
カイはぼさぼさになった頭をそのままに、おう!と威勢よく返した。
「やってやるよ!――――っていうか、たしかにシェルはずっとおれに甘いけど、アフィーはけっこうスパルタなんだぜ?まあいいや、とにかくよろしく!」
カイは栓をしたままの酒瓶をレオンに向けて掲げる。レオンは片手でその栓を抜いてやり、自分の持つ酒瓶をぶつけた。
がちゃんと、大きな音を立てて、二人は乾杯した。
「あ、でも、明日はやめとこうよ」
「なんでだよ」
「だってレオン、さっき帰ってきたばっかりじゃん。明日は休んでよ」
「平気だ」
「ダメダメ。無茶させたくないし、それに今日獲った肉の処理、まだ全部済んでないんだ」
「ただでさえ固いんだ、干したら噛み切れなくなるぞ」
「同じことシェルに言われたよ。でもはじめての獲物だし、捨てるのはなあ……」
「じゃあはやいとこ食っちまえ」
「そうは言っても量が量だし……」
カイはそこでふと、レオンの足元に置かれた荷箱に目をやった。
荷箱の中は酒瓶でいっぱいだ。レオンとカイで飲んだとしても、ゆうにひと月は持つ量である。
「――――いいこと思いついた」
カイは飛び跳ねんばかりの勢いで立ち上がった。
「宴を開けばいいんだ!」
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