あなたの子ではありません。

沙耶

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14 不可解

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ゆらゆらと馬車に揺られながら外の景色を眺めていると、アナスタシアは公爵家へ向かってないことに気付いた。

「お兄様、私たちは何処へ向かっているのでしょうか……」

「そうだな、お前にはいくつか話さなければならない」

「何でしょうか?」

アナスタシアが首を傾げて兄を見上げると、兄はフッと笑った。

「今向かっているのはメンジーズ伯爵家所有の領地だ」

「お母様の、ですか……?」

「ああ、離縁したことで父上が煩いからな。しばらくは田舎でゆっくりしたらいいさ。父上が落ち着いた頃に母上も会いにくるだろう」

兄は大きな掌をアナスタシアの頭に乗せ、慰めるように銀色の髪を優しく撫でた。

「ありがとうございます……」

兄と母の暖かい優しさが、じわじわとアナスタシアの心に沁み渡っていく。

「お父様とお母様は、お元気なのですか?」

(もう二年も顔を見ていない……)

「父上はまあ相変わらずだな。母上はアナスタシアの心配をずっとしていたから、お前の顔を見たら元気になるだろう」

俺みたいにな。と兄はまた優しく笑う。

するとふと深刻な顔つきになった兄は、アナスタシアの頭から手を離し、真剣な眼差しでアナスタシアを見つめた。

「アナスタシア、大事な話だ。さっきお前の話で殿下と愛妾の子供の話がでてきたが……」

「はい……」

「最初はその噂も確かにあった。だが国王陛下が自分の子だと発表した」

「……陛下の、子供だと……?」

アナスタシアは目を見開き、愕然とした。

「そ、そんなこと、あるはずが……レベッカ様は殿下の愛妾だと……」

兄はアナスタシアの言葉に頷く。

「表向きはそういう噂もあったのは確かだ。しかし裏で殿下は否定していたからな」

(どういうこと……?殿下は何一つ私に否定しなかった……)

「ですが離宮にいた侍女も、殿下とレベッカ様は愛し合っていると……」

「侍女が?」

「はい……毎回王宮の情報を話してくれるのです」

「それは同じ人物か?」

「いえ、三名いました。名前も覚えています」

「そうか……」

兄は険しい顔をして考えを巡らせていたが、アナスタシアは震える声で兄に問いかけた。

「それは、ほんとうに、陛下の子供なのですか……?」

「国の発表だから本当だ。それに陛下とレベッカ様を先日見かけたが、お互い想い合っているようだった……殿下の愛妾のようには到底見えなかったな」

「そんな……」

アナスタシアの心臓が激しく揺れ、心が乱れる。

(それが本当なら、私のあの時の気持ちは……?私の想いは……?
どうして傷付かなきゃならなかったの?どうして殿下はあんな事を言ったの?

彼はいつも、何一つ話してくれない……)

痛む胸を抑えながらじわじわと涙を浮かべるアナスタシアに、兄は更に続ける。

「アナスタシア、俺が昔話したことを覚えているか?」

「?」

「目に見えてるものが全てではない。人は時には本音を隠す。特に貴族はな」

「それは、殿下もですか……?」

アナスタシアは潤んだ瞳で兄を見上げた。

「多分な……。お前の話を聞いてると、何かあるのは確かだな……」

兄は考えるように顎に手を当てた。

「殿下が何故アナスタシアを離宮に閉じ込め外部からの連絡を絶ったのか、何故愛妾がいると言ったのかは不可解だが……お前にしたことは決して許されるものではない。どんな理由があろうとも、お前を傷付けていいことはないんだ」

「はい……」

アナスタシアの瞳からポロッと一粒涙が溢れ落ちると、兄は優しくその涙を拭い、窓の外を眺めた。

「ああ、もう着くな。詳しい話は屋敷でしようか……まだお前に話さなければならないことがある」

「はい……」

アナスタシアも窓の外の風景をぼんやりと眺めた。

兄の話を聞き、離宮と外の情報は全く違うのだとアナスタシアは思った。

アナスタシアは外部を遮断されていたのだ。
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