亡くなった王太子妃

沙耶

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17 消えた未来

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ようやく屋敷へ帰ると、弟のリチャードが僕を待っていた。

こんな時刻に居るとは……。

辺りはもう真っ暗だ。

「兄上、どこへ行っていたのですか?待ちくたびれましたよ」

「あ、ああ……ちょっとな…… 」

目を細め鋭い視線を投げかけるリチャードに、僕は曖昧な返事をした。

「フィリア様のところへ、行っていたのですか?」

ギクリ、とした。

だが僕はどうしても納得がいかなかった。

「……駄目なのか?」

僕の言葉にリチャードはわずかに目を見開くと、激昂したように怒った。

「駄目に決まっているでしょう!契約を忘れたのですか!」

「何故だ?何故、駄目なんだ?僕はフィリアを愛しているんだ。
フィリアを一番愛してるのは僕だ!!フィリアを幸せに出来るのも僕だけだ!!」

ずっと心に溜め込んでいたことを口に出して叫ぶと、じわりと涙が浮かんだ。

今度こそ、僕は間違えない。フィリアを、笑顔にするんだ……ずっと、一緒に居て、二人で、幸せに……。

リチャードは、悲しそうに目を伏せた。

「幸せに、できなかったからフィリア様は毒を飲んだんじゃないですか……」

「……」

「フィリア様は、苦しくて、辛くて、毒を飲んだのですよ。忘れたのですか…?兄上のせいですよ」

「……っ」

「フィリア様の手足が使えなくなったのも、声があんなになったのも、全部、兄上のせいです」

「………っ」

「フィリア様を幸せにすると誓ったのに、不貞をした、兄上のせいです。今のフィリア様は、全て兄上が原因なんです。それでも、フィリア様を幸せにできると思っているのですか?フィリア様の笑顔を、人生を奪ったのは、兄上なんですよ?」

「……うっ」

胸を抉られるような鋭い痛みが僕を襲う。

息が苦しい。ボロボロと、ボロボロと、大粒の涙が床に落ちていく。

リチャードの言葉は全て正しかった。

僕が、フィリアの笑顔を、彼女のこれからの人生を、奪ったんだ。

僕と一緒に生きることを、フィリアは拒否した。だから毒を飲んだ──。

それでも……僕はどうしようもなくフィリアを求めてしまう……
どうしても、彼女の傍に居たいと、願ってしまう……

「うっ……っ」

唇を噛み締めながらボロボロと涙を溢していると、リチャードは僕にハッキリと告げた。

「もう兄上がフィリア様と一緒になることはありません。ずっと、この先も。永遠に。」

その言葉に目を見開くと、またボロッと涙が溢れた。

「うっ……ああああ……っ」

抑えきれない声が漏れ、僕の泣き叫ぶ声が屋敷中へと響き渡る。

リチャードはそれをただ悲しそうにじっと見つめていた。

























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