あなたの子ではありません。

沙耶

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20 四年後

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翌年のほがらかな春の日、アナスタシアは元気な男の子を出産した。

痛みを乗り越え産まれた命は愛らしくて、アナスタシアは涙が溢れた。

産まれてきた子は王族の色を持ち不安を抱いたもの、それ以上に小さな体で元気いっぱい産声をあげる我が子に、アナスタシアは愛おしい気持ちで胸がいっぱいになった。

「産まれてきてくれてありがとう……」

壊れそうなほど小さな体を優しく抱くと、アナスタシアは柔らかく微笑む。

(この子を一生大切にしよう……)

そう思った瞬間だった。











∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



「おかあさまー!」

「ローレンス、どうしたの?」

「ほら見てください!ことりさんがいます!」

屋敷裏の森で散歩をしていると、ローレンスは一つの木に指を指し小鳥を見つけた。

「ふふ、可愛いわね」

「はいっ」

ローレンスは嬉しそうにはしゃぎ、森を駆け回る。

森の日差しがローレンスの金色を輝かせ、笑顔ではしゃぎながら走り回るローレンスは、まるで天使のようだった。

アナスタシアはそんな我が子を愛情に満ち溢れた眼差しで見つめる。


この四年、様々なことがあった。

王都ではレベッカ様が王妃になられて、陛下との子供が二人できた。

王太后陛下は三年前に亡くなられてしまった。体を壊し療養されていたようだが、儚くなってしまった。

デヴィッドは三年前異国へ留学した。侯爵閣下に言われ留学したそうだが、元々異国が合っているデヴィッドはすぐに馴染み楽しんでいるようだ。そこに住みたいと思うほどに。

あの日からデヴィッドとは会っていないが、手紙は公爵家に届く。アナスタシアはそれに時々だけ返事を書いていた。

セドリックのことは離縁してからはよく知らない。兄が積極的に話してくることもなかったし、アナスタシアも口にすることはなかった。
ただまだ王太子であること、王太子妃は迎えていないことだけは、兄から聞いていた。


ローレンスはもうすぐ四歳になる。

日に日にセドリックに似てくるローレンスに、アナスタシアは不安を覚える。

王家が調べにくることも、新しい人が来ることもない小さな田舎の領地で、誰にも知られずに安心して過ごしていた。

だがアナスタシアはこのまま此処に居ていいのかと思い始めてきた。ローレンスがこのまま成長すれば、隠すことができなくなるかもしれないのに。


セドリックがアナスタシアの元へ訪れたのは、そんな時だった──。
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