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1章
6話 ゴブリン再び
しおりを挟む先生との特訓の後、すぐに受験はやってきた。
そして、合格発表の日も…。
結論から発表する。
僕は不合格だった!
と思ったら、繰り上げ合格になった。
AO入試でもそんなことあるんだ…。
私立だからかなぁ。
実は、不合格になってからも「まだなんか事件が起こって合格になれ!」って念じてた。
先生の言ってた、メンタルってやつ。
合格発表後に不合格って書いてあっても落ち込まずに「一般入試じゃ無理なんで、AOで繰り上げ合格する」って念じてた。
それで、本当に合格しちゃったわけだ。
自分でも笑っちゃうよ。
先生に「繰り上げ合格しました!」って報告した。
「そんなの嘘ね。」と先生は僕を信じていなかったみたいだけど、事実だ。
合格が嬉しくて有頂天の僕は、すぐに理科教員室に向かって、先生に大声で合格の自慢をしたのだった。
「先生。僕、大学合格したんでご褒美もらってもいいですか?」
「ご褒美?まぁ、考えてやらなくもないけど、今すぐは無理よ。一般入試が終わるまで忙しいの。」
確かに、僕は暇になるけど、これから先生は忙しくなると思う。
ちょっと寂しいものの、ここは、面倒な子どもだと思われたくないので潔く引くことにした。
「別にいつでもいいんで、お願いします!」
珍しく、理科教員室に先生1人しかいなかったので本当はこの場に入り浸りたかったのだけれど、先生の周りにはあらゆる書類と荷物が散乱していた。
多分、相当忙しいのだと思う。
ちょっと先生、ドライ対応だったし。
僕は、放課後で人がいない生物室に向かった。
教室の1番後ろの席に座る。
今はともかく喜びが大きく、踊り出したい気分である。
その一方で、大きな不安もある。
例えば、先生との関係について。
卒業まで残り何日あるのだろう?
先生と、学校で会えるのは後何日くらいかな?
卒業して会えなくなった、僕たちの関係はどうなるのだろうか。
嬉しさが今は大きいものの、先々のことを考えると、不安になる。
このままでいたい。
けれど、時間は止めることができない。
(もう、このままの暮らしのままでいいのに…)
今まで、特に先生のことを好きになってからは早く卒業したくて、大人になりたくて堪らなかった。だから、時間が早く進めばいいと思っていた。
それなのに、今は時間が止まって欲しいと思っている。
(僕ってわがままだな…)
まだ、離れ離れになると決まったわけじゃないのに、先生との別れの事を考えて涙が一粒だけ溢れる。
センチメンタルな気持ちのまま、僕は生物室に居るともっとセンチメンタルになった。
だって、ここは、先生とたくさんの時間を過ごした場所だから。
この場所で、僕は先生を好きになったんだと思う。
先生とまだ付き合う前のことを、今になってから思い返すと恥ずかしいな。
一生懸命に、先生に好きアピールをしてた。ちょっと女々しかったかなぁ。
けれど、先生は僕より想いに応えてくれた。
今も充分に子供だけれど、その頃は今よりももっと子供だった。
「だいすき…。」
呟いてみる。
誰もいない教室に、僕の小さい声が反響した。
外は生徒達の声で賑やかだ。
ただ、この生物室だけが静まり返っている。
「なんか言った?」
「うわぁぁぁっ!」
突然の声に僕は驚く。
「なんか声が聞こえたんだけど。」
先生が、教室のドアの隙間からひょっこり顔を覗かせて僕を見ている。
「な、何も言ってないです!」
本当は言ったけど、僕はシラを切ることにした。なぜなら、恥ずかしいから。
「大好きとかなんとか言ってたよね?」
「聞こえてたんですか…。」
ちゃんと聞かれていたのか…。
「はい…。言いましたよ。」
「ふーん。」
「興味ないなら聞かないでください。」
「あるよ、もちろん。だって君、目が腫れているし。気になるに決まってるわ。」
さっきちょっと泣いちゃったから目が腫れていたのかもしれない。
「ちょっと感傷に浸ってたんです。」
「君もそんなことするの?意外すぎるわ。」
「失礼ですね。僕だっておセンチな気分の日もあります!」
「んで、誰のことが好きなわけ?」
そんなの決まってる…。
先生は、目をキラキラさせながら僕を見てくる。
「ほら、言ってみてごらん。誰のことかなぁ?」
先生は、僕を見てニヤニヤしながら生物室に入って来た。
(もう逃げられない…。)
「先生ですよ…。」
僕が観念して答えると、先生はパッと笑顔になった。
とても可愛らしいと思った。
先生はいつもちょっとドライでクールな事が多いから。
「あら、どうも。それで、泣いてたのは?」
僕は知っている。先生はちょっとしつこい。
多分、僕が泣いていた理由を知りたがるはず。
「先生とずっと一緒にいたいんです。でも、卒業したら一緒に居られなくなるかもしれないです。端的に言えば、それが不安です。」
「誰も離れるなんて言ってないよね?」
「はい…。でも、不安なんです。先生は忙しいし。何より僕は子供だから。」
「そんな事で泣いたの?本当に子供ね。」
先生は呆れたように言った。
「大丈夫よ…。」
先生は、僕が座っている席の前に座って僕の方を向いた。
「絶対に離れないですか?一緒にいられますか?」
「もちろん。」
微笑む先生が、僕の頭に手を伸ばす。
優しく頭を撫でてくれる。
「大丈夫。私も君の事が好きだから。」
先生は、僕にだけ聞こえる小さな声でつぶやいた。
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