上 下
3 / 30
プロローグ

遥(仮)絶望する。

しおりを挟む
「エジュリアル王国 第一王子であるフライツ・ア・エジュリアルはワトソン王国 第一王女ミレイユ・デ・ワトソンとの婚約を この場をもって解消いたします!!」
高らかに宣言をする、その姿さえ凛々しく美しいなんて なんて皮肉なのでしょう。
エジュリアル王国と我がワトソン王国は先祖代々 友好を結んできた仲ではあるが、血が濃くなることを恐れ王族同士の婚姻は何代かに一度と決められていた。
そしてワタクシ達は久方ぶりに王族間での婚約者となった。
そんな名誉ある立場にワタクシは もちろんフライツ様も誇りに思っていたはずなのに……。
 
一方的な婚約破棄なんて……。
 
こんな簡易的な所見の間で両国王陛下が立ち会いの元とはいえ行っていい行為ではない。
ワタクシは愛しいフライツ様に厳しい視線を向ける。
「貴族の婚姻は平民のそれとは訳が違います。フライツ様は、いえエジュリアル王国は、それを理解した上での…」
「エジュリアル国王も同意している」
ワタクシの言葉をさえぎるようにフライツ様が言った。
その不躾な行為に眉をひそめる。
 
ワタクシの愛したフライツ様は、このような方だったかしら……。
 
「ミレイユよ。これはワトソン王国 国王であるワシも承諾済みだ」
そう告げるお父様の横でエジュリアル国王が厳しい眼差しで頷く。
 
え……?
 
「い、ま…なんと?」
「まことに残念だが二人の婚約解消は両国の国王の同意の元に成立しておる。ゆえに これは事後報告であり、そなたに もの申す権利はない」
「お父様っ!?」
「……そなた、エマニュエル公爵令嬢に何をしたか覚えておるか?」
お父様の探るような口調に心臓が凍る。 
「な、なんのことでしょうか?」
ワタクシの言葉に深い ため息をつく。
「もうよい。分からぬのなら後で ゆっくり話して聞かせる。用は済んだ。さがりなさい」
「お父様っ!!」
「さがれと言っておる!!」
聞いたことのない恫喝に言葉を失う。
近衛兵に抱えられるように退室させられ、侍女に引き渡された。
 まるで罪人のように………。
 
 
 


 
 

 
 
のちに あの公爵令嬢とフライツ様が婚姻を結んだと風の噂で聞いたのは、王族ゆかりの修道院の小さな談話室だった。

何が いけなかったのだろう。
ワタクシはただ愛しいフライツ様に いやらしく近づく公爵令嬢を たしなめただけ。
立場や道理を話して聞かせただけ……。
 
お母様や乳母、執事たちから教えられた貴族としての 振る舞いや作法を教え説いてやっただけだ。
 
悔しい、口惜しい。
ワタクシの何が いけなかったと言うのだろう……。
 
毎夜まくらを濡らす涙は止まることを知らず、絶望の淵から這い上がることは できない。
軋んでゆく体、霞んでゆく視界、朽ちてゆく心……。
 
 
 
 




 
 
 
強い光に目が眩んだ瞬間、ワタクシは簡素なベッドの横で幼子の姿に なっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

うちの兄がヒロインすぎる

ふぇりちた
ファンタジー
ドラモンド伯爵家の次女ソフィアは、10歳の誕生日を迎えると共に、自身が転生者であることを知る。 乙女ゲーム『祈りの神子と誓いの聖騎士』に転生した彼女は、兄ノアがメインキャラの友人────つまり、モブキャラだと思い出す。 それもイベントに巻き込まれて、ストーリー序盤で退場する不憫な男だと。 大切な兄を守るため、一念発起して走り回るソフィアだが、周りの様子がどうもおかしい。 「はい、ソフィア。レオンがお花をくれたんだ。 直接渡せばいいのに。今度会ったら、お礼を言うんだよ」 「いや、お兄様。それは、お兄様宛のプレゼントだと思います」 「えっ僕に? そっか、てっきりソフィアにだと………でも僕、男なのに何でだろ」 「う〜ん、何ででしょうね。ほんとに」

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

転生幼女アイリスと虹の女神

紺野たくみ
ファンタジー
地球末期。パーソナルデータとなって仮想空間で暮らす人類を管理するAI、システム・イリスは、21世紀の女子高生アイドル『月宮アリス』及びニューヨークの営業ウーマン『イリス・マクギリス』としての前世の記憶を持っていた。地球が滅びた後、彼女は『虹の女神』に異世界転生へと誘われる。 エルレーン公国首都シ・イル・リリヤに豪商ラゼル家の一人娘として生まれたアイリスは虹の女神『スゥエ』のお気に入りで『先祖還り』と呼ばれる前世の記憶持ち。優しい父母、叔父エステリオ・アウル、妖精たちに守られている。 三歳の『魔力診』で保有魔力が規格外に大きいと判明。魔導師協会の長『漆黒の魔法使いカルナック』や『深緑のコマラパ』老師に見込まれる。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...