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本編
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「名誉のために言っておくが盗み聞きするために いる訳じゃないからな」
そう言ったのは本当に成瀬君なんだろうか……。
同じ顔をした別人なのでは?
いやむしろ、これは本当に同じ顔なの?
冷たい横顔、鋭利な刃物のような雰囲気、それのどれも今までの彼からは想像できなくて戸惑う。
「いつから知ってた?」
低い声にビクッとする。
「こ、この前の木曜日に社長の奥さんが教えてくれたの……」
「そんなに知りたかった?」
「ちがっ!!」
「斎藤は他の女とは違うと思ってたけどね」
残念だとでも言いたい口調にショックが大きすぎて反論も できない。
そんな私のことなんか見向きもせず、ロックグラスを煽る。
「病気になった。出世の道も閉ざされた。左遷された」
淡々と他人事のように事実だけを並べてゆく。
「暇だから見合いした。飲み歩くのに一人だと格好つかないから あんたを誘った。とくに好意はない。友達でもない。関係ない」
まるで あえて傷つけようとしてるみたいに冷たい言葉を吐く。
いや、本当に傷つけたいのかもしれない。
「俺は死ぬつもりもないし、悲観もしてない。だから君みたいなやつに同情される必要もない」
「……かったから」
絞り出すように声を出す。
「もう、分かったから……」
声が、手が震える。
その手で なんとか財布を取りだし、五千円札を置く。
「わ、私は、本当に、純粋に、あなたと、と、友達だと思ってたけどね」
一言だけ告げると逃げるように席を立った。
あの優しく微笑む彼が。
いつも素敵な気遣いで居心地を良くしてくれた彼が。
別人のように変わった。
別人?
本当に?
あれが本来の彼なんじゃないの?
中学時代ですら まんぞくに会話なんて したことなかった。
今だって『本当の成瀬くん』を見せてもらってた訳じゃなかった。
なんの目的で私と一緒にいたのか分からな……いえ、ただの暇潰しだったわね。
やけに すとんと納得できる結論。
コツコツとヒールを響かせながら駅へと向かう。
そうよね。
私みたいな平凡女と一緒にいる意味なんて、そのくらいしか ないわよね。
コツコツコツ。
私だって、あんなイケメンはべらせて気分良かったんだから おあいこね。
コツコツコツ……。
でも。
楽しかったわ……。
涙が頬を伝った。
焼けるように熱く頬を濡らし、伝ってゆく。
でも。
好きだったわ……。
例えそれが偽りの姿だったとしても、私は成瀬くんが好きだったわ。
涙は止めどなく流れブラウスを濡らしてゆく。
成瀬くん……。
あの冷たい横顔ですら愛しいなんて、私は頭が おかしくなってしまったのかもね。
もう二度と会えないであろう面影を思って、いつまでも いつまでも泣きつづけた……
そう言ったのは本当に成瀬君なんだろうか……。
同じ顔をした別人なのでは?
いやむしろ、これは本当に同じ顔なの?
冷たい横顔、鋭利な刃物のような雰囲気、それのどれも今までの彼からは想像できなくて戸惑う。
「いつから知ってた?」
低い声にビクッとする。
「こ、この前の木曜日に社長の奥さんが教えてくれたの……」
「そんなに知りたかった?」
「ちがっ!!」
「斎藤は他の女とは違うと思ってたけどね」
残念だとでも言いたい口調にショックが大きすぎて反論も できない。
そんな私のことなんか見向きもせず、ロックグラスを煽る。
「病気になった。出世の道も閉ざされた。左遷された」
淡々と他人事のように事実だけを並べてゆく。
「暇だから見合いした。飲み歩くのに一人だと格好つかないから あんたを誘った。とくに好意はない。友達でもない。関係ない」
まるで あえて傷つけようとしてるみたいに冷たい言葉を吐く。
いや、本当に傷つけたいのかもしれない。
「俺は死ぬつもりもないし、悲観もしてない。だから君みたいなやつに同情される必要もない」
「……かったから」
絞り出すように声を出す。
「もう、分かったから……」
声が、手が震える。
その手で なんとか財布を取りだし、五千円札を置く。
「わ、私は、本当に、純粋に、あなたと、と、友達だと思ってたけどね」
一言だけ告げると逃げるように席を立った。
あの優しく微笑む彼が。
いつも素敵な気遣いで居心地を良くしてくれた彼が。
別人のように変わった。
別人?
本当に?
あれが本来の彼なんじゃないの?
中学時代ですら まんぞくに会話なんて したことなかった。
今だって『本当の成瀬くん』を見せてもらってた訳じゃなかった。
なんの目的で私と一緒にいたのか分からな……いえ、ただの暇潰しだったわね。
やけに すとんと納得できる結論。
コツコツとヒールを響かせながら駅へと向かう。
そうよね。
私みたいな平凡女と一緒にいる意味なんて、そのくらいしか ないわよね。
コツコツコツ。
私だって、あんなイケメンはべらせて気分良かったんだから おあいこね。
コツコツコツ……。
でも。
楽しかったわ……。
涙が頬を伝った。
焼けるように熱く頬を濡らし、伝ってゆく。
でも。
好きだったわ……。
例えそれが偽りの姿だったとしても、私は成瀬くんが好きだったわ。
涙は止めどなく流れブラウスを濡らしてゆく。
成瀬くん……。
あの冷たい横顔ですら愛しいなんて、私は頭が おかしくなってしまったのかもね。
もう二度と会えないであろう面影を思って、いつまでも いつまでも泣きつづけた……
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