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8 アベールの本音
しおりを挟むお母様は私に手紙を差し出してきた。
「アベール公爵令息からよ」
私は手紙を開封する。そこには彼の懺悔が書かれていた。
「ガーネット、すまなかった。愛しい君と会えなくなり辛い日々を送っている。何度も君が行きそうな店に行ったり、伯爵の屋敷にも足を運んだがいつも誰かに邪魔をされて君に会えないんだ。俺らの愛を邪魔するなんて許せないと思わないか?だからガーネットが俺に会いに来てくれないか。十二月二十四日十時に君の好きなカフェmarvelで待っている」
手紙を読み終えると、ガーネットは恐怖に震えた。
「コイツ気持ち悪いわよね」
「え?」
お母様が、コイツだなんて……。私は聞き間違えかと思い目をぱちくりさせた。
「実はね、ガーネットに渡さなかっただけで手紙は毎日来てたのよ。最初はね「お前がどうしてもって言うならまた婚約してやる!」ていう最低な内容だったのだけれど、ガーネットに会えなくなるに連れて段々と気持ち悪い内容に……」
「そう、ですか。さっきアベール様の恋人、マリア様とお会いしたのですが彼女も気味の悪いよく分からないことを仰ってましたわ」
「それも聞いていたわ。あ、そうだわ。これね」
お母様は私にもう一通手紙を差し出す。私はそれを受け取り恐る恐る開封する。
今度はどんな気持ち悪い内容なのかしら。覚悟を決めて読む。
「ガーネット、マリアのことで怒ってるんだよな?お前が気にすることはない。アイツは偽の恋人だ。アイツはフィリップという婚約者を振り向かせたい、俺はお前から嫉妬されたい。互いの意見が一致したから一緒に過ごしていただけだ。俺はお前が縋り付いてくると思っていたんだがお前のプライドが邪魔したか。心配するな、俺が結婚するのはお前だけだ」
……気持ち悪いわ。
私は真っ青な顔でお母様を見る。母は心配そうに私を見ていた。
「ごめんねガーネット、気持ち悪いものを見せてしまって。この手紙を見せたのはアベールが何かしてくるかもしれないからあなたに気をつけてほしいと思って。今は護衛の騎士も増やしてるし、あなたに近寄らせないよう徹底してるけど、人間危機が迫ると何をするか分からないからね」
「分かりましたわ。気をつけます」
こくこく、と私は必死に頷く。
「アベールは廃嫡になるわ。公爵と公爵夫人が決めたの」
「えっ」
「後継は弟になるそうよ」
「平民になるのですか?」
「そうよ。王妃殿下に相談したところ、平民になってもガーネットに危害を与えそうだから隣国の平民にするそうよ」
「そ、それは国外追放では……。アベール様は納得しているのですか?」
「してないから問題なのよねぇ。一応隣国との手続きが終わるまで屋敷に閉じ込めてはいるらしいんだけど。アベールってまだ何かしでかしそうよね?手紙だって公爵が止めてるはずなのに何故か届くのだもの」
「そ、そうですか……」
情報が一気に押し寄せてきて私は少し混乱すると同時に驚いた。
公爵夫人はアベールをとても可愛がっていたのに国外追放だなんて。お母様は王妃殿下と学生からの親友だから何か言ったのかしら。
お母様をちらっと見ると、にこりと笑った。あ、なんか言ったみたいねコレは。
「マリア令嬢は、修道院行きかしらねぇ」
「……二人は愛し合ってると思っていましたが」
「う~ん……そうねぇ……」
お母様は悩むように頷いた。私に何かを言おうとしたけど言わない方がいいと判断したのかもしれない。
「ごめんね、あんなクズを婚約者にしてしまって。夫はまだ高位貴族に嫁がせたいみたいだけど、今度の婚約者はあなたが選びなさい」
「私が決めていいのですか?」
「もちろんよ。あなたの人生だもの」
お母様の言葉に、私は心が軽くなった。
私が決めていい。
そう思ったら、フィリップ様の顔が浮かび、頬が熱くなる。
「あらぁ~もう決まっているのかしら?」
お母様は全てお見通し。というように、にこりと微笑んだ。
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