この恋に殉ずる

冷暖房完備

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接近ちゅ

No.8 不機嫌な訳

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征二?

「辰吉、さん…?」

え?

「おお!!やっぱり征二か!!」
辰吉さんは新垣さんに駆け寄るとガシッとハグした。

え、え~!? 

夏樹と顔を見合わせる。
「お前変わったな!!一瞬 誰か分かんなかったぞ!!」
「…俺も誰か分かんなかったですけどね」

そ、それは太ったからですか~(泣)
ど、毒出てますよ~(泣)

でも言われた辰吉さんは、さして気にしてないようでガハハと笑った。
「噂の上司が征二とはなぁ!!世間は狭いな~!!」
「噂の…?」

ギャー!!ギロリと睨まれた~(泣)
辰吉さん!!お口にチャック~!!
なんだか とっても仲良さげな二人に頭がついていきませ~ん!!



「たっつん!!どういう事か説明してよ!!」
先に我に返った夏樹が辰吉さんに詰め寄る。
「ん?ああ!!昔の連れだ」

昔の連れ!!
簡潔すぎるだろ~!!

「神楽、時間はいいのか?」
新垣さんに言われて携帯を見る。

やば!!かなり休憩してた!!

「仕事戻ります!!二人ともまたね!!」
夏樹に後でメールしてと目で訴えて、軽く頷くのを確認すると厨房に戻った。



フライヤーでトンカツを揚げながら、さっきのやり取りを思い出す。

…新垣さんと辰吉さんが知り合いだったとは!!
なんて偶然!!
これって運命!?
もしかしたらダブルデートなるものが実現するかも!!

なぁんて ほくそ笑んでいたら、新垣さんがフロアに戻ってきていた。
私は急いで揚げたてのトンカツを皿に盛り、新垣さんに声をかけた。
「もう、話は終わったんですか?」
「ん?ああ…」
新垣さんにしては珍しく言葉を濁した。

ん?

「無駄口たたいてないで仕事しろよ」
素っ気なくそう言うと目も合わせずに去っていった。
「………」
言い様のない不安が胸の中に広がっていった…。







『ねえ!!さっき皆で何話してたの!?』
居ても立ってもいられずトイレに駆け込んで夏樹にメールを打った。

彼女がいてもいい!!
子供だって相手にされなくてもいい!!
この恋が実らなくてもいい!!
あんな風に拒絶されるくらいなら何もいらない!!

震える手で携帯を掴んで夏樹の返事を待つ。
ブルブルと小刻みに揺れ、返信がきた。
『別に普通の話だよ。たっつんと昔話してたようだけどアタシは関係ないからゲームしてたし』
『ほんとに!?新垣さんの雰囲気がいつもと違うんだよ(泣)私のこと何か言ってなかった?』
『何にも言ってないってさ』
夏樹たちが嘘をつく理由なんてない。
私が知らない間に新垣さんに嫌われていたんだ。
泣きそうになる目をギュッとつぶって、仕事だと気持ちを切り替えた。
ここで信頼まで失うわけにはいかない。
そう思ったから…。








二日続いた新垣さんの遅番シフト。

…今日お昼どうするのかな。

そう思いながら作った新垣さんのお弁当。
まともに会話すら出来ない状況に眠れなかった。
それでも お弁当をきっかけに元通りになるかなと思って新垣さんの出社を待つ。
軽く深呼吸をしていると、新垣さんが来た。
「お、おはようございます」
「おはよう」
目も合わせずに目の前を通りすぎていく。
プチン!!
何かが切れた!!
「新垣さん!!」
駆け寄って腕を掴む。
ええ、そりゃもう爪が食い込むくらいにね!!
「少しお時間ください」
低く言うと有無を言わせずバックヤードに連れ込む。
「私が何かしたのなら言ってください!!」
「別に何もしてない」
「なら、ちゃんと目を見て言ってください!!」
この中途半端が一番胃にくる!!
「新垣さん!!」
腕を掴む手に力がこもる。

チビだからって舐めるなよ!!
こちとら握力32だ!!

苦痛に顔を歪めながら、新垣さんがボソッと言った。
「お前こそ何聞いたか言ってみろ」
「はっ!?」
「辰吉さんから何か聞いてるだろ?」
「何をですか!?辰吉さんどころか夏樹からだって何も聞いてないですよ!!」
「ほんとか?」
「嘘つくような事じゃないですよ!!」
私の目をジッと見てきた。
私は凄むように睨んだ。



「分かった。悪かった。俺の勘違い」
そう言って腕を離せとばかりに振り払われた。
「何がですか!!」

何を分かったか知らないけど、こっちは不完全燃焼じゃ!!

「……だよ」
「はぁ!?」

聞こえない!!

「辰吉さんから子供の時の話を聞いたのかと思ったんだよ!!」
とたんに いつも新垣さんになった。
逆ギレもいいとこの言いぐさに安心するのも おかしいけど、涙が出そうだった。
「そんなの別に聞いてもいいじゃないですか!!」
「聞いたのか!?」
「聞いてないよ!!」

そんな くだらん理由で私は振り回されて泣いたのか!?

て言うか、そんだけ隠したい子供時代って どんなんだ!!
ジャイアンか!!
て、今も変わってね~じゃん!!
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