21 / 32
20 四年後
しおりを挟む翌年のほがらかな春の日、アナスタシアは元気な男の子を出産した。
痛みを乗り越え産まれた命は愛らしくて、アナスタシアは涙が溢れた。
産まれてきた子は王族の色を持ち不安を抱いたもの、それ以上に小さな体で元気いっぱい産声をあげる我が子に、アナスタシアは愛おしい気持ちで胸がいっぱいになった。
「産まれてきてくれてありがとう……」
壊れそうなほど小さな体を優しく抱くと、アナスタシアは柔らかく微笑む。
(この子を一生大切にしよう……)
そう思った瞬間だった。
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴
「おかあさまー!」
「ローレンス、どうしたの?」
「ほら見てください!ことりさんがいます!」
屋敷裏の森で散歩をしていると、ローレンスは一つの木に指を指し小鳥を見つけた。
「ふふ、可愛いわね」
「はいっ」
ローレンスは嬉しそうにはしゃぎ、森を駆け回る。
森の日差しがローレンスの金色を輝かせ、笑顔ではしゃぎながら走り回るローレンスは、まるで天使のようだった。
アナスタシアはそんな我が子を愛情に満ち溢れた眼差しで見つめる。
この四年、様々なことがあった。
王都ではレベッカ様が王妃になられて、陛下との子供が二人できた。
王太后陛下は三年前に亡くなられてしまった。体を壊し療養されていたようだが、儚くなってしまった。
デヴィッドは三年前異国へ留学した。侯爵閣下に言われ留学したそうだが、元々異国が合っているデヴィッドはすぐに馴染み楽しんでいるようだ。そこに住みたいと思うほどに。
あの日からデヴィッドとは会っていないが、手紙は公爵家に届く。アナスタシアはそれに時々だけ返事を書いていた。
セドリックのことは離縁してからはよく知らない。兄が積極的に話してくることもなかったし、アナスタシアも口にすることはなかった。
ただまだ王太子であること、王太子妃は迎えていないことだけは、兄から聞いていた。
ローレンスはもうすぐ四歳になる。
日に日にセドリックに似てくるローレンスに、アナスタシアは不安を覚える。
王家が調べにくることも、新しい人が来ることもない小さな田舎の領地で、誰にも知られずに安心して過ごしていた。
だがアナスタシアはこのまま此処に居ていいのかと思い始めてきた。ローレンスがこのまま成長すれば、隠すことができなくなるかもしれないのに。
セドリックがアナスタシアの元へ訪れたのは、そんな時だった──。
69
お気に入りに追加
5,449
あなたにおすすめの小説
あなたと別れて、この子を生みました
キムラましゅろう
恋愛
約二年前、ジュリアは恋人だったクリスと別れた後、たった一人で息子のリューイを生んで育てていた。
クリスとは二度と会わないように生まれ育った王都を捨て地方でドリア屋を営んでいたジュリアだが、偶然にも最愛の息子リューイの父親であるクリスと再会してしまう。
自分にそっくりのリューイを見て、自分の息子ではないかというクリスにジュリアは言い放つ。
この子は私一人で生んだ私一人の子だと。
ジュリアとクリスの過去に何があったのか。
子は鎹となり得るのか。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
⚠️ご注意⚠️
作者は元サヤハピエン主義です。
え?コイツと元サヤ……?と思われた方は回れ右をよろしくお願い申し上げます。
誤字脱字、最初に謝っておきます。
申し訳ございませぬ< (_"_) >ペコリ
小説家になろうさんにも時差投稿します。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。

二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる