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第一章

三渡カイ

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カイは裕福な家に生まれた男だった。
両親は会社を経営していて、幼いころからやりたいことはなんでもやらせてもらえた。遊びも、スポーツも、彼の望みはすべて叶えられた。
しかしカイはなにをやっても他者より秀でたことがなかった。いつも平均かそれ以下の成績しか残せなかった。
それに対して、ふたつ離れたカイの弟は、なにをやらせても頭一つ抜き出ていた。おまけにそれを笠に着ることのない、謙虚な性格で、言うまでもなく人望も厚かった。
両親は兄弟二人を表立って比較することは決してなかった。それでも、二人が幼いうちから、会社の後継者には弟を立てようという思いを持っていた。よりよい成績を収める弟に対しての方が、両親は厳しく、いかなるときもカイより多くの言葉でもって教育した。
両親はカイを弟と同じように愛していた。しかし、カイにはなにも期待していなかった。厳しくしつけられる弟の横で、カイはいつも、自由にしていい、と言われた。好きなことをしなさい。援助はおしまないから、やりたいことを、やりなさい、と。
カイは言われた通り、自由に過ごした。勉強やスポーツ、趣味に没頭することはなく、友人と遊んでばかりいた。仲のいいクラスのグループはアニメやマンガが好きなオタクが多く、それに影響されてカイ自身もオタク趣味に走るようになった。ラノベを読み、アニメを観て、ゲームをして、好きなだけオタク仲間と遊んだ。金に不自由しない、なんの制約もない生活は、誰もが羨むものだった。
けれどカイ自信は、両親に厳しく教育される弟の方を、いつも羨んでいた。
有名大学に入らなければならない。勉強だけでなく、さまざまなスポーツ、遊びに精通していなければならない。会社絡みの冠婚葬祭にはなるべく顔を出さなければならない。両親が弟に望むことをなにひとつ、カイはしたいと思わなかった。それでもカイは弟が羨ましかった。
カイは期待され、望まれたかったのだ。弟と同じように。
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