見えない「愛情」と「幸せ」を求めて。

文字の大きさ
上 下
4 / 15
外の世界を知りたいだけなのに。

3(記憶)

しおりを挟む
高校生になってすぐのこと。

「ねえ、君なんていう名前なの?」

中学の頃の知り合いもほとんどおらず、気まずそうに本を読んでいた俺に、突如として話しかけてきた人。

それが、楓との出会いだった。

「え、えっと···とうざき、かなでっていいます···」

「すごい格好いい名前だね!俺は楓っていうんだ!よろしく、奏!」

初対面でもすごく親しく話しかけてくれたのが、個人的にはびっくりして。

中学校ではそんなに目立つような性格でもなくて、尚且つ容姿も普通だったから、どうして俺に話しかけてきたのかがわからなかったけど。

「うん···よろしく!楓くん!」

「楓でいいよ。呼び捨ての方が気が楽だし。」

周りにはこちらを見ながら興奮気味にヒソヒソと話す女子がたくさんいた。




昼休み。楓と、自己紹介のように、お互い好きな事や苦手なことについて話していると。


(う···楓、こう見るとめっちゃ綺麗な顔で···スラッとしてて···モテ要素完全に制覇してるんじゃないか···?)

「ん?どうした、奏。」

「あっ、いや···すごいイケメン···だなって···」

「あぁ、中学校でもよく言われたよ。ここに入ってきてすぐ、いろんな人からかっこいいかっこいいって言われたんだよね。」

「いや、すげーかっこいいと思うけど···」

「そう?」

少し真剣な顔になった楓は続けてこう言った。

「奏も、すごい綺麗で、可愛い顔だよ?」

俺達の間で少しの沈黙が流れる。

「え···そうかな···?そんなこと、言われたことないんだけど···」

楓はふふっと笑って俺の頬に手を当てる。

「ううん、すっごく可愛いよ。」

周囲の視線が一気に俺達に集まる。楓はそんなこと気にしていなかったようだけど。

「ちょっと、からかわないでよ!」

「え?本気だけど。それに奏、顔真っ赤にして、どうしちゃったの?」

「だーかーら!もぅ······」

「ごめんごめん。ちょっと楽しくなっちゃって。」

俺達を見てキャーキャーと騒ぐ女子たち。
うわー、俺もあんなのしてみてーわ、と嘆くように言う男子たち。

「うう···恥ずかしい···」











そこから、俺の記憶は、楓に監禁されるまで、ぽっかりと穴が空いたように無くなっている。





この空白の時間に、何があったのだろうか。知りたいだけなのに、その話をすると、楓にうまく流されてしまう。


楓に監禁されて、もうかなりの時間が経った。

いつしか外の景色も、親も、クラスメイトも、記憶すらも、俺の脳内から消えかけていた。

でも、楓の顔だけは鮮明に思い出せるのだ。


目隠しを常にされ続けているはずなのに。

それが嫌で、俺は逃げ出したんだ。

外の世界はどうなっているのか。知り合いや親は何をしているのか。この隠され続けた目で、見てみたかっただけなのに。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

処理中です...