君を思ひて月を見る

冷暖房完備

文字の大きさ
上 下
3 / 14
プロローグ

しおりを挟む
ホテルを出て少し歩くと女子が好きそうな外観の お洒落なラウンジが見えてきた。
「どうぞ」
ドアを開け、少し気取ってエスコートする彼は信じられないくらい素敵で息を飲む。
彼は、呆然と立ち尽くす私を見て苦笑いする。
「やり過ぎた?」
その言葉で この言動が受け狙いだったのだと察する。
 
……似合いすぎてて洒落に なってないわ。
 
私こそ苦笑いだと思いつつ店内に足を運ぶ。
黒と赤を基調としたシックな店内は、やはり女子が好きそうだなと思った。
チラリと成瀬君を見ると慣れた手つきで注文をしていた。
 
…これは遊んでそうだ。
この見た目で大手にお勤めだもんね、モテないわけがないわ。
 
「斎藤は?なに呑む?」
「ジンジャエールで」
ふいに聞かれて、つい いつもの飲み物を頼む。
「子供か」
彼が笑ってオーダーを通した。
「お酒 呑めないなら他の店のが良かったな」
「……呑めるわよ」
「え?」
彼に見惚れてて ついバリューセットを頼む感覚で答えてしまった。
 
なぁんて恥ずかしくて言えない。
 
「…天然」
くつくつと笑いながら呟く。
「天然ちがう!」
私も少し むきになって睨む。
 
でも、彼はスゴいなぁ。
 
極度の人見知りではないけど、言葉の引き出しが少なく会話のキャッチボールが苦手な私が途切れることなく話せている。
それに成瀬君は出会った時から柔らかな笑顔を絶やさず話してくれてるから当初の緊張も どこへやら。
 
ああ、本当に彼はモテるだろうなぁ。
 
そう行き着いて、つい聞いてしまった。
「なんで結婚しないの?」
私が聞くと初めて彼から笑顔が消えた。
 
しまった…。
 
2杯目からアルコールを頼んでいた酔いが一瞬で冷める。
どんなに楽しく会話を続けていても私たちは友達じゃない。
彼に気を使ってもらって初めて成立する関係だったのに……。
後悔で泣きそうになる。
「…斎藤は?なんで結婚しないの?」
質問に質問が返ってきた。
「……出会いがなかったからよ」
「俺も」
 
嘘つけ!!
 
思わず叫びそうになるのを我慢する。
「嘘つけって顔に出てるよ」
そう言って笑う。
その顔に ホッとしつつ、さりげなく話題を変えた。
 
 
 
 
 
ねぇ、これが最後でイイから楽しかったって思って帰ってほしい。
 
そう願いながら…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

処理中です...