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本編

No.8 恵vsモンスター

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なんで雑種なんているんだろう。
いや雑種が悪いわけじゃない。
ただ、この社長は たとえ慈善事業でも雑種の犬なんて絶対 飼わない気がする。
だからといって癒し系のチワワとか小型犬すらイメージではない。
もっと、こう……犬を飼うことすら実益になるような。
防犯を兼ねたドーベルマンを数匹 庭に離している、とかのが似合う。
 
じっと犬を見つめる。
よく手入れされているのか毛並みは艶々している。
 
が、なんだろ。
この隠しきれない下卑た感じは……。
 
その犬は、じっと見つめる私に気づいてないのかクンクンと自分の匂いを嗅ぎ、何かに気づいたようにニヤァァと笑った。
「!?」
保護魔法を忘れていたら思わず後退りしてしまいそうだった。
私の本能が こいつはヤバいと言っている。
「女性に手荒なことをするのは私の美学に反するが、いかんせん あなたは美しくない」
「はっ!?」
社長の言葉に真紀子さんが思わず聞き返す。
「不細工なガキに用はないって言ってんだよ!!」
とたん丁寧語が崩され、パチンと指を鳴らす。
「く、る」
恵くんが深く腰を落とした瞬間 床から ゆっくりと人型モンスターが現れた!!
「この部屋に こいつらを入れるのは好きじゃないんだが仕方ない」
「ぴきゅぅぅぅ!!」
一斉に飛びかかってきた。
「お、そい」

バシュッ!!

と血吹雪をあげながらモンスターが次々と倒されて行く。

バシュッ!!バシュッ!!

しかし相手は床から、壁から、天井から次々と現れては襲いかかってくる。
「さぁて、いつまでも もつかな?」
楽しげに社長が笑い、豪華な椅子に座る。
 
消耗戦……。
これは代わりがいない こちらが圧倒的に不利だ。
 
思わず元樹お兄ちゃんに目で訴える。
「大丈夫。僕たちは絶対 動かないことだけに集中しよう」
青ざめた顔で恵くんを見つめながら元樹お兄ちゃんが言った。
 
 
 
 
手足が異様に長いモンスター、小柄で俊足のモンスター、怪力自慢の巨大モンスター。
その一人一人を流れるように斬り倒してゆく恵くん。
「男にしとおくには惜しいほど可愛い顔をしてるな」
社長が呑気に呟く。
恵くんがモンスターから奪ったナイフを社長に投げつける。
が、それを指で摘まむように受け止め、逆に投げ返した。
恵くんに初めて傷がついた。
頬を一筋の赤い線が描かれ、血が溢れた。
「つ、強い……」
呟いた元樹お兄ちゃんの手が汗で湿っている。
 
勝てる気がしない。
 
実力差がありすぎる。
これで中ボスなら魔王なんて倒せる気がしない。
「もっと楽しませてくれると思ってたけど、勇者一行ってのは見たまんま お子ちゃま集団だな」
品も何もあったもんじゃない下卑た笑い。
「色~んな選択肢を考えてたけど、やっぱ結局こうなるんだなぁ」
社長は気取ったように長い足を組み直し、パチンと指を鳴らした。
頭が異様に小さく、なのに腹だけは どのモンスターより大きいヤツが現れた。
「新型モンスターだよ」
明らかに今まで違う風貌。
その異様さに他のモンスターが蜘蛛の子を散らすように消えていった。
「さっき出来上がったばかりの新作だよ。思いの外レベルが上がったみたいで簡単に作れて自分でもビックリしてるとこさ」
独り言のような囁きは私には聞き取れなかった。
「人を食べることだけをプログラミングしてある」
耳を疑うような発言が飛び出た。
「……人間を食べる?」
真紀子さんが怪訝そうに聞き返す。
「そう。それが こいつらの戦い方さ」
「なにっ!?」
「ああ、安心してくれ。俺の指示のあるものしか食わないよ。女まで食われたら たまったもんじゃないからな」
へらへら笑う社長。
 
ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい。
 
どうやって そんなモンスター作ったのか分からないけど、その思考がヤバすぎる。
「さぁて、誰から食べちゃおうかな?」
楽しそうに辺りを見渡す。
「たっくさん殺されちゃったからね、鎧の僕ちゃんにしようかな?」
社長が指を指すと、一人のモンスターの腹が割れ、大きな口からヨダレを滴ながら口を開ける。
ロックオンされた私たちは誰一人 身動きができなかった。
 
 
 
 


「誰が……恵の顔に傷をつけて良いと言ったの?」
ただ一人を除いて……。
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