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4 待ち伏せ
しおりを挟む婚約破棄してから一月、ガーネットはようやく落ち着いた生活を取り戻していた。
アベールは毎日手紙や贈り物を送ってきていたが、全て送り返していたのが幸いしたのか数日でこなくなった。
アベールの奇妙な行動に不気味さを感じたものの、もう関わりたくないと思ったガーネットは、父に全て任せた。
アベールと接する機会がなくなり、ガーネットは友人とカフェでお茶したり、本を読んだりして充実した生活を送っていた。
今日は友人と街で買い物し、屋敷でお喋りする予定だった。
「ガーネット!!!」
屋敷に帰る途中、突然後ろから声が聞こえた。
?空耳かしら。アベール様の声がしたわ。
「おい!!ガーネット!!」
えっ、まさか……。
空耳であってほしいと思っていたが、振り向くとアベール様がいた。
私にどんどん近付いてくる。
アベール様の顔が怒りに染まっていて怖い。
「ひっ」
私が恐怖で友人にしがみつくと、友人リリアナが私の前に出る。
「何ですのあなたは!」
「な、何ってガーネットの婚約者だが?」
「ガーネットは婚約破棄したばかりで婚約者はいません!」
「これからまた婚約者になるんだよ!」
この人は何を言っているんだろう?意味がわからないわ。
友人に迷惑をかけるわけにもいかず、私は落ち着いてアベール様に話しかける。訳の分からない恐怖に心臓がドキドキしていた。
「アベール様、私たちは婚約破棄をしました。今後婚約者になることはもうありません。アベール様が何を考えているのかよく分かりませんが、付き纏わないでくださいませ」
ぺこりとお辞儀をして友人を引っ張り急いで屋敷に戻る。
少しだけ振り返るとアベール様は呆然と立ちすくんでいた。
「あいつがアベール様?元婚約者の?」
「そうよ。婚約破棄したのにどうして私の前に現れるのかしら」
「……手離してから、愛に気付いたのかな?」
「ええっ!冗談でしょ?」
「冗談であってほしいよね」
リリアナは真剣に考え込む。
「とりあえず何処に行くのも護衛をつけた方がいいかも」
「リリアナと一緒でも?」
リリアナは剣も弓も使えてとても強い。男性を相手に一人で十人切りしたこともあるらしい。かっこいい。
「そうね、念のためにつけましょう。いざとなったら警備隊も呼んでもらうことになるかもしれないし」
「えっ、そこまで?」
「うん、だって付き纏いはストーカーだよ?今回だけならまだしも何回もあったら危ないし」
アベール様に何度も付き纏われることを想像すると、私は恐ろしくて身震いした。
「そうする。リリアナありがとう!」
「いいよ~。それより来週は私の屋敷に来るでしょう?」
「うん!」
「兄様がガーネットに会わせろって煩いんだよ」
「フィリップ様が?」
「うん。でも兄様も婚約破棄したばかりだけど、会うの嫌じゃない?」
「嫌じゃないよ」
「そっか。兄様も喜ぶよ」
安心したように笑うリリアナに、私は微笑む。
フィリップ様は確かアベール様の恋人、マリア様と婚約していたのよね。
私は婚約破棄できて嬉しかったけど、フィリップ様は大丈夫かしら?
フィリップ様とは久しぶりに会う。昔はよくリリアナと一緒に三人で遊んでいたけど、お互い婚約してから会わなくなった。
久しぶりに会えるフィリップ様に、なぜか私の心は踊った。
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