かたつむり

P.12

　
　バイオリンのフォルムも黄金比で出来ている。チェロやコントラバス、ギブソンのレスポールもほぼ。高校時代、反町の担当するコントラバスに惹かれたのは、あの吹奏楽部を構成していた楽器の中で、最も解り易い、目立つ位置に存在した黄金比だったからではなかろうかと推察する。ヘッドのかたつむり的装飾も同じだ。
「あ、今度の土曜日のイベント、友達連れてっていいですか？」
「うん、是非。チケット捌くの大変みたいでさー。一人でも連れて来てくれると助かる。無理言うけど」
「和食の店で弦楽器の調べって企画自体好きだから、俺は全然。楽しみにしてます」

　反町は今もコントラバスを弾いている。大学卒業後こっちに帰って来て、家業の製麺所を手伝いながら。時々演奏会に呼ばれる程度であくまで趣味、それで飯を食って行ける訳じゃないって言うけど。
　さっさと剣道を辞めた俺と違って、中学からずーっと、一つの事を続けられる反町は偉いと思う。

　パソコンの壁紙のアンモナイト。黄金比で出来た化石。俺の恋心も化石化し、『友達』の枠からはみ出る事はない。

　でもそれでいいと思う。