亡くなった王太子妃

沙耶

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4 王太子

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フィリアが殺された。しかもフィリアが可愛がっていたシェリールに。

「ああフィリア…フィリア……」

君が死んだと聞いてから、心にぽっかり穴が空いたようだ。

君の優しい笑顔、澄んだ声、僕の腕の中に収まる華奢な体……彼女の愛らしい仕草を一つ一つ思い出しては、眼が熱くなる。

フィリアから貰ったハンカチを握りしめていると、扉のノック音がした。

「王太子殿下、少し宜しいでしょうか?」

「ああ……」

返事をすると扉が開き、騎士団長と騎士たちが部屋へ入ってくる。

「何事だ?」

「妃殿下のことでお話があります」

「何だ?」

僕はソファーへ座り騎士団長にも座るよう促すと、礼をして腰掛けた騎士団長は僕に鋭い視線を投げかけた。

「妃殿下が妹のシェリール嬢に毒殺されたことはご存知ですね?」

「ああ……」

フィリアはあんなに可愛がっていたシェリールに毒を盛られた。
血を吐いて、医師を呼び、茶会を主催した母上が王妃の宮で治療していたが、亡くなってしまった。

亡くなってすぐにフィリアの死体は埋葬された。すぐ埋葬しなければならないほどフィリアの体は毒に侵され、見るに耐えないほど酷かったらしい。
父上と母上、フィリアと仲が良かった侍女たちが丁重に埋葬したと聞いた。

僕は、最後までフィリアに会えなかった。

僕は夫なのに何故だ?何故会えない?何故見送らせてくれない?何度も訴えたがその時母上に言われた言葉が、毎日頭をよぎり僕を苦しめる。

『貴方に会う資格はありません』

ドクンと心臓が跳ねた。

母上は何かを知っているのではないかと、冷や汗が出た。

今僕の目の前にいる騎士団長も、あの時の母上と同じ目をしている。

「殿下は、妃殿下を愛しておられましたか?」

「当たり前だ」

「では、シェリール嬢とはどのような関係で?」

僕の背中にまた冷たいものが流れていく。

……全て知られているんだな。そう思ったが、認めることは出来なかった。

「ただの義妹だ」

「……妃殿下の親友を、ご存知ですか?」

「ああ、オッターソン侯爵令嬢だ」

騎士団長は頷き、僕に探るような視線を向ける。

「令嬢が仰っていました。妃殿下は、悩んでおられたと」

「な、何に……」

「これを」

騎士団長はスッと手紙を差し出す。

「殿下への手紙です。オッターソン侯爵令嬢が預かっていたようです。開封はされていません」

僕は震える手で手紙を手に取り、開封する。嫌な予感がした。

ドクドクと早くなる鼓動と身震いする体を押さえつけ、平常心を装う。

だが手紙を見た瞬間、その仮面も崩れた。

「あ……」

目を見開き、口を開け、信じられない目でその手紙を握りしめる。
ブルブルと体が震える。

知っていた。知っていたのかフィリアは……。
まさか全てを知っていて、あの毒を飲んだのか。

「死んでも許しません」

それだけしか書かれていない、手紙。

愛するフィリアの字を、何度も見たフィリアの美しい字を、僕が間違えるはずがない。

騎士たちはそんな僕の様子を、軽蔑した目で見ていた。

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