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第一章
孤独と空腹
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(もとの世界に、帰る必要って、ないんだよな)
(おれがいなきや困ることって、なんもないし)
(……でもそれはこの世界でも同じか)
(呼ばれた目的は果たしたわけだし、もう用済みだよな、おれ)
(なんなら、おれがいつまでもいたら、シェルティとアフィーに迷惑かかるよな)
カイはため息をついて顔をあげた。綿毛がまるでカイを慰めようとするかのように、カイの顔周りに集まってきた。
「なんだよ、くすぐったいよ」
カイは笑ってそれを手で払いのけた。
(こういうのは、楽しいんだけどな)
(でもやっぱ、いつまでもってわけにはいかないよな)
(ここがもしなんかの作品世界で、おれば登場人物の一人に成り代わってる、っていうんだったらわかりやすかったんだけどな)
(ただ物語の通りに生きればいい。物語が気に食わなきゃ改変して理想のエンディングを目指す。……それが異世界転生ものの醍醐味だと思うけど、ここが物語の世界だとは、思えないんだよな)
(例え物語の世界だったとしても、なんの作品か見当もつかないってなると、物語かそうじゃないかって、さして重要じゃなくなるんだよな。辿るべきストーリーがわからないんじゃ、おれにとってここで起こるすべては、現在進行形の出来事になるわけだから……)
(ゲームの世界に転生すると、けっこうスキルとかステータスが可視化されたり、システマティックな天の声が聞こえたり、なんてご都合便利機能があるあるだけど、そんなもんはないしなあ……)
(だからいまのおれって、知らない国で迷子になってるようなもんなんだよな)
(……迷子なら、やっぱ、帰らなきゃいけないか?)
カイは鼻にすりよってきた綿毛をつまみ、手のひらに乗せる。他の綿毛も吸い寄せられるように集まってくる。
カイは手のひらに群がる光に、ロウソクの火を吹き消すように息を吹きかけ、飛ばす。綿毛は四方に散るが、カイから離れては行かない。
(決めた。――――帰ろう)
(それがきっと一番いい)
(帰り方――――っていうか、もとの身体への戻り方、わかんないけど。とりあえず方法を探すのが、当面のやるべきこと、だな)
(美少女に一生おれの身体をつかってもらうの、悪すぎるしな)
決意を固めたカイは、立ち上がり、伸びをした。
同時に大きく腹が鳴った。
(うっ……へんな時間に起きたせいかな)
(シェルの用意してくれる飯、うまいけど、病人用ってかんじで、物足りないんだよな)
(ラーメンとか、牛丼とか、なんかがっつりしたもん食いたいなあ)
そう思うとまた腹が鳴った。
するとカイに纏わりついていた光る綿毛が、急にその光を強くした。
「なんだ?」
綿毛はカイの背中に集まり、光で翼の形を作る。
「お、わっ!?」
翼はカイの背中から生えているかのように、カイの身体を浮かせ、崩れた壁のすき間から外に飛び立たせた。
(なんだこれー!?)
カイは突然の飛行に驚きと恐怖で声も出なかった。
柔らかい草地とはいえ、地面は十数メートル下にある。落ちたらひとたまりもない。
光る綿毛の翼は、カイの意思とは関係なく、滑らかに空を進んでいく。
カイは歯を食いしばる。
(すげー!おれ空飛んでる!)
(でも思った百倍怖い!)
翼は建物に沿って、北に進んでいき、やがて小さな小屋の上に差し掛かった。
小屋は三角屋根のレンガ造りで、建物に背をあずけるようにしてひっそりと建っている。そしてその屋根の上で、レオンが一人、酒をあおっていた。
(おれがいなきや困ることって、なんもないし)
(……でもそれはこの世界でも同じか)
(呼ばれた目的は果たしたわけだし、もう用済みだよな、おれ)
(なんなら、おれがいつまでもいたら、シェルティとアフィーに迷惑かかるよな)
カイはため息をついて顔をあげた。綿毛がまるでカイを慰めようとするかのように、カイの顔周りに集まってきた。
「なんだよ、くすぐったいよ」
カイは笑ってそれを手で払いのけた。
(こういうのは、楽しいんだけどな)
(でもやっぱ、いつまでもってわけにはいかないよな)
(ここがもしなんかの作品世界で、おれば登場人物の一人に成り代わってる、っていうんだったらわかりやすかったんだけどな)
(ただ物語の通りに生きればいい。物語が気に食わなきゃ改変して理想のエンディングを目指す。……それが異世界転生ものの醍醐味だと思うけど、ここが物語の世界だとは、思えないんだよな)
(例え物語の世界だったとしても、なんの作品か見当もつかないってなると、物語かそうじゃないかって、さして重要じゃなくなるんだよな。辿るべきストーリーがわからないんじゃ、おれにとってここで起こるすべては、現在進行形の出来事になるわけだから……)
(ゲームの世界に転生すると、けっこうスキルとかステータスが可視化されたり、システマティックな天の声が聞こえたり、なんてご都合便利機能があるあるだけど、そんなもんはないしなあ……)
(だからいまのおれって、知らない国で迷子になってるようなもんなんだよな)
(……迷子なら、やっぱ、帰らなきゃいけないか?)
カイは鼻にすりよってきた綿毛をつまみ、手のひらに乗せる。他の綿毛も吸い寄せられるように集まってくる。
カイは手のひらに群がる光に、ロウソクの火を吹き消すように息を吹きかけ、飛ばす。綿毛は四方に散るが、カイから離れては行かない。
(決めた。――――帰ろう)
(それがきっと一番いい)
(帰り方――――っていうか、もとの身体への戻り方、わかんないけど。とりあえず方法を探すのが、当面のやるべきこと、だな)
(美少女に一生おれの身体をつかってもらうの、悪すぎるしな)
決意を固めたカイは、立ち上がり、伸びをした。
同時に大きく腹が鳴った。
(うっ……へんな時間に起きたせいかな)
(シェルの用意してくれる飯、うまいけど、病人用ってかんじで、物足りないんだよな)
(ラーメンとか、牛丼とか、なんかがっつりしたもん食いたいなあ)
そう思うとまた腹が鳴った。
するとカイに纏わりついていた光る綿毛が、急にその光を強くした。
「なんだ?」
綿毛はカイの背中に集まり、光で翼の形を作る。
「お、わっ!?」
翼はカイの背中から生えているかのように、カイの身体を浮かせ、崩れた壁のすき間から外に飛び立たせた。
(なんだこれー!?)
カイは突然の飛行に驚きと恐怖で声も出なかった。
柔らかい草地とはいえ、地面は十数メートル下にある。落ちたらひとたまりもない。
光る綿毛の翼は、カイの意思とは関係なく、滑らかに空を進んでいく。
カイは歯を食いしばる。
(すげー!おれ空飛んでる!)
(でも思った百倍怖い!)
翼は建物に沿って、北に進んでいき、やがて小さな小屋の上に差し掛かった。
小屋は三角屋根のレンガ造りで、建物に背をあずけるようにしてひっそりと建っている。そしてその屋根の上で、レオンが一人、酒をあおっていた。
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