亡くなった王太子妃

沙耶

文字の大きさ
上 下
21 / 21
番外編

前世と来世

しおりを挟む







「ん……」

「フィリア様、起きましたか?」

ふわふわの柔らかなベッドの上でフィリアがゆっくりと目を開けると、そこには昔騎士だっだエドワードが隣で微笑んでいた。

「おはようございます」

「おはよう…」

エドワードはフィリアのまだ眠そうな瞼に優しくキスを落とす。

「様はやめてって言ってるのに……」

「すみません、つい癖で……」

フィリアが唇を尖らせると、彼は困ったように眉を下げる。

エドワードは時々昔のような口調で話す。フィリアは別にそれは嫌ではないけれど、他人行儀みたいで少し寂しい。

「んー?ママ?パパ?」

エドワードとフィリアの間で可愛い我が子が目を覚ます。うるさくしてしまっただろうか。でもそろそろ起きる時間だ。

「おはよう」
エドワードとフィリアの声が重なり、二人は顔を見合わせるとクスリと笑った。

それを見てフィリアに似た娘もふにゃりと笑う。

「ママ、パパ、おはよう。赤ちゃんもー!」

そう言うと、娘はフィリアのお腹にちいさな耳を当てる。

「あー!動いた!赤ちゃんも起きてる!」

娘は嬉しそうにキャッキャと口に手を当て無邪気に笑う。その愛らしい姿にフィリアとエドワードは口元が緩んだ。

「二人とも、起きてる?」

娘は小さな首を傾げてフィリアを見上げた。

「そうね、起きてるみたい」

すると娘はパァッと満面の笑みを浮かべて、くふふと笑った。

「もうすぐ会えるね!」

「そうね」

フィリアは優しく微笑みながら、娘の頭を優しく撫でた。

それをエドワードは穏やかな笑みを浮かべ見守ってくれている。

フィリアは今世がまるで夢みたいで、何度も泣きそうになった。

その度にエドワードがフィリアに現実だよ。と言うようにフィリアの願いを全て叶えてくれる。

愛おしい家族ができるなんて。また愛する人と出会えるなんて。

まるで奇跡のようだ。

今世では前世で出来なかった、愛する家族とたくさん過ごしていきたい。

それはフィリアにとって尊くて、幸せな毎日だった。

















その日、真っ暗になった夜、エドワードはフィリアをいつもの湖に連れてきてくれた。

侍女から今日は星がたくさん降る日と聞いたフィリアが、エドワードに「近くで見たい」とお願いしたからだ。

屋敷からより、この森から見える星が一番近いとエドワードは考え、フィリアを連れてきてくれた。


彼はこうして毎日ずっと傍にいてくれて、フィリアが喜ぶことをたくさんしてくれる。

それは小さなことから、大きなことまで。

フィリアの笑顔がエドワードの幸せだとでもいうように、フィリアにたくさんの笑顔を届けてくれる。





「きれい……」

キラキラと、満天の星がひろがっている夜空に、フィリアは感動して瞬きもせずにじっと見つめた。

フィリアから見える、色とりどりの星たちはとても楽しく、美しかった。

「今日は一番星が綺麗に見える日だそうです。流れ星がたくさん流れるので、願い事をすると叶えてくれるそうです」

「まあ、素敵ね……」

「はい」

エドワードもフィリアと同じように空を見上げ柔らかく微笑む。

流れゆく星たちを二人で眺めていると、フィリアはなぜだか切ない気持ちになった。

星は輝いているが、流れ星はまたたくまにフィリアの目の前から消えていく。

それはあっという間のできごとで、その儚い命に、フィリアの胸が震えた。

暖かな腕に抱きしめられたまま、フィリアがエドワードを見上げると、エドワードも切ない表情をしていた。

「……エドワード、私、幸せよ」

フィリアは彼の日に焼けた頬にそっと繊細な指先でふれると、そのふれた頬に、キスを落とした。

エドワードは驚いたように目を丸くしている。

「エドワードは幸せ?私、こんな状態だけれど、ちゃんとエドワードを幸せにできている?」

フィリアはすこし心配そうに声を落としながら、エドワードから視線を逸らし、キラキラと輝く星空を見上げた。

「もちろんです。毎日が夢のようで……フィリア様の幸せが、自分の幸せですから……」

エドワードはフィリアを包み込むように抱きしめた。

力の入っていない優しい抱き心地に、フィリアはきゅうっと胸が苦しくなる。

フィリアに色彩の区別はできないが、彼はいつも淡い色の優しい光を宿していた。

「フィリア様、愛しています」

フィリアはその言葉に驚きエドワードの顔を見上げると、彼の顔は真っ赤に染まり、フィリアの様子を伺うような瞳で見下ろしていた。

彼は勇気を振り絞って言ってくれたのだ。

かわいい……

彼は優しさに包まれている。

フィリアの光……星のように眩しい、光……

エドワードの眩しさに目を細め黙っていると、余計なことを言ってしまったと思ったのか、彼の真っ赤な顔が真っ青に染まっていく。

そんな彼の唇の端にフィリアがキスをおくると、エドワードは固まり、また頬が真っ赤に染まった。

「私も、愛してるわ……ずっと……」

フィリアが囁くように呟くと、エドワードはフィリアをそっと優しく抱きしめてくれた。

「フィリア様……」

少し涙声の彼にフィリアも瞳が潤んでくる。

彼の傍にいたい。もっと、ずっと一緒にーー。

フィリアは流れゆく星に願った。

もし生まれ変われることができるなら、どうかまた彼に出会えますように。

どんな形でも、いいから……

フィリアは彼の暖かな胸に頬を寄せ、トクトクと鳴る心臓の音を聞きながら、目を瞑った。


二人の幸せを願うように、満天の星空がいつまでも光り輝いていた。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた

ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。 夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。 令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。 三話完結予定。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する

ツカノ
恋愛
「こんな形での君との婚姻は望んでなかった」と、私は初夜の夜に旦那様になる方に告げられた。 卒業パーティーで婚約者の最愛を虐げた悪役令嬢として予定通り断罪された挙げ句に、その罰としてなぜか元婚約者と目と髪の色以外はそっくりな男と『白い結婚』をさせられてしまった私は思う。 それにしても、旦那様。あなたはいったいどこの誰ですか? 陰謀と事件混みのご都合主義なふんわり設定です。

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

魅了から覚めた王太子は婚約者に婚約破棄を突きつける

基本二度寝
恋愛
聖女の力を体現させた男爵令嬢は、国への報告のため、教会の神官と共に王太子殿下と面会した。 「王太子殿下。お初にお目にかかります」 聖女の肩書を得た男爵令嬢には、対面した王太子が魅了魔法にかかっていることを瞬時に見抜いた。 「魅了だって?王族が…?ありえないよ」 男爵令嬢の言葉に取り合わない王太子の目を覚まさせようと、聖魔法で魅了魔法の解術を試みた。 聖女の魔法は正しく行使され、王太子の顔はみるみる怒りの様相に変わっていく。 王太子は婚約者の公爵令嬢を愛していた。 その愛情が、波々注いだカップをひっくり返したように急に空っぽになった。 いや、愛情が消えたというよりも、憎悪が生まれた。 「あの女…っ王族に魅了魔法を!」 「魅了は解けましたか?」 「ああ。感謝する」 王太子はすぐに行動にうつした。

処理中です...