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接近ちゅ
No.11 私の過去
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真っ暗な道をテールランプが赤く続いている。
なんとなく気まずくて新垣さんと会話ができない。
鏡越しに映る横顔を盗み見る。
無表情な その顔から何を考えているかは計り知れなかった。
車が門の前で停まる。
「お疲れさん」
新垣さんからの一言。
「…新垣さん、ちょっとウチに寄ってください」
「はっ?」
「コーヒー出しますから」
「…コーヒーはいらんが、こんな時間まで外出させたんだから一応 親御さんに挨拶するのは礼儀だよな」
そう言うと車を路肩に停めた。
カンカンカンと安っぽい音を立てながら階段を上がる。
二回の奥が私の家だ。
鍵を差し込み、ガチャリとドアを開けた。
「どうぞ…」
ドアノブを持ったまま、中に入るように片手をスッと動かした。
「ん?玄関先でイイぞ…」
長身を屈めて顔だけ中に入れて、動きを止めた。
「…え?」
「立ち話もなんですから、中に入ってください」
「え?あ、でも…」
「大丈夫!!新垣さんのこと信用してますから!!」
わざと明るく言って新垣さんの背中を押した。
キッチンでインスタントコーヒーを作り、ダイニングテーブルにいる新垣さんに渡す。
「熱いですよ」
「あ、ああ…」
なんだか挙動不審な新垣さんに吹き出す。
「あははは」
「笑うな!!」
「だって新垣さんから見たら私なんて女じゃないでしょ?」
「だからってな、視界にベットがある密室で二人きりってのは問題あるだろ!!」
「女じゃないってのは否定しないんですね~」
笑いながら、新垣さんの横を通り抜け天井から吊るされているカーテンを引いた。
1DKのアパート。
それが私の住み家だ。
玄関を入ってすぐにキッチンがあり、二人掛けのダイニングテーブルと小さな食器棚、その向こうにトイレと続きのユニットバスがある。
先程から新垣さんがチラチラと気にしていたベットはカーテンで見えなくなったが、6畳のフローリングには小さなタンスと学習机、ベットがあるだけだ。
「新垣さん…私も同じです」
「何が?」
「私も中学まで施設で育ちました」
「!?」
「母親は私を産んですぐ亡くなったそうで、1人では育てられないと施設に入れたそうです。その後 父が再婚をした相手は私まで必要ではなかったみたいで…」
一緒に暮らせるように何度も話し合いをしたとは言われたが、本当にしたかは分からない。
「中学卒業したら働こうと思ってたんですが、父が高校だけは出ないとダメだって、でも施設は15歳までだったので ここを探してくれました」
なんとか学費と家賃は払ってもらえたけど、それ以上は出せないと申し訳なさそうに言われた。
「一緒には、住んでくれなかったのか?」
「向こうにはもう弟も妹も産まれているので…」
「そうか…」
きっと弟がいなくても一緒には暮らせなかったと思う。
「よく……頑張ってきたな」
そう言うと新垣さんはコーヒーを飲んだ。
「俺が預けられたのは産まれてすぐだ」
カップを見つめながら新垣さんが語り始めた。
「普通に両親は揃っていた。どちらかが重い病気ということもなく、生活に困ってるわけでもないらしい」
「…何もなく、預けれるものなんですか?」
「何だかんだと理由をつけて無理矢理預けたんだろ?」
ハッと自虐的に笑う。
それは、いつもの新垣さんのようで新垣さんではない笑みだった。
「俺は高校には行かせてもらえなかった。俺が施設を出る時も迎えには来なかったよ。向こうの居場所なんて当然 教えてはもらえない。それどころか住むとこもなくて、少しの間だけでイイからと頼み込んで施設の責任者の所に一年ほどいたかな」
それからバイトをしながら勉強して大検で大学に入ったそうだ。
「ガムシャラだった。見返してやりたいと必死になって、気づけば こんな嫌味な性格のオッサンになってたよ」
そう言って私を見た新垣さんは泣き出しそうな顔をしていた。
なんとなく気まずくて新垣さんと会話ができない。
鏡越しに映る横顔を盗み見る。
無表情な その顔から何を考えているかは計り知れなかった。
車が門の前で停まる。
「お疲れさん」
新垣さんからの一言。
「…新垣さん、ちょっとウチに寄ってください」
「はっ?」
「コーヒー出しますから」
「…コーヒーはいらんが、こんな時間まで外出させたんだから一応 親御さんに挨拶するのは礼儀だよな」
そう言うと車を路肩に停めた。
カンカンカンと安っぽい音を立てながら階段を上がる。
二回の奥が私の家だ。
鍵を差し込み、ガチャリとドアを開けた。
「どうぞ…」
ドアノブを持ったまま、中に入るように片手をスッと動かした。
「ん?玄関先でイイぞ…」
長身を屈めて顔だけ中に入れて、動きを止めた。
「…え?」
「立ち話もなんですから、中に入ってください」
「え?あ、でも…」
「大丈夫!!新垣さんのこと信用してますから!!」
わざと明るく言って新垣さんの背中を押した。
キッチンでインスタントコーヒーを作り、ダイニングテーブルにいる新垣さんに渡す。
「熱いですよ」
「あ、ああ…」
なんだか挙動不審な新垣さんに吹き出す。
「あははは」
「笑うな!!」
「だって新垣さんから見たら私なんて女じゃないでしょ?」
「だからってな、視界にベットがある密室で二人きりってのは問題あるだろ!!」
「女じゃないってのは否定しないんですね~」
笑いながら、新垣さんの横を通り抜け天井から吊るされているカーテンを引いた。
1DKのアパート。
それが私の住み家だ。
玄関を入ってすぐにキッチンがあり、二人掛けのダイニングテーブルと小さな食器棚、その向こうにトイレと続きのユニットバスがある。
先程から新垣さんがチラチラと気にしていたベットはカーテンで見えなくなったが、6畳のフローリングには小さなタンスと学習机、ベットがあるだけだ。
「新垣さん…私も同じです」
「何が?」
「私も中学まで施設で育ちました」
「!?」
「母親は私を産んですぐ亡くなったそうで、1人では育てられないと施設に入れたそうです。その後 父が再婚をした相手は私まで必要ではなかったみたいで…」
一緒に暮らせるように何度も話し合いをしたとは言われたが、本当にしたかは分からない。
「中学卒業したら働こうと思ってたんですが、父が高校だけは出ないとダメだって、でも施設は15歳までだったので ここを探してくれました」
なんとか学費と家賃は払ってもらえたけど、それ以上は出せないと申し訳なさそうに言われた。
「一緒には、住んでくれなかったのか?」
「向こうにはもう弟も妹も産まれているので…」
「そうか…」
きっと弟がいなくても一緒には暮らせなかったと思う。
「よく……頑張ってきたな」
そう言うと新垣さんはコーヒーを飲んだ。
「俺が預けられたのは産まれてすぐだ」
カップを見つめながら新垣さんが語り始めた。
「普通に両親は揃っていた。どちらかが重い病気ということもなく、生活に困ってるわけでもないらしい」
「…何もなく、預けれるものなんですか?」
「何だかんだと理由をつけて無理矢理預けたんだろ?」
ハッと自虐的に笑う。
それは、いつもの新垣さんのようで新垣さんではない笑みだった。
「俺は高校には行かせてもらえなかった。俺が施設を出る時も迎えには来なかったよ。向こうの居場所なんて当然 教えてはもらえない。それどころか住むとこもなくて、少しの間だけでイイからと頼み込んで施設の責任者の所に一年ほどいたかな」
それからバイトをしながら勉強して大検で大学に入ったそうだ。
「ガムシャラだった。見返してやりたいと必死になって、気づけば こんな嫌味な性格のオッサンになってたよ」
そう言って私を見た新垣さんは泣き出しそうな顔をしていた。
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