34 / 121
第2章
第34話 美癒と菜都
しおりを挟む光が消えて辺りを見渡すと、近藤君の姿はなくなっていた。
(【あの世】への扉はくぐってないはず。カンナのお父さんの時と同じ状況だ!)
「ふぅ、成功…したんだよね…?」
美癒は目を瞑って大きく深呼吸をした。
そして両手を万歳しながら、そのまま後ろに倒れ込むと、地面に倒れる直前に琉緒が美癒の身体を支えた。
魔法を使えば済むのに、慌てて近付いてきたようだ。
「おぉ琉緒クン、見た?私ちゃんとできたかな・・・?」
「・・・よくやった。無事【この世】に戻ってる。」
優しい顔をしながら教えてくれると、美癒は瞳いっぱいに涙を浮かべた。
「良かった・・・ふぇ・・・う・・・わあぁぁ・・・ヒック。折角堪えてたのに、涙が止まらないや・・・。」
「成功したんだから泣くなよ。」
「・・・だって!・・・だって・・・成功して本当に良か・・・よか・・・グーグースースーZZZ」
「・・・は?(笑)」
この状況で美癒は眠ってしまった。
「信ッッッじらんねェ!!!」
呆れた琉緒の背後にジンが近寄る。
「ははは、美癒ちゃんは面白いねぇ。」
「力抜けるわー・・・。」
「結果としては彼が助かって良かった。琉緒も・・・口出し・手出しせずによく我慢したね。」
ジンの瞳も微かに潤っているように見える。
「は?言っとくけど、俺はお前が何を考えてるのか意味が分からねぇ。」
「もちろん、僕が琉緒にした事を考えると信用を失って当然。だけど琉緒に身体を返したい気持ちは本心だ。僕が琉緒の身体に入るつもりもない。ここですべきことがあるからね。」
「はいはい、お偉いさんは任務で大変ですねぇ。」
「ははは…。」
ジンの言葉を、琉緒は相変わらず信じる事ができずにいた。
そして今、ジンが悲しそうに笑ったことにも気付かないフリをした。
パチンッ・・・
ジンが指を鳴らすとミチルがやって来た。
「あれ?まだ扉を通ってませんよね??対象者はどこへ行ったのですか?」
ミチルが辺りを見渡しながら不思議そうに聞く。
「対象者は【この世】に戻ったよ。」
「・・・最近も対象者が【この世】に戻ったことがありましたよね?それもジン様が関わっていたと聞いています。そのような勝手な事をされてはーー」
「僕が判断した事だ。報告書にはありのままを書けば良い。だが、この事は口外するな。口出しもするな。・・・分かったか?」
ミチルの話を遮って強い口調で警告する。
表情も今までに見たことがないくらい恐ろしかった。
「は・・・はい!!」
ミチルは自分が正しい事を言っていると思いつつも、それ以上問うことができなかった。
「以上をもって終了、だ。それじゃあお疲れ様。」
ジンがミチルの肩をポンポンッと軽く叩くと、ミチルは一礼して去って行った。
「僕が美癒ちゃんを抱っこしようか?」
琉緒の方を向いたジンは、いつもの笑顔に戻っていた。
「だまれ、この鬼。」
「ははは、疲れてるだろうから早く連れて帰ろう。」
2人は美癒を起こすことなくそのまま部屋まで運び布団に寝かせる。
琉緒は当たり前のように美癒の部屋に居座るが、ジンも同じく美癒の部屋で寛いでいた。
「美癒が失敗してたら、どうしてたんだ?」
「失敗しないよ。」
「すげぇ自信だな。」
「琉緒は美癒ちゃんを信じてなかったの?」
「信じるも何も…すげぇプレッシャー背負ってたからな。普段できることだって失敗することはある。」
「バカ言うなよ。僕はそんなにギャンブラーじゃない。僕にとっても彼には助かって欲しいと思っていたからね。」
「そーかよ。」
「それに彼に会えば美癒ちゃんの記憶が戻ると思ったけど、さすがだ。」
「いや違う。美癒は近藤に会う前から記憶が戻ってた。」
「そんなまさか・・・!?いつ思い出したんだ?」
「お前になんか教えてやらねー!それより美癒と2人で話したい事って何だったんだ?」
「・・・『美癒ちゃんと2人で話したい』って言った事を、琉緒に教えるわけがないだろ。」
「チッ。」
「僕も疲れたから、このまま寝させてもらうよ。」
「はー?なに当たり前のように居座ってんだよ。」
「琉緒に追い出す権利は無いだろ。」
「大いにある!」
「・・・ZZZ」
「くっそ。」
ジンが勝手に居座って眠りについた事に腹を立てながら、琉緒は美癒に近付いた。
美癒は深い眠りについて、夢の中だ。
懐かしく感じる、【この世】の思い出が溢れる幸せな夢をーーー・・・。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです
gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる