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第5章
第107話 彩る
しおりを挟む「馬鹿は風邪ひかないって言葉は私のためにあるようなものだったからね。」
「全く、そんな口を叩けるのは元気になった証拠ね。
最近までの菜都を見てると、なぜかあの子のことを思い出したわ。」
「あの子?」
「あなたには話したことがあったわね。流産したあなたのお姉さんのことよ。」
「なんで最近の私を見てると思い出すの?」
「菜都は顔も性格もお父さん似だけど・・・最近のあなたは昔の私を見ているようだったわ。だからお姉さんが生まれてたらこんな感じだったのかもって思っちゃって。お父さんとそんな会話してたら余計に思い出して夢にまで出てきたわ。」
「私の性格がお母さんに似てきたって言いたいの~?私こんなにせかせかしてないし。」
「はいはい、今まで穏やかだった菜都が夢のようね。」
菜都はツーンとそっぽを向いた。
「ちょっと外の風に当たってきても良い~?」
「病み上がりなんだからやめなさい!」
「ちぇーッ。」
渋々とリビングを出て自分の部屋・・・へは行かずに玄関で靴を履いていた。
(ふーんだ!これ以上大人しくしてたら逆に熱が出るわ!)
見えない母に向かって”あっかんべー”しながら外へ出ると、大翔が帰ってきた。
「お姉ちゃんお帰りー!」
「おー大翔、ただい・・・まー?あれ?」
大翔はそのまま家の中へと入って行く。
「いやいや、逆でしょ。」
菜都は一人でツッコミながら笑い、そのまま公園の近くにある広場へと向かった。
その広場にはコンクリートで作られた高い階段があり、階段の上も広々としたコンクリートの広場になっている。
「ふぅー!!」
冷たいコンクリートに寝そべり、大きく息をつく。
仰向けのまま空を見ていた。
・・・ずっとずっと見上げていた。
どれだけ時間が経ったか分からなかったが、誰かが階段を駆け上がる音がした。
(せっかく静かだったのに・・・。)
起き上がって出て行こうかと考えたその時、聞き覚えのある声がした。
「菜都!!探したよー!!!お母さんから電話もらったんだから。」
菜都はムクッと起き上がり、その子の顔をジーッと見つめる。
「香織?」
「なによ?」
「香織だー!久しぶり!!」
「久しぶり?・・・ってこの土日に会ってなかっただけじゃないの!」
「そっか、そうだよね。ハハッなんか1日中寝てたから久しぶりに思えて。」
菜都は口を大きく開けて無邪気に笑う。
香織は驚いた顔で目を見開き、菜都のほっぺを両手で包んだ。
「アンタ・・・菜都だよね?」
そのまま頬をギュッと挟まれ、口がヒヨコのようにとんがった。
「うっ・・・なにするのさ!」
「あ、いや、なんか昔の”オトコ女”って呼ばれてやんちゃ坊主だった頃の菜都を思い出して・・・。最近は大人びたと思ったけどやっぱり幼稚だわ。」
「は、はぁー?すっごく失礼!!!」
「ふふふっ!こんな感じのやり取り、すごく久しぶり。手ごたえ有るわ~。」
すごく嬉しそうに笑う香織を見ると、菜都は呆れて言い返すのを辞めた。
代わりに精一杯の変顔を向けてやった。
香織は笑うことなく冷ややかな目で見つめ、スルーした。
変顔を引っ込めるタイミングを逃した菜都は、咳き込んで誤魔化す。
「ところで何で携帯も持たずに出てきたの?風邪引いてたんでしょ?」
「携帯・・・?あぁそういえば携帯の存在を忘れてた。家に置いたままだと思う。充電もあるか分からないし。」
「不携帯電話ね・・・それと何でこんな所にいるの?公園探したじゃん。」
「なんで公園?あの公園は嫌いだよ・・・って、あれ?最近もよく公園に行ってたね!なんでだろ、ウッ・・・急にまた拒否反応が・・・。」
菜都はわざと心臓を押さえて苦しむフリをしながら答えた。
(そうだ、ついこの間も公園に行った。最近は公園も怖くなく平気だった。
でもやっぱり今は公園に行ける気分じゃない。)
「まったく・・・琉偉とお兄さんも菜都を探し回ってる。電話しとくわ。」
「あ、ごめんね。ありがとう。」
香織が琉偉に電話をかけている最中、菜都は自動販売機に向かって歩き始めた。
喉が渇いて、炭酸を一気に飲み干したい気分だった。
きっと心までスッキリするだろう、そう思った。
菜都はコーラを2本買って、香織の元へと戻っていく。
「琉偉とお兄さん、こっち来るって言ってたけど断ったよ。病み上がりだから早く帰った方が良いと思うし。・・・それ、誰のコーラ?」
香織の話を最後まで聞いたあと、菜都はコーラを1本渡した。
「あ、お金・・・。」
「いいよー、見つけてくれたお礼!」
そう言って菜都は自分のコーラのキャップを開ける。
「え?それ菜都が飲むの?」
「うん?喉渇いたから。」
「・・・菜都が炭酸飲んでるのすごく久しぶりに見た。あんた影で”りんごジュースの子”って呼ばれてるくらいだったし。」
「ぷっ何それ!そういえば私達って昔は”アイスの人”って知らない人にも呼ばれてたよね~。次は”りんごジュースの子”って・・・相変わらずそのまんまのあだ名を付けられてたのね。」
「懐かしい~!!真冬でも毎日アイス食べてたもんね!」
「通りすがりのおばあさんとか、すごい顔で私達を見てた~。」
「だねだね、陽太も私達に釣られて真冬に買って後悔してたよね。面白い顔で『さびぃから食べれない』とか言ってさ~!!」
「あー、あの絶妙な顔ッ!忘れられないねぇ~。」
なんだろう、
香織とこんな風に話すのがとても久しぶりに感じる。
こんなに気の合う友達、香織以外にいない、改めてそう思った。
「あ、菜都!!お腹壊したらいけないからコーラ一気飲みはナシよ!!」
「う、うん・・・3口で喉やられた・・・。」
「おばか。・・・ねえ、琉偉と別れたの?」
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