君を思ひて月を見る

冷暖房完備

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「こんばんはぁ。成瀬さんですよね?」
こじんまりとした可愛らしい女の子が声をかけてきた。
 
彼の行きつけを飲み歩いてるんだから、いつかは こんな事も起きるとは思ってたけどね。
 
隙のない愛されメイクとファッション。
軽く巻いた髪も艶々。
ほわんとした笑顔で隠してるけど、ホント完璧に隙がないと半ば感心してしまう。
 
20代かしらね、指先まで肌が綺麗だわ。
 
隣に座ってる私なんて眼中にないのか二人の世界を築きつつある女の子。
「えっと、N物産の中島さんだったかな?」
「そうです!嬉しい、覚えてくれてたんですね!!」
 
ほぼ接点のない私のことすら覚えてる脅威の記憶力だものね。
驚くほどでもないわよ?
 
「ちょっと比奈子。帰ってくるの遅いと思ったら成瀬さんじゃないですかぁ」
なんか後方からクネクネしたモデル風の女の子が近づいてきた。
 
例に漏れず私の存在はアウトオブ眼中なのね。
 
呆れながらウーロンハイを飲む。
「そうだ!良かったら一緒に飲みませんか?同期で飲んでるんですよ~」
キャッ、名案!て手を叩いてるけど、二人ともハイエナの目になってるよ。
 
ちょっと本気で悪寒が走ったわ。
 
「嬉しいお誘いだけど連れがいるんだ。ごめんね」
苦笑いしながら軽く手をあげる。
瞬間、え!?というように私に視線を向ける。
 
ガラガラのカウンターで隣同士で座ってるのに赤の他人とでも思ってたのかしら。
まぁ赤の他人だけどね。
 
「か、彼女さんですか?」
そんな訳ないわよねって顔に書いて聞いてくる。
「友達よ」
「ですよね~」
綺麗にハモった。
「じゃあ、お友達の方も一緒にどうですか?」
 
え?ええ!?
 
「いいですね~」
二人で名案って喜びあってるけど無理でしょ!!
 
こんなハイエナの狩り場に放り込まれたら生きて帰れないわ!!
 
想像しただけでゾッとしていると、成瀬君が私を隠すようにカウンターに乗り出す。
「それは無理があるよ。俺達は俺達で勝手に飲んで帰るから君達は君達で楽しく飲んで帰りなさい」
「えーーー!!いいじゃないですかぁ」
「お友達の方もイイって言ってくれてますし一緒に飲みましょうよ~」
成瀬君の腕を掴んで立ち上がらせようとする。
 
いやいや!!私、一言もイイなんて言ってないわよ!?
 
これがモテ女の やり方なの!?
怖すぎるわ!!
 
彼女達に諭されるように立ち上がった成瀬君が もう片方の手で私を立ち上がらせた。
「そろそろ門限だから送ってく」
にっこりと微笑む成瀬君。
 
……も、門限?
 
女の子たちも こんなオバサンに門限なんてあるのか?って顔をしてる。
「君達も あまり飲みすぎないように帰りなさい。おやすみ」
そう言うと私を連れて すたすたと歩きだす。
「な、成瀬君?」
「場所かえて飲みなおそう」
苦笑いで成瀬君が言った。
 
 
 
 
「悪かったね」
高架下の おでん屋さんで一杯目に口をつけてから成瀬君が謝る。
「別に成瀬君のせいじゃないわよ」
特に怒るような事でもないし私自身 気にはしてない。
「いや、実はあの店、N物産の専務の お気に入りなんだよ」
「ああ、それなら彼女達が居ても不思議ではないわね」
「そういうこと。だからゴメンね」
「だから謝らなくてイイわよ。貴重な体験もできたし面白かったわよ」
「え?どこが?」
「イケメンが どうやって口説かれるのか?とか」
「口説かれてないし」
はははと笑う。
「しかも少し優越感も味わせてもらったしね」
「優越感?」
「美女を振り切りイケメンと二人で ご退場なんてドラマみたいじゃない?」
「なんだよそれ」
「もういいじゃない。それより おでんよ!」
そう言って熱々の大根を口に入れる。
「はふっ!」
「ゆっくり食べろよ」
そう言って成瀬君も はんぺんに かぶりつく。
「はふっ!!」
「なるへくんらってぇ」
二人で顔を見合わせて笑う。
 
話をそらしてしまったけど彼女達の態度も納得できるのよね。
なんで成瀬君は私と飲んでるんだろう。
誘えば誰だって着いてくるはずだとは思ってたけど、あんな風に誘ってくる女の子だっているのに わざわざ私を誘う理由が分からない。
女友達だって居たと思うし、男友達だって たくさん居たわ。
 
でも自分から話をそらしておいて聞くのも おかしいよね……。
 
楽しく飲みながら、そんなことを思っていた。
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