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本編
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「さて、そろそろ帰ろうか?」
「うん、そうだね」
お互い酒量が同じらしく、いつも ちょうどいいタイミング。
そして奢られるのをヨシとしない私の意見を尊重して2で割った端数を彼が払うことで お互いの尊厳を守る。
チャリン、チャリンと小気味良い音を立てて小銭が彼の手から離れる。
「ごめん、ごめん」
そう言って拾おうとするけど、なかなか掴めない。
「ふふふ。今日は酔っ払っちゃった?」
笑いながら小銭を拾い集めて成瀬君に渡す。
「……そうみたいだな」
苦笑しながら、それをウェイターに渡して店を後にする。
「大丈夫?」
タクシーの中、珍しく無言でいる彼を覗きこむ。
「……ああ、少し酔ったみたいだ」
「お互い年なんだから気をつけて飲まないとね~」
そんな軽口を言いながら彼の手を叩く。
え……?
酔って体温の上がった体にしては冷たい手にビックリする。
「ホントに大丈夫?」
「ん?ああ、大丈夫だよ」
私の狼狽に気づかず薄く笑う成瀬君。
思えば、それが始まりだったのかも しれない……。
あれから少し気をつけて様子を見ているとアル中かな?と思うほど微かに左手が震えている。
いつも背筋を伸ばして座っているから気づかなかったけど、わりと さりげなく左手 かばっているのが分かった。
飲みだしても震えが止まらないってことはアル中ではないのかな?
と言うか成瀬君にアル中は似合わない。
なんて ぼんやりと そんなことを思いながらウーロンハイを飲む。
「今日は やけに静かだな」
「酔ったかも」
「うそつけ」
軽く いなされた。
「また悩みでもあるのか?話して楽になることもあるし、いちおう口は硬い方だよ」
最後は茶化すように、でも実は心配してくれてる言葉に ほっこりする。
「成瀬君て左手どうしたの?」
いっそズバッと聞いてしまった方がいいと思い核心をついた。
「……これでも上手に隠せてるつもりだったんだけどな」
少し困ったように笑う。
「会社でも?」
「……会社でも」
それはスゴい役者だわ。
「お酒のせいで完成度が落ちてるのかもね」
「……それは禁酒しろってことか?」
「そこまで言ってないけど……」
こちらが核心をついたのに そこから話題をそらそうとしてるみたい。
「私も口は硬い方だと思ってるし、野次馬的な好奇心で聞いてる訳じゃないわよ。でも嫌なら深くは聞かないけど、いきなり倒れるとかは勘弁してほしいかな」
成瀬君にならい、最後は茶化すように言う。
「はは。そこは大丈夫だよ。でもまぁ聞かないでくれると助かるかな」
「オッケー。なら この話は おしまいね」
「ありがとう」
知り合い以上 友達未満の距離感では これ以上は踏み込めない。
友達なら……心配してしまうレベルの病気……なのかも知れない 。
そう行きつき、いつも穏やかに笑う彼と私は思うほど近づいては いないんじゃないか?と思えてきた。
心は許されていない。
そりゃ数ヶ月 飲むだけの元同級生だし、よく考えたら彼の職種も住んでるとこも知らない。
何気ない世間話をしながら今更ながらな疑問が浮かぶ。
彼は、なんで私と飲んでるのかしら?
「うん、そうだね」
お互い酒量が同じらしく、いつも ちょうどいいタイミング。
そして奢られるのをヨシとしない私の意見を尊重して2で割った端数を彼が払うことで お互いの尊厳を守る。
チャリン、チャリンと小気味良い音を立てて小銭が彼の手から離れる。
「ごめん、ごめん」
そう言って拾おうとするけど、なかなか掴めない。
「ふふふ。今日は酔っ払っちゃった?」
笑いながら小銭を拾い集めて成瀬君に渡す。
「……そうみたいだな」
苦笑しながら、それをウェイターに渡して店を後にする。
「大丈夫?」
タクシーの中、珍しく無言でいる彼を覗きこむ。
「……ああ、少し酔ったみたいだ」
「お互い年なんだから気をつけて飲まないとね~」
そんな軽口を言いながら彼の手を叩く。
え……?
酔って体温の上がった体にしては冷たい手にビックリする。
「ホントに大丈夫?」
「ん?ああ、大丈夫だよ」
私の狼狽に気づかず薄く笑う成瀬君。
思えば、それが始まりだったのかも しれない……。
あれから少し気をつけて様子を見ているとアル中かな?と思うほど微かに左手が震えている。
いつも背筋を伸ばして座っているから気づかなかったけど、わりと さりげなく左手 かばっているのが分かった。
飲みだしても震えが止まらないってことはアル中ではないのかな?
と言うか成瀬君にアル中は似合わない。
なんて ぼんやりと そんなことを思いながらウーロンハイを飲む。
「今日は やけに静かだな」
「酔ったかも」
「うそつけ」
軽く いなされた。
「また悩みでもあるのか?話して楽になることもあるし、いちおう口は硬い方だよ」
最後は茶化すように、でも実は心配してくれてる言葉に ほっこりする。
「成瀬君て左手どうしたの?」
いっそズバッと聞いてしまった方がいいと思い核心をついた。
「……これでも上手に隠せてるつもりだったんだけどな」
少し困ったように笑う。
「会社でも?」
「……会社でも」
それはスゴい役者だわ。
「お酒のせいで完成度が落ちてるのかもね」
「……それは禁酒しろってことか?」
「そこまで言ってないけど……」
こちらが核心をついたのに そこから話題をそらそうとしてるみたい。
「私も口は硬い方だと思ってるし、野次馬的な好奇心で聞いてる訳じゃないわよ。でも嫌なら深くは聞かないけど、いきなり倒れるとかは勘弁してほしいかな」
成瀬君にならい、最後は茶化すように言う。
「はは。そこは大丈夫だよ。でもまぁ聞かないでくれると助かるかな」
「オッケー。なら この話は おしまいね」
「ありがとう」
知り合い以上 友達未満の距離感では これ以上は踏み込めない。
友達なら……心配してしまうレベルの病気……なのかも知れない 。
そう行きつき、いつも穏やかに笑う彼と私は思うほど近づいては いないんじゃないか?と思えてきた。
心は許されていない。
そりゃ数ヶ月 飲むだけの元同級生だし、よく考えたら彼の職種も住んでるとこも知らない。
何気ない世間話をしながら今更ながらな疑問が浮かぶ。
彼は、なんで私と飲んでるのかしら?
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