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第3章
第69話 直面
しおりを挟む遂に待ちに待った土曜日がやってきた。
菜都は父親と一緒に携帯ショップへと足を運び、念願の携帯電話を買ってもらった。
事前に予約をしていて昼過ぎから行っていたが手続きには時間がかかり、携帯ショップを出る頃にはあっという間に夕方になっていた。
「話長すぎ~。」
「そんなもんだよ。」
退屈そうにしていた菜都を見て、父親は微笑む。
菜都は父親と一緒に家には帰らず、そのまま香織の家に向かった。
香織の家は携帯ショップから徒歩3分ほどの近い距離だ。
「ジャジャーン!携帯電話、買ってもらったよ~!」
香織が玄関の扉を開くと、とても嬉しそうに報告する。
「わっ!可愛い携帯だねぇ。」
「ありがとう!香織の携帯番号は覚えてたんだけど、その・・・登録方法とか、使い方、教えてくれないかな?機械音痴だからよく分からなくて・・・。」
これ以上ショップで長話をしたくなかったという理由もあった。
香織は「そうそう、機械音痴だよね~」と大笑いしながらも快く引き受けてくれた。
香織の部屋に入り、使い方を教えてもらいながら家族・香織・琉偉・陽太、そして琉緒など、覚えている連絡先を登録した。
「あれ?近藤君の連絡先は登録しないの?」
何気なく投げられた問いに、菜都はバツが悪そうに答える。
「あー、私知らなくて・・・。そもそも全然会ってないし。近藤君の噂は耳に入って来るけどね・・・。」
怪我をして入院してい近藤君は、既に退院してサッカー部に復帰している。
「そうだったの?前はすごく仲良かったのに・・・確かに全く話さなくなったもんねぇ。何かあったの?」
菜都は香織に、本当は全て打ち明けたかった。
別に隠したいわけでは無いし、香織なら信じてくれると思った。
でも何からどう説明すればいいのか分からなかった。
口に出して思いを伝えるのは意外と難しい・・・。
それに大好きな香織に”自分が本当の菜都ではない”と知られたくない気持ちも少しだけあった・・・。
話すことが出来ず黙り込んでしまっていると、香織はさりげなく話題を変えてくれた。
「さてさて、初の電話は誰にかけるのかな~?」
「えー!練習がてら香織にかけてみてもいい?」
「電話するのに”練習”って何よ。」
菜都の返答に呆れて拍子抜けする。
「練習は練習だよ!それに電話ってなんだか声が違うじゃん?自分がどんな声なのか、ちょうど香織で試せるし・・・。」
「もー!おかしなこと言ってないで早く琉偉に電話しなよ。琉偉の体調だって気になってるんでしょう?」
「うー・・・。昨日の夜も琉偉の家に電話してみたんだけどお母さんが出てさ・・・部屋から全然出てこないみたい。調子悪そうなのに電話していいのかなぁ?もし寝てて起こしちゃったらどうしよう?」
「まったく菜都らしくないわね。本人が出れなかったら出ない!それは仕方ない!・・・それでも着信履歴を残してたら、元気になった時に折り返し連絡くれるんじゃない?」
菜都は「そっか!そういうものなのね!」と言って早速電話をかけてみる・・・が、やはり琉偉は電話に出なかった。
それから暫くの間、香織の家にいたが折り返し電話がかかってくることもなく、時間だけが過ぎていった。
香織と話していると本当に時間が経つのが早い。
もう時間も遅くなってきたので菜都は帰る事にした。
玄関で靴を履いていると、香織がソワソワ落ち着かない様子で携帯電話と菜都を交互に見て、再び携帯電話と睨めっこしていた。
「どうしたの?」
少し心配しながら尋ねると香織は不安そうに答える。
「前に琉偉から”菜都を一人で帰すな”ってしつこいくらい言われてて・・・私が家まで送ってあげたいんだけど、私も近藤君が刺されたあの事件のせいで”一人になるな”って同じように言われてるから、どうしようかと・・・。」
琉偉が香織にそんなお願いをしていたことにも驚いたが、襲われる怖さを一番知っている香織に心配かけたことを申し訳なく思い反省した。
「私こそ何も考えず遅い時間に来ちゃってごめんね。琉偉が心配するのも分かるけど、私はもう携帯電話を持ってるから!大丈夫だよ!」
菜都は携帯電話を操作すると、「ほら!」と言って画面を見せた。
画面には110と押された状態で、1つボタンを押すとすぐに発信される。
それでも香織が戸惑っていたので、菜都は心配かけないように笑顔で手を振ってそそくさと玄関を出て行く。
もちろん、安心させるためだけに操作した携帯電話はホーム画面に戻している。
(間違えて本当に押しちゃったらいけないしね。)
外は真っ暗でとても静かだった。
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