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1章
48話 子供を救うのは当たり前
しおりを挟む少女は、何故か怯えた表情をしていた。
いや、怯えるのは当然か......。
きっと俺の食事を見ていたのがバレて俺が不快に思って怒鳴りに近づいてきたと思っているのだろう。逃げようにも、大人の俺から逃げ延びるなんて到底不可能で、動くことも出来ずにただただその場で怯えているんだ。
悪いことをしたな.........。いや、逆にこれで俺が食べ物を上げる口実に繋がったか......。
俺は少女の前にたどり着くと、その場でしゃがみこみ、少女と同じ目線になって話しかける。
「怖がらせて悪かったね。お詫びにこの串焼きとジュースを上げるから許してくれないかな?」
「.........えっ??」
俺が何を言ったのか理解出来なかったのか、少女は首を傾げて俺を不思議そうに見つめて疑問の声を漏らした。
俺はその様子を見て、戸惑っているうちに強引に話を進めた方が楽そうだなと思い話を続ける。
「ほら、お腹すいてるんだろ? 早く食べなよ。さっき俺が食った中でも一番に美味しいと思った串焼きだ。さっ、ほら?」
俺が強引に串焼きとジュースを少女の前に差し出すと、戸惑いながらも、少女は串焼きとジュースを受け取った。
「ほ、ほんとにいいんですか?」
「ああ、気にせずお食べ」
俺がそう即答すると、やがて少女は、小さい口で一口、串焼きを頬張る。
「...........美味しい..........」
こぼれ落ちるように、そう呟いた少女の顔は、先程とは打って変わって笑顔を浮かべている。
その後も少女は、カプっといい音を立てて、串焼きを立て続けに頬張り続けて、ものの数秒で串焼きを完食した。
本当にお腹が空いていたんだろうな......。
少女は、お腹を満たしたあと、俺が与えたジュースをガブ飲みして、一気に飲み干し、とても満足そうな表情をしていた。
そして、俺の方を向いて感謝の言葉を精一杯伝えてくる。
「お兄ちゃんとても美味しかったです! その、ありがとうございました!!」
先程よりも声に張りが出ているその声色に、俺は深く安堵する。
「ふふっ、どういたしまして。ちなみに、他にも君みたいにお腹を空かせている子供はいたりするのかな?」
「ええっと、います!!」
やけに従順になった少女に俺は危機感を覚える。
もっと他人は疑った方がいいと思うんだけどな。まあ、あれだけお腹を空かせていたところで無償でご飯をくれた人を疑うのはまだ無理か。
「だったら、その子達もここに連れてきてくれないかな? 僕は子供が好きだから、飢えている子供がいるのはちょっと耐えられないんだ......。お願いできるかな?」
「わ、わかりました!! 今連れてきます!!」
少女はそう言うと、裏路地の方に走り去っていく。
さて、何人くらい連れてくるだろうか......。まあ、足りなくならないようにいっぱい買い込んどけばいいか。
俺はそう思うとすぐに再度色んな屋台を回って食べ物を買い集める。
量にして約二十人前くらい。これだけあれば足りるだろうと思い、少女と別れた場所に戻って少女を待った。
数分程経つと、後ろに八人の子供を引き連れた少女がこちらにやってきたのが分かり、俺はアイテムボックスに閉まっておいた食べ物を手元に出現させる。
「お兄ちゃーん!! 連れてきましたー!!」
さっきも思ったけど、幼女にお兄ちゃんと呼ばれると妹がいないのにシスコンに目覚めてしまいそうで怖い。いや、俺はシスコンでもロリコンでもフェミニストでもないからそんなことにはならないけどな。
「うんうん、みんなよく来たね。さっ、お腹空いてるだろう? お食べ」
俺はそう言うと、少女と同じくらい痩せ細った少年少女たちに串焼きを一本ずつ渡す。
少年少女たちは、食べ物を渡してくる俺を不思議そうに見つめてきたが、串焼きの美味しそうな魅力には勝てず、全員が全員俺のことなんて後回しにして串焼きを頬張る。
「君はみんなを連れてきてくれたから、もう一本お食べ」
俺はそう言って、みんなを連れてきてくれた少女にまた串焼きを上げようとする。
「君じゃなくてマリーです!!」
「え?」
「私の名前、マリーです! だから、お兄ちゃんはマリーって呼んでください!」
そう言って笑う少女が俺には天使に見えた。思わず抱きしめそうになるが、俺は寸でのところで思い留まり、マリーの頭を軽くポンポンと撫でる。
「分かったよ、マリー。それと、俺の名前はレイって言うんだ。気軽にレイと呼び捨てにしてくれて構わないからね?」
「うん......分かったよ、レイお兄ちゃん!!」
マリーは、にへらーっとだらしないくらい笑ってそういってきた。
俺の頭の中では、マリーの「レイお兄ちゃん」という言葉が無限ループして、俺はある決意を固めた。
「あ、あの..........」
俺がマリーと会話をしていると、串焼きを食べ終えた八人が俺に何かを言いたそうにモジモジしている。
「ん? どうしたんだい?」
「えっと、その.......ご飯くれてありがとうございました!」
「「「「ありがとうございました!!!」」」」
ああ、お礼を言いたかったのか。
当たり前のことをしたと思ってはいるけれど、改めてお礼を言われるとなんだかこっちが照れてしまうな。
「えっと、まあ、そんな気にするな。大人は子供が困っていれば助けるのは当たり前のことだからね。これからもお腹が空いたり何か困っていることがあれば俺んとこにきな」
そう言うと俺は、簡単に俺の家の場所を教える。
店の玄関前に『キサラギ商会』と大きな看板をつけているのできっと子供でも簡単に見つけてくれるだろう。
「じゃっ俺はまだやることがあるからそろそろいくな? マリー.....とみんなも気をつけてな?」
「レイお兄ちゃん!! ほんとにありがとうございました!!」
「「「「ありがとうございました!!!」」」」
再度お礼を言ってきた少年少女たちは、まだまだ痩せ細っているものの、さっきまでとは違い、明るい雰囲気になっていた。
俺はその様子を見て、俺はお別れを告げて背を向けてマリー達とは逆方向に足を進める。
あの子供達な、必ず救って上げなければいけない。
マリーやみんなの笑顔はとても綺麗なもので、純粋な子供のそれだった。あんな小さい子供たちをこのまま放っておくことなんて俺には出来ない。
生まれる時代.....いや、世界が違っただけで、あんなやせ細って今にも死にそうな程酷い環境に追いやられてしまっているんだ。
なんとしてでも俺が救う。
そんな思いを胸に俺はその場を後にした。
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