この恋に殉ずる

冷暖房完備

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並木 智恵子 目線

No.1 遭遇

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ああ、佳世。あんたの推理は当たったわ……。
 
まるで他人事のように思い、固まる。
クリスマスを目前に浮き足だつ恋人たちの群れ。
そこに かつての後輩が いた。
懐かしさで思わず声をかけたのが失敗だった。
 
そりゃクリスマスだもんね。独り身に慣れてて忘れてたわ。
 
あの おぼこい後輩が男連れ……感慨深い。
 
なんて、ホント他人事のように脳が動かない。
そんなアタシをよそに二人は地獄の門番にでも会ったような顔をしてる。
 
そんな顔したら全部 分かっちゃうじゃない。
 
普通にしてたら、アタシたちが別れた後で付き合い出したんだなぁって思えたのにと苦笑する。
瞬間、征二が神楽ちゃんを庇うように前へ出た。
 
何もしないわよ!!
この男、何年たってると思るんだ。
もう あんたなんて過去の人だわよ!!
 
「久しぶり」
少し警戒したように征二が言う。
「久しぶり。神楽ちゃんも久しぶりだね」
「あ、はい。ひ、久しぶりです」
ペコリと頭を下げる神楽ちゃん。
 
そんな申し訳なさそうな顔 しなくてイイのに。
 
征二から別れたいと言われた頃、神楽ちゃんの態度は普通だったと思う。
だから、征二の心変わりが原因であって この子のせいじゃない。
 
悪いのは この男!!この男ですから!!
 
そう思って にっこりと微笑む。
「寮 出てから会うの初めてじゃない?」
「あ、はい」
二年目くらいで寮を出た神楽ちゃんと本社勤務のアタシが会うことは ほぼなかった。
「タイの工場がスゴいって聞きました。さすが並木さんですね」
神楽ちゃんの退寮から少したってタイへ飛んだのも会えない理由の一つだったと思い出す。
「ありがとう。神楽ちゃんは会社 辞めたんだってね」
「あ、はい」
「結婚?」
何気なく聞くと二人が ぎくりと固まる。
 
その態度もう やめようよ~。
アタシが悪者みたいじゃん。
 
なんかムシャクシャするから、とりあえず征二の脇腹にパンチを入れる。
「ぐはっ!!」
「あ~スッキリした」
語尾にハートマークなんぞつけてみる。
「な、並木さん!?」
 
あ~、神楽ちゃん、涙目なっちゃったわ。
 
「ごめん ごめん。特に怒ってないから気にしないで」
「は、はい」
「殴っといて そりゃねぇだろ」
「あんたの態度には腹たててるけどね!!」
じろりと一睨みする。
 
そりゃ友達でもいいからって言ったのはアタシだけど、今だに惚れてると思われてるのが心外だわ!!
 
「あんたなんか もう これっぽっちも好きじゃないんだからね!!勘違いしないでよ!!」
ぷいっと そっぽむく。
「……そんなことは思ってねぇよ」
 
どうだかね。
 
まぁいいわ。
 
「アタシがいるから結婚前に会社 辞めたの?」
「あ、いえ……」
挙動不審な態度が物語る。
「誰 呼んでもアタシに行きついちゃうもんね」
「あ、いえ、その……」
「呼べばいいよ?アタシ達さえ黙ってたら何があったかなんて誰も分からないわよ」
「あ、でも式はするつもりは……」
「はぁ!?ちょっと征二!!あんた、そんな甲斐性もないの!?」
「あ!!違うんです!!私が やりたくないって言ったんです!!」
征二に殴りかかろうとすると、慌てて間に入ってきた。
「そうなの?でも一生に一度のことだから よく話し合って決めなよ」
「はい」
「て、アタシは お母さんか!!」
「お前が勝手に考えすぎてるだけだろ」
「あんたが言うな!!」
「ちゃ、ちゃんと考えますから!!で、でも誰か呼ぶとか考えたことなかったので……」
「あ、うん。無理に呼ぶ必要ないわよ。アタシこそゴメンね。なんか熱くなっちゃったわ」
「あ、いえ。ありがとうございます」
「元気そうで良かったわ。アタシが言うのも なんだけど神楽ちゃん おめでとう。お幸せにね」
そう言って、微笑んで別れた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
うまく笑えたかしら。
不自然じゃなかったかな?
 
泣きそうな気持ちを抱えて、アタシは足早に街路樹に紛れていった。
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