あなたの子ではありません。

沙耶

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12 別れ

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離宮を離れる当日、アナスタシアは王宮へ訪問した。

二日しか住むことのなかった王宮だが、昔よく過ごした場所に懐かしさを覚える。

国王陛下と王太后陛下にアナスタシアは最後の挨拶に訪れたが、急用ができたと従者に告げられるとセドリックの元へと案内された。


従者が応接室の扉を開けると、窓際に立っているセドリックがアナスタシアの目に映った。応接室の窓から入る日の光がセドリックを照らし、黄金の髪がキラキラと輝いて、そのまばゆさにアナスタシアの胸がきゅっと締め付けられる。

アナスタシアは腰を折り、洗練された動きでカーテシーをする。

「王太子殿下にご挨拶申し上げます」

「ああ……」

セドリックの黄金の瞳はアナスタシアの瞳を据えて、その熱い眼差しにアナスタシアは目を逸らすことができなかった。

彼の黄金の髪、瞳、目尻を下げて笑うところ、泣いているアナスタシアの手を力強く握ってくれたこと、優しく頭を撫でてくれたこと……

五歳からの愛おしい思い出の数々が、走馬灯のようにアナスタシアの脳裏に浮かんだ。

彼のことを想い、彼に振り向いてもらうために努力し、彼のために生きてきた十三年間だった。

(ずっと、殿下を愛していました……)

砕け散った恋心は、この王宮に全て置いていこう。

もう戻らないように……

「殿下、婚約者時代から今までありがとうございました。至らない妻でしたが、私は殿下と結婚できて幸せでした」

アナスタシアはセドリックの黄金の瞳を見つめ、ふわりと笑った。

彼に愛されなくて苦しかったけれど、愛する彼と結婚できて嬉しかったのも確かだった。

「アナスタシア……」

セドリックは顔をくしゃりと歪め、何かを言いたそうにしていたが、その口が言葉を紡ぐことはなかった。

「さようなら……」

アナスタシアはお辞儀をして、部屋を出ていく。

(もう、これで最後。私はこれからひっそりと生きていこう……)


王太子妃アナスタシアは、王宮から去った。

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