1 / 14
プロローグ
1
しおりを挟む
彼は、いつも目立っていた。
学級委員や児童会長、なにかしらを毎年やっていた。
元気で明るいガキ大将といった風貌の彼は年々思慮深さが増し、中学へ上がる頃 少年ぽさを残しながらも確実に大人の階段を昇っていった。
「指揮者の成瀬 俊彰です。最後の合唱 力を出しきって、よい卒業式にしましょう」
合唱に特化した中学は音楽の時間は ほぼ歌の時間だけで終わる。
そんな中で何度目かの指揮に慣れた手つきで指揮棒を握る彼。
すらりとした長身に野球部で鍛えた しなやかな体躯。
理知的なキリリとした表情。
彼は女子生徒の憧れの的だった。
そんな彼を見つめる私は特に目立つ生徒でもなく、成績も運動神経も外見も平凡を絵に書いたような女だ。
「斎藤。斎藤 瞳!」
呼ばれて振り向くと英語の先生が前回 集めたノートを持って歩いてきた。
「ちょうど良かった。これ教室まで持っていってくれ」
え……?
まさかとは思ったが手芸部 在籍、運動神経 皆無の私に そんな重たいものを一人で持たせる気なのか。
教師の神経を疑う発言に思考が停止した。
「あ、成瀬!!お前も手伝え」
えっ!?
ちょうど階段を登ってきた彼に教師がニコニコと頼む。
「教室まで運べばイイですか?」
「さすが生徒会長、話が早いな」
ノートを受け取る彼を見つめながら先ほどとは違う状態で思考が停止する。
こ、これって私も持った方がイイん、だよね?
でも彼は なんでもないように全部 抱えてしまっている。
どうしたものかと手持ちぶさたに なっていると、成瀬君と目があった。
「一人で運べるから斎藤は行っていいよ」
あ、私の名前 知ってるんだ。
何度か同じクラスになったことがあるのだから当たり前だ。
でもクラスに一人や二人 必ずいる大人しい部類の私のことなんて気づいてないと思っていた。
「ア、アリガト……」
ひどくカタコトなお礼を言うとロボットのようにギクシャクと歩きだす。
後にも先にも彼と会話したのは、この一度だけだった。
それから風の噂で彼が東京の大学へ進学した聞いたのは成人式。
友達でもない私が彼のことを知り得たのは そこまでで、それも もう遠い昔。
私は30をすぎ、地元の小さな会社の事務をやっていた。
「瞳ちゃんは彼氏とか いないの?」
人のいい社長夫人が何気なく聞く。
「出会いがないですから……」
苦笑いで答えると待ってました!とばかりに お見合い写真なるものを出してくる。
……毎度お約束の展開。
もう何も言わず出してきてもらってイイのに奥さんは このルーティンがないと写真が出せないらしい。
まぁイイけどね。私としてもありがたい。
自力で出会えない人間にとって、こ~ゆ~お節介おばちゃん的な存在は本当にありがたい。
なかなか成立しない私のために四方八方 手当たり次第お相手を探してきてくれる。
「今回はね、うちに来てる保険屋さんからの紹介でね。瞳ちゃんと同い年だから前回のように会話が 成り立たないってことは ないと思うわ!!」
前回……15歳上の少し前髪の寂しい人だった。
ああ、女も30すぎると こんなのしか残ってないのかと言い知れない思いをしたが、会話が何一つ噛み合わないことで向こうから断りが入れられた。
断られるということに更に落ち込んだことは奥さんには内緒。
「お写真あるから見てみて!!わりとイケメンだと思うわよ。大手にお勤めだし、掘り出し物よ!!」
年末バーゲンみたいな言い回しに苦笑いをしつつ渡された見合い写真を開く。
「成瀬 俊彰さん。東京から地元に異動してこられたそうよ」
成瀬……君?
学級委員や児童会長、なにかしらを毎年やっていた。
元気で明るいガキ大将といった風貌の彼は年々思慮深さが増し、中学へ上がる頃 少年ぽさを残しながらも確実に大人の階段を昇っていった。
「指揮者の成瀬 俊彰です。最後の合唱 力を出しきって、よい卒業式にしましょう」
合唱に特化した中学は音楽の時間は ほぼ歌の時間だけで終わる。
そんな中で何度目かの指揮に慣れた手つきで指揮棒を握る彼。
すらりとした長身に野球部で鍛えた しなやかな体躯。
理知的なキリリとした表情。
彼は女子生徒の憧れの的だった。
そんな彼を見つめる私は特に目立つ生徒でもなく、成績も運動神経も外見も平凡を絵に書いたような女だ。
「斎藤。斎藤 瞳!」
呼ばれて振り向くと英語の先生が前回 集めたノートを持って歩いてきた。
「ちょうど良かった。これ教室まで持っていってくれ」
え……?
まさかとは思ったが手芸部 在籍、運動神経 皆無の私に そんな重たいものを一人で持たせる気なのか。
教師の神経を疑う発言に思考が停止した。
「あ、成瀬!!お前も手伝え」
えっ!?
ちょうど階段を登ってきた彼に教師がニコニコと頼む。
「教室まで運べばイイですか?」
「さすが生徒会長、話が早いな」
ノートを受け取る彼を見つめながら先ほどとは違う状態で思考が停止する。
こ、これって私も持った方がイイん、だよね?
でも彼は なんでもないように全部 抱えてしまっている。
どうしたものかと手持ちぶさたに なっていると、成瀬君と目があった。
「一人で運べるから斎藤は行っていいよ」
あ、私の名前 知ってるんだ。
何度か同じクラスになったことがあるのだから当たり前だ。
でもクラスに一人や二人 必ずいる大人しい部類の私のことなんて気づいてないと思っていた。
「ア、アリガト……」
ひどくカタコトなお礼を言うとロボットのようにギクシャクと歩きだす。
後にも先にも彼と会話したのは、この一度だけだった。
それから風の噂で彼が東京の大学へ進学した聞いたのは成人式。
友達でもない私が彼のことを知り得たのは そこまでで、それも もう遠い昔。
私は30をすぎ、地元の小さな会社の事務をやっていた。
「瞳ちゃんは彼氏とか いないの?」
人のいい社長夫人が何気なく聞く。
「出会いがないですから……」
苦笑いで答えると待ってました!とばかりに お見合い写真なるものを出してくる。
……毎度お約束の展開。
もう何も言わず出してきてもらってイイのに奥さんは このルーティンがないと写真が出せないらしい。
まぁイイけどね。私としてもありがたい。
自力で出会えない人間にとって、こ~ゆ~お節介おばちゃん的な存在は本当にありがたい。
なかなか成立しない私のために四方八方 手当たり次第お相手を探してきてくれる。
「今回はね、うちに来てる保険屋さんからの紹介でね。瞳ちゃんと同い年だから前回のように会話が 成り立たないってことは ないと思うわ!!」
前回……15歳上の少し前髪の寂しい人だった。
ああ、女も30すぎると こんなのしか残ってないのかと言い知れない思いをしたが、会話が何一つ噛み合わないことで向こうから断りが入れられた。
断られるということに更に落ち込んだことは奥さんには内緒。
「お写真あるから見てみて!!わりとイケメンだと思うわよ。大手にお勤めだし、掘り出し物よ!!」
年末バーゲンみたいな言い回しに苦笑いをしつつ渡された見合い写真を開く。
「成瀬 俊彰さん。東京から地元に異動してこられたそうよ」
成瀬……君?
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説


妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる