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第2章
第37話 暁闇
しおりを挟む*-*菜都 side story*-*
昨晩は早い時間から眠りについていたのに目覚めが悪い。
それ以外はいつも通りの朝の始まりだと思った。
(怖い夢を見た気がする・・・気分が悪いわ。)
パンをかじりながら、つけっぱなしのテレビニュースに目を向ける。
「昨日の夜に香織ちゃんから電話があったんだけど、何回呼んでも起きなかったから切らせてもらったわ。ちゃんとかけ直してね。」
台所に立つ母が、思いついたように話かける。
「え?何だろう?一緒に学校行くからすぐに会うけど・・・。」
「様子がおかしかったから体調が悪いのかも。大丈夫か聞いたんだけどね・・・もしかしたらお休みの連絡じゃないかしら?」
香織は少し時間にルーズなので、約束の時間が過ぎれば菜都は先に学校へ向かう。
そのため、前もって休む連絡が来たのだとは思えなかった。
菜都は嫌な予感がして、食べかけのパンを置き慌てて香織の自宅に電話をかける。
~~~♪♪
「もしもし。」
数回コールが鳴った後、電話に出たのは香織本人だった。
(声のトーンが低い。どうしたんだろう?)
「おはよう!土田さんだよー。昨日は寝落ちして電話かけ直すことができなかった・・・ごめんね。何かあった?」
「・・・菜都っ!近藤君が・・・。」
「ん?」
「・・・突然刺されたの。」
「え!?」
思いもよらない一言に、菜都は受話器を握りしめる。
それと同時に、テレビでは通り魔のニュースが流れていた。
”被害にあった男子中学生は意識不明の重体。刺した男性は現場から刃物を持って逃走しています。30代後半から40代前半とみられ---”
「意識不明の重体・・・?今ニュースでしてるやつ・・・?香織は大丈夫なの?」
「すごく危険な状況だったんだけど一命をとりとめたって。覚悟していたよりも大丈夫そう。私も落ち着いたし怪我もしてないよ。」
淡々と話す香織は言葉の通りとても落ち着いた様子に思える。
香織の無事を確認すると菜都は安心してその場に座り込んだ。
「びっくりしたよ・・・そんな大変な事があったのになにも知らなくて・・・力になれてなくてごめん・・・。」
「私も気が動転してたけど、近藤君の無事を確認できてからやっと落ち着けたの。犯人は分からないけど、今思えば最初私を狙ってきたような気がする。私のせいで怪我したのかも・・・。それにいつ目を覚ますんだろう・・・サッカー、続けられるよね・・・?」
「香織のせいじゃない!どう考えても犯人のせいだよ!
それに近藤君は誰に何を言われても絶対サッカーを諦めないから!絶対に!!」
時折弱音を吐く香織を励ましながら、学校に行く時間になったため電話を切る。
香織は事情聴取も終わりカウンセリングをられていたそうだ。
そして、一睡もできていないこともあり今日は1日休むそうだ。
「香織ちゃん大丈夫だった?今さっきニュースでしてたんだけど近所で通り魔事件があったみたい。犯人は捕まってないから今日は車で送るわ。」
「あ・・・うん、大丈夫そう。ありがとう。」
母のおかげで車で行く事になり、いつもより少し遅く家を出た。
学校に着くまでの間、小学校や中学校の先生、保護者などが至る所に立っていて見守りを強化しているように見えた。
「送ってくれてありがとう、帰りは友達と帰るからいいよ。気を付けて帰ってね。」
「今日はまっすぐ帰りなさい。じゃあいってらっしゃい。」
菜都は母に向かって手を振り、下駄箱へ向かう。
登校してくる見知らぬ人たちも通り魔の噂で持ち切りだった。
授業が始まる前に、急遽体育館で全校集会が行われた。
校長による、通り魔事件についての注意だった。
生徒たちは落ち着かない様子でざわついている。
教室に戻ると他のクラスの女子5人が菜都の元へやって来て廊下へと呼び出す。
「近藤君は休み?」
彼女達は去年から近藤君のファンクラブを名乗り、よく教室やサッカー部に顔を出している。
「え?どうだろー・・・2年の教室行ってないし分からない。」
「近藤君の噂があることないこと言われてると思うの。どう思う?」
「噂って?」
「本当に何も知らない?昨晩入院したらしいけど。そのせいで”通り魔に刺されたのは近藤君じゃないか”とか言われてる・・・まさかそんなわけないよね?」
菜都は香織から口止めされたため、何も言えなかった。
「そ・・・そうなんだ。何で入院したんだろう・・・ね?」
菜都の答えに彼女達は苛立ちを隠せなかった。
「本当のことを言ってよ!!!」
「そう言われても・・・。」
彼女たちが気の毒に思えたが軽い気持ちで言うことも出来ない。
困っているところに琉偉が人混みの中から現れる。
「菜都は知らないって言ってるだろ!」
「琉偉!」
一瞬たじろぐ彼女達だったが、集団の力で再び強気に戻る。
「ふっ、土田さんが知らないならこれ以上聞いても無駄ね。浜田と付き合ってるから、近藤君と仲良くしてても我慢してたけど・・・もう近藤君には近付かないで。」
菜都に対してただの八つ当たりだったが、言いたい事だけ言うと菜都の元から去って行った。
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