亡くなった王太子妃

沙耶

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8 廃嫡

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「酷い顔だな」

「すみません」

ぽたぽたと涙を流しながら現れた僕に、父上は顔を顰め、母上は不快そうに扇子を広げ顔を隠した。

二人は全てを知っているのだろう……

「何故呼ばれたか、分かるな?」

「はい」

死ぬ覚悟は出来ている。フィリアの元へ行けるなら本望だ。
僕は涙を流しながらも、父の顔を真剣に見つめた。

「お前は廃嫡とする」

「は、廃嫡、ですか?」

「何だ、不満か?」

「いえ、処刑かと思っていたので……」

父上は驚き、目を丸くする。

「何故そう思った?」

「フィリアが殺されたのは、僕のせいでもあるので」

「では何故不貞をしたのじゃ!!」

母上は我慢ならないように扇子を折り曲げ、僕を責めた。

「……僕の、過ちでした」

怒りに顔を染めた母上に、父上はやめろと言う。だがその父上も、軽蔑した目で僕を見下ろしていた。

「本当に残念でならん……だが死ぬことは許さん。死んで逃げるな。フィリアもそれを望んでいるだろう」

『死んでも許しません』

フィリアの最後の言葉だ。

フィリアの元へ行くのは、許されないのか……

生きて、償えと……

「お前には公爵位を与える。領地もな」

「僕に、公爵位を…?」

「殺したのはシェリールだ。お主ではない。フィリア以外の妻を娶りたくない王太子は、自ら臣下に落ちることにした。と貴族たちには告げよう」

「……僕は、王家の恥なんですね」

「その通りだ。不貞したことは隠し通さなくてはならぬ。そなたとフィリアは貴族たちにとって理想の婚約者であり、夫婦であったからな。公爵家へも咎がいかないようにしたい」

「公爵は、納得しておられるのですか?」

「当然だ。表向きには姉妹は事故死と発表する。茶会で参加した令嬢たちにも箝口令を敷いてある。王太子妃が妹に毒殺されたという醜態を避けなければならない。あの姉妹は社交界でも仲が良いと有名だったからな」

僕はフィリアのいない今、皆にバレて責められ殺されても良かった。だがバレてしまうとイメージの良かった僕たち、王家、そして公爵家も糾弾されてしまうか……

「……拝命いたします」

うむと納得したように父上は頷く。

「お前の教育を、私達は間違えたか……」

「申し訳ありません……」

失望する父上に、僕は謝ることしかできない。

「明日にでも、領地へ行くが良い。グレアム公爵」

グレアム公爵。それが僕のこれからの名か……

「陛下、私はフィリア以外の女性と結婚する気はありません。跡継ぎは出来ませんので、しばらくしたら爵位は返上することになります」

「そうか……」

それだけだった。もう僕には何も言うことがないのだろう。

父上も、母上も、僕に失望し軽蔑している。

「本当に、申し訳ありませんでした…今後は臣下として…支えます」

支えられるのだろうか?フィリアが隣にいないのに……また泣きそうになるが、陛下の前で臣下が泣くわけにはいかない。ぐっと奥歯を噛み締め我慢する。

「それでは、失礼いたします」

国王陛下と王妃陛下に臣下の礼をし、下がろうとした。

「そなたはフィリアを、本気で愛していたのか?」

部屋を出て行こうとすると、母上の震える声が聞こえ、僕は哀しくも笑った。

「愛していました。誰よりも、何よりも……信じてもらえないかもしれませんが」

パタンと扉を閉める。扉の向こうから、母上の泣いている声がした。
またポロポロと涙が溢れる。

何もかも、失ってしまった。

大切だったもの、全て。

僕自身の、せいで……

フィリア……

例え君が居なくても、君を想い続けることは、許してくれるだろうか。
































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