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しおりを挟む祖父が住んでいる領地は、空気が澄み渡る自然豊かな場所で、夜になると満点の星空が光り輝き、アナスタシアはその美しさに目を奪われた。
その美しい領地で、アナスタシアは自然の中を歩いたり、本を庭園で読んだり、ゆったりとした時間を過ごしていた。
兄は一週間領地にいたが、また来るとアナスタシアに微笑むと、公爵家へと帰っていった。
そしてその約束通り、一月後兄は再び訪れた。
部屋のソファに腰掛けた兄はアナスタシアを見ると、少し悩むそぶりを見せた。
しばらくアナスタシアをじっと無言で見つめたかと思うと、ようやく話し始めた。
「アナスタシア、離宮にいた侍女のことだが……」
「はい……」
兄の真剣な表情に、アナスタシアは息を呑む。
「すまない……何も分からなかった……」
「え?」
「すまないな……」
「いえ……」
兄の申し訳なさそうな表情に、アナスタシアは眉を下げ微笑む。
「分からなかったということは、知らなくてもいいことだったのです。それに私はもう、過去は振り返らずに前を向いていこうと思います」
「そうか……」
アナスタシアの凛とした真っ直ぐなスカイブルーの瞳に、ここ一月、妹は穏やかに過ごせたんだなとレジナルドは嬉しくなり、目を細めた。
実の所、レジナルドは調べてはいたが、調査の段階でセドリックから呼び出しがかかった。セドリックはレジナルドを見るなり、深く険しい表情をした。
「侍女を調べているらしいな」
「……いけませんか?」
レジナルドはセドリックが邪魔するとは予想していたが、こうもハッキリと告げてくるとは思っていなかった。
セドリックは無表情のまま口だけ動かした。
「もう居ない人間を調べるな」
レジナルドは固まり、言葉を失う。
居ない人間──。
「それはどういう……」
「………」
レジナルドはその先に踏み入ることは出来なかった。セドリックの顔があまりに苦痛に歪んでいたから。
セドリックはレジナルドから顔を背け、窓の外を眺めながら聞いた。
「アナスタシアは元気か?」
「元気です」
「そうか……」
セドリックは小さい吐息のような声で呟いた。
アナスタシアのことについて、レジナルドの中にまだ怒りがあった。だからレジナルドは以前にも聞いた同じことを口にした。
「妹に、どうしてあんな仕打ちをしたのですか?」
「………」
「妹は、殿下を心から愛していたのですよ?」
「………」
セドリックは答えない。先日聞いたときもそうだった。
セドリックは何も言わないのだ。アナスタシアに聞いていたセドリックと同じだった。
「殿下は変わられましたね……」
「人は変わるものだ」
セドリックは吐き捨てるように口にした。
昔アナスタシアの隣で笑っていた頃のセドリックとは別人のようだった。
「アナスタシアに、何か言うことはありますか?」
「……何も、ない……」
「……アナスタシアに、会いたいですか?」
レジナルドは、なんとなく聞いてしまった。セドリックの声が少し震えていたから。
しかしセドリックは言ったのだ。
「もう二度とアナスタシアとは会わない」
と──。
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