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冷暖房完備

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5月 五月病

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憧れの学ランに袖を通した時は あんなに胸がドキドキして やる気に溢れていたのにな~。
と、ぼんやりと思い出す。

目の前にはテレビゲーム、手元にはスマホ。
んで、今やってんのはパソコンのオンラインゲーム。
欲しいものは何でも手に入れてきた。
一人っ子ゆえに甘やかされている自覚もある。
それの何が悪いの?て、感じだ。
くれるって言うのに もらわないバカはいないっしょ?
でもさすがに ここまでくると消去法で 欲しいモノより いらないモノのが気になり出す。

そして今 、最たる いらないモノが『学校』だ。

ドキドキわくわくの初日にクラスの違う悪友が放課のたびに遊びに来るから、必然的に俺にはクラスに友達が出来なかった。
ムカつく事に悪友は、ちゃっかりクラスで友達どころか彼女まで作りやがった!!

それに気づいた時、一気に何もかもが嫌になったのは仕方のない事だ。

共働きの母親が異変に気づいたのは俺が学校を休みだした3日後だった。
さすがに学校も父親(のマネをした俺)からの電話に不信感を持ったらしく、母親の携帯にかけたようだ。
時は奇しくも5月。
これが噂の五月病かと母親は嘆いたが、俺としては そんなつもりは毛頭ない。
が、そういう事にしといた。

だって、楽だからww

案の定、母親は親父に内緒で、
「気のすむまで休みなさい」
と言ってくれた。
どうせ義務教育だ。
しかも素敵なゆとり世代。
生徒より学校のが多いんだから、高校も何とかなるだろう。
無理でも最悪じぃちゃんの会社に入れてもらえばイイ。
…二十歳くらいで入社すれば体面も保たれる。
なぁんて のんびり構えてたのに誤算が一つだけあった。

諸悪の根源、悪友のあつしだ。

何をとち狂ったのか、俺が学校に来ないのは自分のせいだと責任を感じて毎朝来る!!
学校帰りにも来る!!
ほんとウゼ~!!
確かに こうなったのは、お前のせいだよ?
でもある意味お前のおかげでもある。
引きこもりバンザイ!!
もうさ、ホント放っといてくれよ(泣)

「こんばんは~!!直紀なおきくんいますか~?」
…俺んちに俺がいない訳ないだろう?
開口一発目からドッと疲れる。
「篤くん、よく来てくれたわね~」
と、母親は救いの神よろしく篤を二階に誘導する。
…もう、怒る気も失せたね。
「直紀、これ今日の宿題とプリント」
どうせ学校行かね~んだから資源の無駄じゃね?
一瞥すると、篤は手に持っているものを勉強机へテキトーに置く。
そして、
「そろそろ学校に来いよ」

…始まった…。

中学が いかに楽しい所か。
部活が いかに面白いか。
そして、彼女がいかに素晴らしい存在か!!
…て、そこ いらんくね?
辟易している俺に気づかず話は彼女の可愛らしさに飛んでいく。
いやむしろ こっちが本題か!?てくらい毎日ノロケを聞かされている!!

ふざけんな!!

さすがに気の長い俺様でもいい加減 頭にくる。
が、ここで感情のままに怒り狂ってはモテない男の醜い嫉妬だと勘違いされてしまう。

それだけは断固否定したい!!
俺は別にモテない訳じゃないからな!!

「篤、お前そんなガキみたいな女のどこがいいんだ?」
と見下すように言ってやる。
「はっ!?」
聞き捨てならないと感情を表す。
「奈々はクラスで一番可愛いんだぞ!!皆に羨ましかられてんだからな!!」

…クラスでって、立ち位置 微妙だなww

俺は、ポンッとキーボードを鳴らしカタカタとある人物を表示する。
「俺の女」
「はぁ?」
画面に映し出されたのは茶髪にピアスを4つずつ付けたアイドル顔負けの美少女だ。
「嘘つけ!!だって、お前は…」

引きこもりだから?
コイツあほだなww

「今は家に居ながら買い物だって彼女だって出来る時代なんだぜ?」
ポンッとカーソルを合わせると、動画が作動した。
『あ、あ、あ…。直紀くん…』
上気したエロい顔と甘い声が映し出される。
恥ずかしいから嫌だと言われたから、まだリアルタイムでは見せてもらってないが 何をしてるかはバカなコイツでも分かるだろう。
「え?ええ!?」
顔を真っ赤にして動揺している。
「確かに俺は学校に行ってない。だが、通信教育でちゃんと勉強はしている。好きな時にゲームをし飯を食い、彼女とエロい事もする」
画面には、幼い顔に不似合いな裸体が映し出されている。
「お、おい!!これオレが見てもイイのか!?」

激しい狼狽えぶりだなww
さてはまだ童貞か?
て、俺もだがな。

「ああ、そうだったな」
さも今気づきましたって感じでポンッと画面を消す。

まあ、この女は見せたがりだから平気だろうがな。

と、明らかにガッカリしたようなため息が聞こえた。
「お前スマホくらい持ったらどうだ?」
「け、けど…金が」
「ネットで探せば1万くらいでイイのが買える。んで無料アプリを取れば電話も何もかもタダになるから親の負担は少ないぞ?」

無知は罪だ。
アホみたいに正規の値段で買う必要はない。

「とりあえず、PC貸してやるから、ちょっと ここのサイトで女拾ってみろ」
「ええ!?」
「今から二時間以内にモノにできたら毎日お前のためにPCを貸してやるから」

リア充のお手並み拝見させてもらうぞ?



で、どうなったかって?
さすがリア充と称賛の5股。
そんな篤を尻目に俺は相変わらず学校には行かず、好きな時にゲームして、飯食って、寝て、起きて…。




まぁ、前と違う事があるとしたら篤も学校には行ってないって事かな……。
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